『ジャガー』といえば、ラグジュアリーカーブランド。しかし、かつてはリアルスポーツを作るメーカーでもあった。今回初めてジャガーの本気を垣間見た。
ジャガーの歴史はスポーツカーの制作で始まっている。はじめはいわゆるなんちゃってスポーツ。しかし、すぐにリアルスポーツを作り出すメーカーに変身し、1950年代には立て続けにルマン24時間耐久レースを制覇する、押しも押されもせぬスポーツカーメーカーへと躍進していた。しかし、市販スポーツカーをベースとした本格的なレース出場は60年代で終了。以後、ジャガーのレース参戦はプロトタイプもしくはツーリングカーに限られた。
というわけで、ジャガーが作り上げた本格的スポーツカーを体感したのは実はこれが初めてである。70年代から90年代にかけて作られた『XJS』は、ラグジュアリースポーツの範疇に属し、レースでもツーリングカーレースに出場した。一方その後継車たる『XK』は、アメリカのALMS(アメリカンルマン)などには出場しているものの、こちらも基本的にはラグジュアリースポーツであって、リアルスポーツではない。何よりどちらも2+2のボディ形状を持つ。
そこへ行くと新しい『Fタイプ』は、純粋な2シーター。『XJ220』などの特殊なケースをのぞけば、『Eタイプ』以来の本格的2シータースポーツということになる。コンバーチブルとクーペが作られるのはジャガースポーツの伝統である。
さて、今回試乗したのはFタイプ Sクーペと呼ばれるモデルで、V6のスーパーチャージャーユニットを搭載する。SのつかないV6搭載モデルと比較してパワースペックが異なり、最高出力は380ps。0-100km/hの加速も4.9秒と5秒を切る。標準のFタイプより0.4秒速い加速性能を持っている。
エンジンを始動するとかなり甲高いエクゾーストサウンドでエンジンが目覚め、多少のバックファイアを伴ってアイドリング位置で安定する。トランスミッションは8速AT。これは一連のジャガー各モデルと同じだ。ユニークなのはエンジンを始動すると、エアコンの吹き出し口がせり上がってダッシュボード上に姿を現すこと。あえて格納する意味は不明だが…。
試乗コースが都内という限定されたコースだったので、そう対して飛ばせたわけではない。それでも、素晴らしいエンジンのピックアップ性能や素早い身のこなし。そして全身で軽快感を表現した運動性能などを体感することができた。以前コンバーチブルには試乗したのだが、クーペのボディ剛性はその80%増だというから驚きである。もっとも、コンバーチブルがユルユルかというと全くそんなことはなく、むしろ逆にクーペが異様に高い剛性を持っているということになる。確かに脚は相当に締まった印象を与え、乗り出した直後は猛烈に締め上げられた脚を持つ印象だった。しかし、スピードを上げていくと完璧なまでのフラット感を演出し、このクルマにはこの脚がふさわしい、と思わせる。
室内にものを置くスペースはほとんどないが、テールゲートを開くとそこには407リットルの容量を持つかなり大きなラゲッジスペースが用意されている。ただし、奥行きはあるが天地方向の高さはあまりない。そしてテールゲートには高速走行時に自動的にせり上がるスポイラーが装備されるのだが、その形状はイマイチいただけない。とはいえ、120kgのダウンフォースを与えるというから、性能的には十分に寄与している。なお、センターコンソールのスイッチで手動操作も可能だ。
もう一つギミックながら、アクティブスポーツエクゾーストシステムがこのFタイプSには標準装備される。センタコンソールのスイッチをオンにすると排気ガスをよりダイレクトに排出し、当然ならかなりボリューム感のある排気音を楽しむことができる。
元来スポーツカーはそのクィックな操縦感覚が楽しめてこそ、リアルスポーツと呼べると思う。そこへ行くとたとえばメルセデス『SLクラス』のような重量級のスポーツカーは同じ2シーターでもリアルスポーツとは呼べない。このクルマが仮想敵とするのは、アストンマーチン『ヴァンテージ』のようなモデルではないかと思う。
■5つ星評価
・パッケージング ★★★
・インテリア居住性 ★★★
・パワーソース ★★★★★
・フットワーク ★★★★★
・おすすめ度 ★★★★
中村孝仁|AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来36年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。