2014年6月4日、ロシア日刊紙「イズベスチヤ」は、ロシアがアメリカと国際宇宙ステーション(ISS)で新規に宇宙生物学の共同実験に向けて交渉していると報じた。
今年4月3日、NASAはロシアのクリミア編入などウクライナをめぐる情勢を考慮し、職員に対しロシアと2国間の接触を禁止した。国際宇宙ステーション(ISS)の運用については例外とし、またロシアの関係者が参加する海外での国際会議への参加は認めている。
イズベスチヤ紙の取材に答えたロシア科学アカデミー生物医学問題研究所のオレッグ・オルロフ第一副部長によれば、ロシア連邦宇宙庁Roscosmosは、ISSの科学プログラムを強化し、ロシアとアメリカのモジュールに搭載された機器を相互に利用できるよう交渉しているとしている。生物医学問題研究所は米側と宇宙生物学、医学に関する共同のワーキンググループを組織し、共同実験の趣旨やISSクルーの参加に関する規則などについて話し合いを行っているという。
具体的には、2015年からISSで宇宙飛行士が1年間の長期滞在を開始するのに合わせ、ロシア側の生物学実験計画で飼育する生物を、アメリカ側の実験設備に置くというものだ。実験設備とは、現在NASAが準備中の新型げっ歯類飼育施設「Rodent Research System」ではないかと考えられる。ネズミ類を安全に軌道上に移送し、長期間にわたって飼育できる設備で、2014年後半からスペース X社のドラゴン補給船での打ち上げを予定している。
また、オルロフ氏は日本側にも実験施設の協力交渉を行って同意を得たと述べており、ISSの日本実験棟「きぼう」のことを差すと考えられる。
イズベスチヤ紙では、NASAのモスクワオフィスは取材にコメントしなかったとしている。また、この件に関する報道はイズベスチヤ紙、タス通信、モスクワタイムズなどロシア側報道では大きく扱われているものの、アメリカ側のメディアでは追認するような情報は見られていない。
現在、ロシアは唯一のISSへの宇宙飛行士輸送手段であるソユーズ宇宙船を運用しており、クルー輸送の点では優位に立っている。ISSに現在接続されているロシアのモジュールは基本機能モジュール「ザーリャ」、サーヴィスモジュール「ズヴェズダ」の2棟で、クルーの居住空間となる基本機能モジュールで、米国「デスティニー」、日本「きぼう」、欧州「コロンバス」のような実験棟を運用していない。
ロシアが予定している多目的実験モジュール「MLM(愛称:ナウカ)」は、打ち上げ計画の大幅な遅れがあり、2013年末にはさらに不具合の発生から大規模修理を必要としていると報道されている。2017年まで打ち上げがずれ込むとの予想もある。ロシアのISS参加が2020年までとすれば、MLMで実験の成果を上げられる期間はかなり制限されることになる。