【フォード フィエスタ 1200km試乗】長距離ドライブで光る高速ツアラーとしての資質…井元康一郎

試乗記 輸入車
フォード・フィエスタ 1200km試乗
フォード・フィエスタ 1200km試乗 全 28 枚 拡大写真

今春、日本市場で再デビューを果たしたヨーロッパフォードのコンパクトモデル『フィエスタ』で1200kmをロングドライブする機会を得た。ルートは東京を出発して紀伊半島へ。帰路は中央道方面から長野に向かい、霧ヶ峰の高原道路を経由して東京へ帰着するという秋のドライブコースである。走行条件は全区間2名乗車、エアコンON。

三重県の秘境・奥伊勢は、かつては短い日程でアクセスするのが非常に難しいエリアだったが、高速道路網の整備が進んだ今日では、東京からでも簡単に訪れることができる。

静かで快適な高速ドライブ

フィエスタでの高速巡航はきわめて快適なものだった。風切り音、ロードノイズがよく遮断され、クルーズ時でも助手席とごく普通の声で会話できるレベルに静粛性が保たれているのは大きな美点。

ドライバビリティも優れている。日本市場向けフィエスタのパワートレインは直噴3気筒1リットルターボ(100ps/17.3kgm)+6速DCT(デュアルクラッチ自動変速機)の1種類のみだが、その1リットルターボの完成度が非常に高いのが印象に残った。アクセルペダルを少し踏み込んだ時のターボの過給圧の立ち上がりが素早く、かつマイルド。予想よりトルクが高まってアクセルを戻すということがほとんどなく、スロットルで過給圧をコントロールすることで悠々とクルーズできるというフィーリングだった。6速・100km/h巡航時のエンジン回転数は2300rpm。

サスペンションセッティングも良好。とくに高速域での直進安定性はBセグメントとしては傑出した水準にあり、轍やアンジュレーション(道路のうねり)を拾っても進路や車体の姿勢がほとんど影響を受けない。これらの巡航感の良さは、いかにもヨーロッパ車らしいと思わせられるポイントだ。

ワインディングも軽やかにこなす

高速道路を降りてからは、水質日本一に何度も輝いている奥伊勢・宮川峡をドライブした。紀伊の巨大な山塊を縫う山道は峻険で、エメラルドグリーンに染まるダム湖のほとりはガードレールのない場所も多数。熊野古道と同様、いにしえの修験道の行場であり、道端に古い不動明王像がひっそりと立っている神秘的な場所だ。終点の大杉谷までの途中に、車が通行可能な吊り橋もかけられているが、至る所に錆びが浮いていて、ちょっぴりスリリングな気分が味わえる。

その山岳ルートを、フィエスタは実に軽快に走った。タイヤは韓国ハンコック製の「Ventus S1 evo」というモデルで、サイズは195/45R16。サイドウォールがほとんど垂直に立っているハイグリップタイプのスポーツタイヤだったが、フィエスタのサスペンションは荒れた路面でもそのタイヤをしなやかに路面に接地させる能力を持っており、ストレスフリーのワインディング走行を楽しむことができた。

帰路は中央道方面を走行。そのまま帰るのも味気ないので、諏訪湖から標高1800mの霧ヶ峰に立ち寄り、高原ドライブを楽しんでみた。霧ヶ峰へのルートはいくつかあるが、短い距離で一気に高度を稼ぐ上諏訪からの直登路を選択。1リットルターボはここでも良い仕事をし、スロットルを軽く踏み込むだけでレスポンスよく登っていく。

木々が次第に低くなり、やがて森林限界を超えると一気に高原の視界が開け、グライダーの飛翔が目に飛び込む。試乗車のボディカラーは「ブルーキャンディメタリック」という鮮やかな青色だったのだが、青空を邪魔せず、かといって紛れもせず、晴天の高原に結構よく似合う色合いだった。

長距離でも疲れを感じさせないシート設計

1泊2日、1200kmを走り、クルマを降りた時の印象は、疲労感が少ないということ。とくにフィエスタ独特と言えるのは、肩凝りがほとんどないこと。なぜそうなのか、理由を探ってみたのだが、シートバックの体圧分散設計がちょうど両脇の後ろを軽く支えるようになされており、肩から上腕を持ち上げずとも、座っただけで自然とステアリングに手が行くような姿勢になることが功を奏しているようだった。

欠点もいくつかある。まずは日本市場では少なからずアゲインストになりそうなファクターとして、カーナビを装着するスペースがないこと。ダッシュボード上に小さな液晶画面が設置されているのだが、スマートフォンの画面をそこに表示させる機能は実装されていない。日本仕様について、もう一工夫していただきたいところである。

2番めは価格。輸入台数が少ないこと、ユーロ円が欧州側に不利に動いていることを考えるとある程度は致し方ないのだが、それでも235.5万円はコンパクトとしては高価な部類。これが200万円前後にまで下がれば、プレゼンスは今より上がるだろう。そのためには、フォードジャパンが日本市場での販売を拡大し、認知度を上げていく努力をする必要がある。

3番めは、乗り方による燃費の変動幅が大きいこと。JC08モード燃費は17.3km/リットルだが、DCTの変速プログラムがドライビングパフォーマンス重視なこともあって、1リットルターボエンジンの気持ち良いところを使って走りを楽しみすぎると燃費は顕著に落ちる。なお、フィエスタのシフトレバーの右側面には小さなマニュアルシフトスイッチがついており、それを時折併用してやると燃費は明らかに向上する。奥伊勢から東京までの帰路650kmの参考燃費は5.9リットル/100km(約17km/リットル)であった。

コンパクトながらロングドライブ耐性は十分

今日、欧州では上級モデルからコンパクトカーへの乗り換えが一大ムーブメントとなっており、コンパクトカーにCセグメント、Dセグメントのようなロングドライブ耐性を持たせようと、各メーカーがしのぎを削っている。フィエスタはその欧州コンパクトの中でも相当に優秀な部類に入るであろうというのが率直な印象だった。高速ツアラーとしての資質はクラストップレベルなので、とくに長距離ドライブの多いユーザーにはおすすめだ。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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