トヨタ自動車が9月に大幅改良を施した商用モデル、新型『プロボックス/サクシード』。紙パック飲料を置けるホルダーやノートパソコンを置ける折りたたみテーブルなどの便利装備が多数盛り込まれ、シートも車内で仮眠を取りやすいようフラットに倒せる構造となるなど、長時間の配送業務を快適にこなせるようになったことが注目されている。
が、カスタマーである法人ユーザーにとって最大の関心事は、何と言ってもコスト削減に直結する経済性の向上であろう。JC08モード燃費はマイナーチェンジ前の15.2km/リットルから18.2km/リットルへと、一気に20%近く向上。それまでリードを許していたライバルモデルの日産『ADエキスパート』1.5リットルCVT(17.4km/リットル)に対してもアドバンテージを確保した。
オンロードではどのくらいの燃費なのであろうか。実態を知るべく、今回は『サクシード』の1.5リットルモデルに試乗。ADエキスパートと200kmあまり並走して、燃費を測ってみた。
◆ CVT化が功を奏したサクシード
東京・葛飾を出発し、京葉道路経由で千葉の九十九里方面へ。新型サクシードのパワートレインは、基本的に現行『カローラアクシオ / カローラフィールダー』の1.5リットルモデルと同一。エンジンスペックは109ps/13.9kg。旧型に比べて最大トルクが0.5kgm減少しているが、変速機が4速ATからCVTに変更されたこともあって、動力性能に大きな不満はない。
クルーズ中、瞬間燃費計の挙動を観察したところ、おおむね20km/リットル台前半を推移していた。タコメーター未装備で正確なエンジン回転数はわからないが、大荷物の積載に対応するため最終減速比がカローラアクシオよりやや低められているぶん、燃費には不利なはずだが、カローラアクシオでクルーズした時の経験に照合すれば、ほぼ同じような挙動だった。
CVT化でエコ運転がやりやすくなったのも新型サクシードの特徴のひとつだ。アイシンAW製の「Super CVT-i」は変速比の幅が6.3に達するワイドレンジで、加速を終えて負荷の軽い巡航状態になると、エンジンがスーッと極低回転運転に入るのが音でわかる。市街地走行、高速走行を問わず、素早く低燃費状態に入れることで、燃費を大幅に伸ばせそうだった。
◆市街地ではカタログ燃費を上回る
有料道路に乗る前の混雑した一般道では15km/リットル程度だった平均燃費計の値も、九十九里浜に着くまでには20km/リットル台に乗った。
帰路は有料道路だけでなく、平均車速が低めの千葉、東京の一般道も走行してみた。千葉市に入る手前、走行距離161.5km時点での平均燃費計の値は21.0km/リットル。そこから市街地を28.5km走ったところ、同20.6km/リットルとなった。両者の数値から市街地における燃料使用量を算出すれば、区間燃費をはじき出せる。
果たして市街地にてエコランを意識して走ったさいの概算燃費は、JC08モードを上回る18.6km/リットルとなった。商用バンは乗用車に比べて燃費性能が大きく落ちることが多いが、サクシードは乗用モデルと同じ条件で走るかぎり、もはや差はほとんどないとみてよさそうだった。
◆一般道走行で開いた差
さて、並走したADエキスパートのほうだが、こちらも燃費性能は悪くなかった。ADエキスパートの変速機は変速比幅が7.2に達するJATCO製の副変速機付きCVT。この変速機を装備するモデルはおしなべて、クルーズ燃費が異様にいいのが特徴で、ADエキスパートも有料道路や交通量の少ない地方道での燃費は秀逸。道によってはサクシードを上回るシーンも少なくなかった。
が、213kmを走行して東京に帰着後、満タン法でトータル燃費を計算してみたところ、サクシードが20.6km/リットルであったのに対し、ADエキスパートは10%ほど低い18.6km/リットルにとどまった。市街地走行区間で、サクシードは燃費値をほとんど落とさずに走り切ることができたのに対し、ADエキスパートは燃費の落ち幅がやや大きかった。この市街地走行区間の差がそのまま燃費差につながったものと考えられる。
◆商用バン対決の今後に期待
今日、普通車の商用バン専用モデルを作っている国内メーカーはトヨタと日産のみで、おおよそのシェアはトヨタ7割、日産3割。これまでサクシードと兄弟車のプロボックスは、ADエキスパートに燃費値で負けているのが逆風要因となっていたが、燃費性能を大幅に向上させたことで、そのハンディは完全に解消されたとみていい。
一方、燃費で抜かれた日産も、これ以上シェアを取られては死活問題。このまま黙って見ているとは考えられず、早晩抜き返しにかかってくることだろう。トヨタ、日産の商用バンにおける燃費戦争が今後どのような展開となるのか、興味深いところだ。