【マツダのクルマ造り】人間の平衡感覚を突き詰め、“人馬一体”を極める

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マツダ 操安性能開発部の虫谷泰典氏。RX-7のミニカーで車体の浮き沈みを解説する
マツダ 操安性能開発部の虫谷泰典氏。RX-7のミニカーで車体の浮き沈みを解説する 全 8 枚 拡大写真

マツダは地元広島で、メディア向けに「クルマ造りへのこだわり」について説明会を行った。『デミオ』が2014-2015年カー・オブ・ザ・イヤーに輝き、ロサンゼルスモーターショーでは『CX-3』の発表も控える同社の勢いの源には何があるのか。車両設計からデザイン、生産体制まで、その極意を聞いた。

「Vehicle Dynamics」についてのプレゼンテーションを行ったのは操安性能開発部の虫谷泰典氏。2010年に発売した『プレマシー』でサスペンションのセットアップにおけるリーダーを務め、『CX-5』以降も“走り”の造り込みを統括する人物だ。

一昔前は、多少乗り心地を犠牲にしても、サスペンションを固めてコーナーでのロールを押さえ込むことが「スポーティな走り」とされた。しかし、それはマツダが目指す「人馬一体」とは程遠いとのこと。人間の平衡感覚をとことんまで突き詰め、旋回の動作に対してクルマをどれだけリニアに反応させることができるか。ロールやダンピングという単純な用語や数値だけでは測れない微妙な感覚をいかに足回りのチューニングで実現させられるかが問われているという。

◆ドライバーの感覚をモニタリングすることで分かること

まず、重要視するのは車両のデータだけを反映するのではなく、ドライバーの感覚をモニタリングし、そこからフィードバックを得ることだという。「ドライバーは道路環境と他の車両との相互作用によって運転を行う。その人が何を見てどのように判断して、だから車にどうして欲しいか、それを分かっていないと、なかなか一体感のある車を作ることができない」(虫谷氏)という。

「我々が最も恐れているのは、“怖さを感じない”クルマであること。例えばどれほどスピードが上がっても音や振動を感じない車は、ドライバーに危険であるという情報を与えてくれず、とても危ないと考えている。自分が車をどのように使っているか認識できる情報を“フィードバック”として造り込めれば、車が安全をもたらすのではなく、ドライバーこそが最大の安全装置になり、人馬一体感を味わうことができる」(虫谷氏)。

先代の『アクセラ』以前も人間中心のクルマ造りが行われていたが、プレマシー以降はより日常でユーザーが遭遇するであろう頻度の高いシーンから、マツダの“意のままに操る歓び”を感じられるようにしたという。

◆一体感ある走りを実現するため平衡感覚を分析

その根本にあるのは人間の平衡感覚だ。歩行時の頭の位置は上下に約50mm、左右に約20mm蛇行している。これを車のサスペンションに置き換えると、スキール音を出しながら思い切りロールするような状態だが、人間は眼球が自動補正を行うため無意識のうちに平衡感覚を維持することができる。結果的に上下左右の重心移動は一定のサイン波形を描く。

車両も、運転時の座った状態でサイン波形に近づけば近づくほど違和感がなくなる。タイヤやバネ上の振動を加味し、周波数が一定になるように制御することで、ドライバーも無意識に一体感を感じることができるという。つまり、様々な起伏を吸収しながらドライバーがおかしな挙動にならないよう、サスペンションでコントロールするのだ。

先代アクセラ以前の車は、コーナリング時に車体の外側が突っ張り、内側が浮くような挙動(乗員の目線は上がる)となっていた。対してプレマシー以降は旋回外輪が沈みタイヤに適切に荷重を載せる(乗員の目線は下がる)ため、乗員が不安を感じることなく車との一体感を得ることができるという。先代アクセラも車速が出て高いGがかかった場合は後者のようなコントロールが働くが、プレマシー以降はより低いGの領域でも作用するようになっている。

◆挙動を予測しやすい走りは疲労軽減にも効果

実際に試験場内にあるコースで、比較試乗を行った。複数のコーナーを15km/h、20km/h、30km/h、40km/hと徐々にスピードを上げながら走って行く。先代アクセラは、低速域においてステアリングを切り始めてから曲がり始めるまでのラグを感じた。思うように曲がらないので、さらに大きく切ると、今度は内に入りすぎてしまい、ステアリングを戻さなければならない。一方、プレマシーはハンドルの切り始めから、前輪が沈み込み車両が思う方向へスムーズにカーブしていく。アクセラよりも車体が大きく重心が高いプレマシーの方が、ドライバー自身の感覚にリニアに反応することを実感できるということは、足回りのチューニングの完成度の高さを物語っているといえる。

虫谷氏によれば「外輪が沈み込み、対角のリアが上がる“ダイアゴナルロール”の状態を作り出すことで、コーナリング時にかかる減速G、横G、加速Gの流れを滑らかに乗員へ伝えることができる。また、これはパッセンジャーの首の筋肉の緊張度合いにも作用する。ダイアゴナルロールしない車は挙動変化が急なので、コーナリングの始めに強い緊張が走ってしまう」とのこと。ドライバーの感覚フィードバックをサポートし、予測しやすい車両挙動を作り出すことは、同乗者に安心感を与え、疲労を軽減する効果もあると言えるのだ。

《吉田 瑶子》

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