【スズキ ワゴンR 試乗】驚きの静かさ、先代のネガをほぼ払拭…中村孝仁

試乗記 国産車
スズキ・ワゴンR
スズキ・ワゴンR 全 13 枚 拡大写真

スズキは『ワゴンR』の頂点に君臨する新たなグレード、FZに、新開発S-エネチャージを搭載した。このメカニズム、その実態はハイブリッドそのものである。

何故S-エネチャージと名付けたかについては、すでにエネチャージという呼び名が浸透し始めているためだそうだが、訴求のためにはハイブリッドと呼んだ方が良かったのではないかと思う。ではその中身はというと、従来のエネチャージの機構にモーターを備えた新たな発電機、ISGを装備。そしてリチウムイオンバッテリーを専用に変えたもので、このISGは従来のオルタネーターの働きに加え、再始動の際スターターモーターの機能を持つと同時に、加速時に不足するパワーをこのモーターがアシストするもの。アシストの時間は最長で6秒。しかし、条件が整えば3秒後には再びアシストが可能になるものだという。

ただ、そうはいっても冷間時の始動性を考慮してスターターモーターは残されている。つまり、スターターモーターは事実上二つ付いているというわけで、いずれこれが冷間時でもISGで始動できるようになると、従来のスターターモーターが不要になり画期的なメカニズムになるはずで、個人的にはまだ過渡期のものだと解釈している。

それにしてもこのメカニズム、すでにエネチャージの時から素晴らしいアイデアだと感心していたが、実際に試乗してみるとその素晴らしさを明確に実感できた。基本的にモーターだけで走らせることはなく、あくまでモーターはアシストに徹しているから、キーをひねれば必ずエンジンがかかる。ビックリさせられたのは実に静かなことだ。確かにフロント周りなど、ボディの外観は変わっているが、基本骨格は変わらず、しかも遮音材など、静粛性に関わる装備の追加はないというが、印象としては従来型よりすっと静かだ。そして、エネチャージの時はあくまで、走行時に発電をせずにロスを減らすという考えだったために、加速時のエンジンパワーはすべて加速に使われていた。ところが、S-エネチャージではモーターアシストが行われている加速中は、エンジン出力を絞っているのだ。出力を絞らなければ当然パワフルになるのだが、敢えてそれを燃費節減に回したというわけである。出力が落ちる=エンジン回転を抑えられるという公式が成り立ち、だから加速中も従来よりも静か、というわけである。

次にアイドリングストップ。例によってより燃料消費を抑える目的で、スズキは減速中スピードが13km/h以下になるとエンジンを停止する。従来これには功罪あったのだが、それはともかくとして、車両が停車した際はすでにエンジンが止まっている。そして再始動。従来はスターターモーターが回り、ギアを介してエンジンをかけていたので、どうしてもクランキングの音が出た。ところが今回は、ISGをベルトで駆動してエンジンをかけるのでギア音やクランキングの音が出ない。ブレーキからアクセルに踏みかえるとほぼ瞬時にエンジンはかかっているのだが、よほど注意しないとエンジンがかかる瞬間はわからないほど。しかも実にスムーズである。ユーザーの中にはアイドリングストップはいいけど、再始動の際のクラインキング音が気になるから嫌、という人がいるそうで、そうした人にはうってつけだ。

加えて何故か乗り心地までよくなったように思えたが、タイヤの空気圧は従来通り2.8と高いままでタイヤ等も変わっていないから、これは錯覚なのかもしれない。静かになった分そう感じさせたとも考えられるが、先代で感じていたネガの要素はほぼすべて消えている。

肝心の燃費はJC08モードで32.4km/リットル。短い試乗時間でそれを実感することはできなかったが、高速を含む長距離を乗れば、軽々と20km/リットルの中盤ぐらいまではいきそうな雰囲気で、街中を少し流した程度でも常に16km/リットルを下回ることはなかった。遠出するには少々気後れするが、単距離の移動にはうってつけ。外装だけでなくインテリアのデザインも一新されて、雰囲気は明るくなった。なお、従来のエネチャージ車も併売され、価格差はレーダーブレーキサポート装着車で比較して17.6万円ほど。しかし、S-エネチャージのみでなく、ほかの装備も加わった価格差だから、あくまでもワゴンRのプレミアムモデルという位置づけなのである。 

パッケージング ★★★★
インテリア居住性 ★★★
パワーソース ★★★★★
フットワーク ★★★
おすすめ度 ★★★★

中村孝仁|AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来36年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。

《中村 孝仁》

中村 孝仁

中村孝仁(なかむらたかひと)|AJAJ会員 1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

+ 続きを読む

【注目の記事】[PR]

ピックアップ

教えて!はじめてEV

アクセスランキング

  1. トヨタ『ハリアー』6年ぶりのフルモデルチェンジへ…注目ニュースベスト5 2025年上期
  2. トヨタ『ハリアー』6年ぶりのフルモデルチェンジへ...ワイド&ローのフォルムに注目だ!
  3. エアレスタイヤ搭載でペダルもなし、免許不要の特定小型原付「Future smart」発売
  4. 取り付け約10秒、カーメイトが『カローラクロス』『メルセデスベンツ』各車純正ミラー専用設計の「ワイドリアビューミラー」を発売
  5. 次期トヨタ『ハリアー』は新エンジンの恩恵でフォルムが大変化…スクープ記事ベスト5 2025年上期
ランキングをもっと見る

ブックマークランキング

  1. 「AIディファインド」の衝撃、日本の自動車産業は新たな波に飲み込まれるのか…アクセンチュア シニア・マネジャー 藤本雄一郎氏[インタビュー]
  2. EV充電インフラ-停滞する世界と“異常値”を示す日本…富士経済 山田賢司氏[インタビュー]
  3. ステランティスの水素事業撤退、シンビオに深刻な影響…フォルヴィアとミシュランが懸念表明
  4. SUBARUの次世代アイサイト、画像認識技術と最新AI技術融合へ…開発にHPEサーバー導入
  5. 「ハンズオフ」は本当に必要なのか? 高速での手離し運転を実現したホンダ『アコード』を試乗して感じた「意識の変化」
ランキングをもっと見る