【土井正己のMove the World】緊急報告「どうなるウクライナ危機」その2 …「サラエボ事件」から100年、歴史に学んだ教訓を生かす年

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マレーシア航空17便の犠牲者に祈りを捧げる関係者
マレーシア航空17便の犠牲者に祈りを捧げる関係者 全 7 枚 拡大写真

マレーシア機墜落の悲報

5月のこのコラムでウクライナ問題を緊急報告したが、ウクライナ東部でのマレーシア航空機の墜落で新たな展開となったことから、再度「緊急報告」をしたい。

前回のコラムでは、「財政問題を抱えるロシアは、天然ガスの最大顧客であるEUとの本格対立は避けたいだろうし、EUにとってもエネルギー安全保障上、また、経済復興の必要性上、ロシアと対立できる余裕はない。両陣営に発言力があるドイツが仲介をし、話し合いによる解決を期待したい」と書いた。確かに、一時期、国際社会はそういう方向に動き、停戦上状態になったが、それは長続きしなかった。ウクライナ政府としては、国内に反乱軍が居座っていることを看過できないということだろう。

今回の事件について、米国は、「マレーシア機の撃墜にロシア製の地区対空ミサイルが使用された明確な証拠を持っている。ロシアがウクライナの親ロシア派に兵器を供給し続けた結果が今回の悲惨な事故を招いた。ロシアの責任は明白である」と国連安全保障理事会の場などでロシアを痛烈に批判している。また、ロシア政府は、「我々は停戦を主張していた。停戦を守れなかったウクライナの内政問題」と責任はウクライナ政府だとしている。

さて、問題はEUである。これまで、米国の対ロ制裁には同調しながらも、強硬的な対ロ制裁には反対してきた。特に、ロシアへのエネルギー依存(ウクライナ経由のパイプライン依存)の大きいイタリアやハンガリーは「ロシアとの関係を悪化させない範囲」とこだわってきた。しかし、もうそういう曖昧な対応では難しくなる。

◆ロシアにとってウクライナのNATO加盟は最悪のシナリオ

今回、189人の犠牲者を出したオランダ、一桁ではあるが犠牲者を出した英国、ドイツ、ベルギーなどもEU国であり、NATOの主要国である。まずは、米国の対ロ制裁強化の提案に対して、賛同せざるを得ない状況となるだろう。ただ、これは、ロシアの関与が不明である限り、制裁がエスカレートするには限界がある。

一方、米国が主張する通り、ウクライナ東部の親ロシア派がマレーシア機を撃墜したことが明確になれば、EUやNATOにとっても親ロシア派を「テロリスト」(ウクライナのポロシェンコ大統領は、親ロシア派をそう呼んでいる)と定義し、ウクライナ政府の「テロリスト」掃討作戦を支援する理由が出てくる。それは、ウクライナのNATO加盟への道筋を示すことにも繋がり、ひいては、ロシアが最も懸念するシナリオである。

プーチン大統領は、2008年に「もし、ウクライナがNATOに加盟する決断をするのであれば、ウクライナ東部とクリミアを併合するために戦争をする用意がある」と公言したことがある。今回の事件は、ウクライナの「国内危機」が、いっきに「国際危機」に発展しかねない要素を多分にはらんでいると考えた方がいい。

◆武器マフィアが暗躍する地帯

1991年のソ連崩壊と共に多くの旧ソ連製兵器が、ロシアやウクライナの武器マフィアの手に渡ったことはよく知られている。武器マフィアは、紛争が地元で起これば当然飛びつく。ウクライナの親ロシア派にも、これらが流れていると見るのが妥当だ。5月3日付けのニューヨークタイムスでは、「親ロシア派の兵士の多くは、旧ソ連時代のソ連兵で、特殊部隊に所属した超エリート兵士が含まれている。また、彼らの兵器には、旧ソ連時代のものも多く含まれていた」と記載し、現場で親ロシア派兵士にインタビューをしている。すなわち、兵器さえあれば、兵士はベテラン揃いで問題ないというわけだ。

しかし、所詮ベテラン兵士でしかなく、上空に未確認飛行物体が確認された場合、それを撃ち落とすべきかどうかの判断能力を持っていたかは疑問だ。よって、今回の事件は、起こるべくして起きたと言える。ウクライナには、ソ連時代、多くの核兵器も配備されていたことを考えると、将来は、もっと恐ろしいリスクを抱えうる地域であることを忘れてはいけない。

今後、国際世論は「マレーシア機の撃墜にはロシアの関与があった」との疑惑で、ロシアに対し強硬な批判を繰り返すだろう。ロシアは「ウクライナの国内問題」と距離を置いている。仮に、ウクライナでの内戦が長引き、EU、もしくはNATOがウクライナ政府を支援し「テロリスト」掃討作戦を完了した場合、親NATOのウクライナが誕生することは間違いない。その時、ロシアはどのような対応をするのか。プーチンは、厳しい選択に迫られることになるだろう。

◆「サラエボ事件」から100年、歴史から学んだ教訓を生かす年

ロシアとしては、そうした状況を避けるためにも一刻も早く、ウクライナ国内の停戦と話し合いによる解決にリーダーシップを発揮することが必要だと思う。多くの犠牲者を出した今回の事件が、世界を混乱に導くものではなく、平和的解決を加速する方向に導かれることが犠牲者の祈りではないだろうか。

今回、犠牲者が出なかった日本にとっては事態を冷静に見ることができる。
今年は、第一次世界大戦のきっかけとなった「サラエボ事件」から100年の年である。人類は、歴史から学び、紛争を拡大させない装置を現在は複数もっている。パレスチナやイラクにおいても不安定を増しており、その装置をしっかりと機能させなければならない年となりそうだ。また、今年は、ソビエト崩壊から25年。ロシアの国際社会での役割が、真に問われる年となる。我々としても、世界第3位の経済大国の国民として、世界の平和に少しでも貢献できるように努力していきたい。

《土井 正己》

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