これまでFFのジープが存在しなかったわけではないし、北米市場では常に2輪駆動のジープは用意されてきた。しかし、新しい『チェロキー・ロンジチュード』は従来の2輪駆動ジープと一線を画す。というわけでその魅力に迫ってみたい。
エンジンの話をしよう。このエンジン、その名をタイガーシャークという。元々はワールドエンジンと呼ばれたもので、日本市場では『PTクルーザー』などに搭載されてデビュー、その後『パトリオット』や『コンパス』などに搭載されていたものである。ところが試乗してみると、その面影は皆無。そしてオリジナルを想起させないほどに大改良が加えられている。
あげればきりがないが、鍛造のクランクシャフトやコンロットの採用をはじめ、VVTの改良等々枚挙に暇がない。そしてとどめはフィアットがパテントを持つマルチエアシステムの採用だ。こうした改良のおかげで、 チェロキー・ロンジチュードの2.4リットル直4エンジンは直噴でこそないが、少なくとも起源となるワールドエンジンと比べたら、まさに別次元の高い静粛性やスムーズさ、それにパワーを誇っているのである。因みに机上のパフォーマンスに関しては、ワールドエンジン時代の同じ排気量のものと比べて大した差があるわけではないが、実際に乗ってみると格段にパワフルに感じるから面白い。
次なる変化。これはチェロキーとしてという前提が付くが、新たにフィアットベースのプラットフォームを採用したことで、エンジンがこれまでの縦置きから横置きに変わったことだ。勿論ボディはモノコックだから、ライバルがこぞって作るFWDパッセンジャーカーベースのクロスオーバーモデルになったことだ。そのシャシーベースはアルファロメオ・『ジュリエッタ』のものである。元々スポーティーに作られていたFWDだから、その素性はすこぶる良く、多少重心が上がって車重も重くなっているが、走りの軽快感は文句なく高い。
車重にしても4WDのリミテッドと比較して150kgも軽い。4WDの駆動部分を除けば軽くなった主要部分はエンジン。それにトランスファーケースもフロントについていたから、フロントのアクスル荷重は大いに軽減されていて、やはりたとえ強力なV6と比較しても、印象としてのスイスイ感はこちらの方が上。ステアリングのレスポンスも高い。
トランスミッションは上級のV6搭載車同様、ZF社製の9速ATが採用されている。このトランスミッションに関してはV6のリミテッドに試乗した時にも話したが、結果的には宝の持ち腐れである。なぜならば、日本の交通状況で9速を使うことはまずないからだ。9速はまず140km/hを超えないと入らない。同様に8速も少なくとも120~130km/h程度の速度域でしか使えないから、実質的には7速ATなのである。3速以降の繋がり感は合格だが、1速から2速、さらに2速から3速はどうしても大きなトルク変動を伴い、大げさに言うなら背中を蹴飛ばされた状態でシフトアップする。もっともこうしたネガな部分は制御系のプログラムをいじることで簡単に解決すると思われるので、恐らくは最初のマイナーチェンジか、あるいはいつの間にやら変わっていたという感じで変更されてくると思う。
マニュアルモードのシフトにもコメントしたい。これは本当の意味でのマニュアルモードではなく、チョイスしたギアまで自動的にシフトアップするというもので、ダウンシフトは受け付けるがアップシフトの方はシフトアップしたくても受け付けなかったり、シフトアップして欲しくないところで勝手にシフトしてしまったりと、意に沿わない部分が多い。
足回りはオフロードジープの面影が多少は残っているものの、従来に比べて圧倒的にオンロードでの快適性が増した。そして何より今までのジープでは得られなかった(『グランドチェロキー』は別だが)、高いクオリティーの内装が、よりクロスオーバーSUVとしての魅力を増している。早い話、かなりグランドチェロキーに近づいた品質を持ったと言ってよい。ジープといえば少なくとも今までは4WDで当たり前。だから多少スパルタンな乗り心地でも、高い走破性のために目をつぶってきたのだが、これは目をつぶらずに済むし、ジープのイメージを持ったFWDオンロードモデルとして認めることのできる最初のモデルともいえる。
5つ星評価
パッケージング ★★★★
インテリア居住性 ★★★★
パワーソース ★★★★
フットワーク ★★★★
おすすめ度 ★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来36年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。