スズキが6月20日に発表した新型『Vストローム1000 ABS』。メディア向けの試乗会の中で、技術者が「実は一度、プロジェクトが頓挫しかけた」と明かした。
同社二輪事業本部、車体設計第二課の持山博俊氏は、「プロトタイプは、5年以上前に完成していました。しかし、2008年にリーマンショックが起き、プロジェクトが凍結、そのまま頓挫するかに思えました」と語る。
完全に暗礁に乗りかけたようにも思えるが「しかし、開発陣が、“このバイクは絶対に売れる、必ず需要がある”、“何としてでもこのバイクを世に出す”とプロトタイプを用いて開発を続けました」と持山氏は続けた。
世界経済に大打撃を与えた「リーマンショック」だが、それによる開発凍結が、プロジェクトに意外な効果も与える。
「それ(リーマンショック)がいいとは決して言えませんが、凍結中にトラクション・コントロール(TC)の開発が進み、そのほか開発陣の各々のアイデアも形になってきました。そしていざ凍結解除になると、既に存在しているプロトタイプにそれらを盛り込み、スピーディーに開発が進みました。TCは、凍結がなければ採用されなかったでしょう」(持山氏)。
Vストローム1000 ABSの開発コンセプトは「アルペンマスター」。つづら折れの峠道を快速で駆け抜けられるよう、ハンドリング性が重視されている。
持山氏は、「ドイツのアウトバーンでの走行も視野に入れているため、ハンドリング性と直進安定性のバランスをとる事に苦労しました。ただ直進すればいいだけでなく、オプションのケース類を、フル積載しての安定性試験も繰り返し行ないました」と開発時を振り返る。