【スバル BRZ 800km試乗】“速さ”か“感性”か スポーツカーらしさとは何かを考えさせられる一台…井元康一郎

試乗記 国産車
スバルBRZ R
スバルBRZ R 全 16 枚 拡大写真

スバルとトヨタのコラボレーションによって生まれた2リットル・1.2トン級スポーツクーペ『BRZ』を800kmほどドライブする機会を得たのでリポートする。

【画像全16枚】

BRZは6月後半にマイナーチェンジを控えており、足回りなどに大幅な改良が施されるという。今回の試乗車はマイチェン前のモデルで、これが最後のインプレッションということになるだろう。試乗車は、中間グレード「R」の6速手動変速機。革巻きステアリング&シフトノブやアルミパッドペダルなどからなる「スポーツインテリアパッケージ」装着。ホイールはノーマルの16インチ径で、205/55R16サイズのヨコハマ「dB E70」というローコストモデルのタイヤを履いていた。大径フロントブレーキ、リアベンチレーテッドディスクブレーキ、トルセンLSD、加速重視のファイナルギアがセットとなったインチパフォーマンスパッケージは未装着。

試乗ルートは東京・葛飾を出発し、奥日光、軽井沢および群馬の武州山系を経由して東京に戻るというもので、総走行距離800.1km。うち高速・有料道路区間358.6km。全区間にわたって2名乗車、エアコンONという条件で運転した。

■まだ突き詰められるスポーツカー的「緊張感」

BRZは全高1320mmと、今日の乗用車としてはきわめて低いフォルムを持っているが、そればかりでなくフロアも限界まで低く設計されており、着座位置は相当に低い。乗り込むときは地べたに座るような感覚で、いかにもスポーツカーライクなパッケージングであることを意識させられる。

一旦乗り込んでしまうと、視界の取り方は乗用車そのもの。車高は低いがボンネット先端が限界まで下げられ、セダンのように路面を見切ることができる。メータークラスタ上面もボンネットフード下端より下に収められ、視界をいささかも遮らないように作られている。視界確保に格別のこだわりを持つスバルらしいレイアウトで、背の高いハッチバックモデルなどから乗り換えてもまったく違和感を覚えることはないだろう。

半面、ドライビングポジションを整えたときのスポーツカー的雰囲気は希薄。ドアミラーがアイポイントよりかなり低い位置にあったり、前述のようにフロントウインドウを通した前方視界がセダンと同じ構成だったりといった様々な要素が、背の高いクルマに乗っているような錯覚を引き起こさせる要因であろう。低さを実感するのは隣にクルマが止まった時で、『カローラ』に並ばれてもまるでSUVが隣に来たように感じられる。

今日はスーパースポーツカーであっても良好な視界を確保するのが当たり前という時代ではあるのだが、それでもスポーツカーにはそれらしい視界の取り方というものがある。BRZはトヨタへのOEMモデルに往年の若者御用達クーペ「AE86」をリスペクトした『86』の名がつけられていることが示すように、若者向けのライトウェイトクーペを作るというのが企画の発端となっているが、デザイン、パッケージングともにAE86のような乗用車派生クーペより上のクラスのスポーツモデルを志向した仕立てとなってる。次の企画では、その性格にふさわしい、質の良い緊張感の実現を研究し、さらに良いものを作ってほしいと思う次第だった。

■ワインディングでのコントロール性が光る

次にドライブフィール。BRZは長所と短所がそれぞれかなり明確な形で表れているクルマだった。

最も生き生きとするのは、タイトコーナーが連続する山岳路。国道299号線十石峠や奥日光などのワインディングで少々元気に走ってみたが、コントロール性はかなり良好だった。標準装着のタイヤはグリップ力があまり高くなく、ゆえに低い速度域でシャーシ設計やボディワークのレベルが推し量れるのだが、素性はかなり優れたものであると感じられた。

売りのひとつである低重心設計が効いているのか、コーナリングから抜け、ロールから水平状態に復帰する時のよれるような動きは、安価なスポーティカーとしては極小レベル。わざわざチューニングしなくても気軽かつ安全に攻め込むことができるだろう。また、試乗車にはオプションの大容量ブレーキが装着されていなかったが、車重が1200kg台前半と軽いこと、タイヤグリップが小さいことがプラスに作用するのか、下り坂でもブレーキが熱でタレるようなシーンは皆無だった。

BRZとトヨタ86は基本設計の大半を共有する兄弟モデルだが、セッティングは異なる。ワインディングにおいては両者の違いは歴然としていた。86のほうはトヨタ側のエンジニアも認めるように、意図的に少しバランスを崩してコーナリング時のリアの張り出しを強めることで、回頭性の高さを演出している。それに対してBRZのほうは前後のロールバランスが非常に良く、弱アンダーを保ったまま実に素直に曲がる。アドレナリンの誘発力が強いのは86、スポーツドライビングの洗練度が高いのはBRZというキャラクターだ。

惜しいのはステアリングフィールが少々デジタルライクで、ステアリングを通じて手に伝わってくる反力でクルマと対話する感覚が薄いこと。シートを通じたインフォメーションが豊かなので致命傷ではないが、ここが改善されればさらにイメージは良くなるであろう。

■ヨーロッパ車ライクな巡航だがパワーフィールに難

高速道路を速い流れに乗ってクルーズするときの巡航感も美点。エンジニアによれば、BRZと86は、ボディまわりの気流制御を徹底的に洗練させたという。たとえばリアコンビネーションランプにつけられている小さなフィレットも、それひとつで後方乱流をコントロールするのに役立つ機能部品なのだそうだ。その空力設計のメリットを大いに享受できるシーンのひとつが高速巡航で、乱流によるリアセクターの微妙な揺れなどの余計な動きがなく、ぴったりと狙い通りのラインをトレースすることができた。このへんの仕立てはヨーロッパ車ライクである。

短所として印象に残ったのは乗り心地の悪さとエンジンのパワーフィール。とくに乗り心地は固い柔らかい以前にしなやかさに欠けており、要改善の域にある。

最も不満が出そうなのは市街地走行や郊外路を穏やかに流している時だ。道路のうねりやギャップなどを通過するとき、落ちるタマゴを手で受け止めるように体の動きを受け止めるのではなく、体が落ちるのを下から突き上げるような揺れ方をする。これはロングドライブ時の疲労軽減という観点では少なからぬ失点。また、デートで女の子を助手席に乗せるのもちょっと気が引けるというレベルだった。ちなみにこうした荒い動きは、速度レンジが高くなれば十分とはいかないがかなり軽減される。

■絶対的な速さではなく、感性に訴えかけるスポーツカーを

2リットルDOHC水平対向4気筒エンジンは86と完全に同一スペックで、最高出力200ps、最大トルク20.9kgmと、かなりのハイチューンぶりである。車重が軽量であることもあって、実際に運転していてもパフォーマンスは十分に良い。日本の公道の速度レンジでは速さに不満を持つことはほどんどないだろう。

が、パワーフィールや回転感、サウンドはあまりいいとは思えなかった。サーキットで速さを競うのと異なり、絶対的にどのくらい速いかということは、実は公道スポーツカーではあまり大きな意味を持たない。峠道にしてもいつも全開で攻め込むわけではない。中速域でシフトアップ、ダウンをしながら軽やかに駆け抜けて“気分”を味わう時間のほうがはるかに長いはずだ。シフトアップ・ダウン時の回転落ちやブリッピングの切れ味、中速域でのレスポンス、高回転域に向かうときの伸び切り感などの感性領域は、パフォーマンスの絶対値以上に重要なのだが、BRZのエンジンはその部分が凡庸にすぎる。

峠道だけでなく、高速道路の料金所や合流部分などで全開加速を試みても、高回転領域に行くにしたがってパワーが湧き上がってくるような味付けではなく、のっぺりとした感じで平板に回り、その刺激のなさのわりに速度は乗る…といったイメージで、スポーツカーの命である感性評価の面ではインパクトが薄かった。比出力を10~15%ほど下げ、中間域における盛り上がりを重視したほうが気持ち良く、またハイオク仕様にする必要もなくなるのではないかと思われた。

エンジンサウンドもよく出来た直4スポーツエンジンの“カーン”という音とも、エキゾーストマニホールドが不等長だった時代の水平対向4気筒のドロロロロという脈動を伴う音とも違う“ベーン”という少し濁った音で、快音とはほど遠い。BRZにはエンジン音を増幅してスポーティさを演出する「サウンドボックス」が装備されているが、そんな音を増幅されてもあまり嬉しくない。エンジンノイズ、吸排気音などを統合したサウンドそのものを素晴らしくチューニングすることで勝負してほしいところで、今後の改良に期待したい。

■スポーツカーとして傑出した燃費性能

ドライブフィール以外でのBRZの美点として見落とせないのが燃費性能。一般道55:高速・有料道路45という比率で800.1kmを走り終えた結果、総給油量は54.24リットル。満タン法燃費は15.25リットルと、JC08モード燃費13.0km/リットルを大きく上回る数値となった。燃費計の数値は満タン法による実測値とほぼ同じであった。

公道ドライブゆえ、常に全開走行をしたわけではないが、全区間にわたってエコランをほとんど意識せず、また山岳路では走りを大いに楽しんだりしたことを考えると、エネルギー効率はスポーツカーとしては傑出したレベルにあるといえる。気候の良い時期に無駄な加減速を避けて流すという運転を主体にすれば、リッター2kmないし3kmほど上積みするのは簡単なことだろう。

また、瞬間燃費計の挙動を見るかぎり、交通量の少ない地方道でエコランアタックをすれば、20km/リットル超えも達成できそうな気配だった。相対的に弱いのは市街地走行。アイドリングストップが未装備ということもあって、ゴー・ストップの多い街路などではリッター10kmを簡単に割り込んでしまう。

■期待値が高いスポーツカーならではの辛い採点

総じてBRZは、スバルとトヨタのスポーツカーへの再チャレンジ第1号モデルという意気込みは十分に伝わってくる一方、スポーツカーならではの快感についての定見がまだ十分に得られていない習作的な部分も色濃く感じられるモデルだった。現状では峠専門マシンと言ってもよく、800kmを走るあいだ、楽しさより乗り心地の粗さを我慢する時間のほうがはるかに長く、同乗者は腰が痛くなるという有り様であった。

スバルの開発陣はもともとロール剛性の高さとしなやかさを両立させるといったシャーシセッティングの上手さは国産メーカーの中でも非常に上手いので、スポーツカーの楽しみとは何かという考察が深まれば、モデルライフ途中でもセッティングを向上させてくることが予想される。味付けはまだまだだが、これは元々の期待値が高いスポーツカーならではの辛い採点でもある。

マツダ『ロードスター』を除いてスポーツカー専用設計のライトウェイトRWD(後輪駆動)モデルが日本から消え失せてしまったなか、専用設計スポーツカーをロールアウトさせられたことについては、あらためて賛辞を送りたいところだ。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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