【土井正己のMove the World】FCVが抱える未来と、PHV有利という現実

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トヨタ MIRAI
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トヨタは、12月15日に燃料電池車(FCV)『MIRAI(ミライ)』の発売を開始する。日経新聞(12月6日付け)の報道では、すでに企業や官公庁からの注文が相次ぎ、トヨタは生産能力を現在の700台から3倍に増やすという。

これは、イノベーションという意味では素晴らしいことである。家庭用燃料電池でも世界で最初に量産実用化を実現したのも日本なので、燃料電池の実用化で世界のトップランナーになって欲しい。そうすれば新たな産業群が生まれ、停滞気味である世界の経済成長に貢献できる。

◆普及のネックはインフラと“原油価格”

インフラの問題などを考えると、本格普及にはまだまだ時間がかかる。恐らく、一世代(20年~30年)はかかるだろう。その間、何が主流になるかと言えば、私はプラグインハイブリッド(PHV)だと思う。そして、例え、FCVの時代が来てもPHVが主流として残っていくのではないか。また、そう考えて開発を進めていくことが、地球全体にとっても望ましい。

一番の理由は「原油価格」である。最近も原油価格は急落している。昨年来、1バーレル当り100ドル近辺であったのが、今年夏あたりから下落し、今では65ドル近辺だ。米国でも、ガソリン価格が下がっており、お蔭で「ガズラー」と呼ばれる大型車が息を吹き返すように売れている。

原油価格が下がる理由は、複数の要素があるが、米国での「シェール・オイル」「シェール・ガス」の産出増大が大きい。この「シェール」は、米国だけでなく、中国にも欧州にもたくさんの埋蔵が見込まれている。ただ、掘削の技術が難しく、また環境や地質への影響も未知数であることから、今後のどの方向に向かうのかは、専門家の間でも議論が定まっていない状況である。

新興国のモータリゼーションが本格化していけば、化石燃料には限界があると思うが、この「シェール」の方向次第でどうなるかはわからない。原油価格が下がると、自動車は再び、化石燃料に向かう、そういう引力が常にあると考えておく必要があるだろう。それは、化石燃料が最も「エネルギー密度」が高いからで、自動車には向いているからである。ガソリンだと、電池の30倍から50倍のエネルギー密度となる。私が、PHVを推す理由は、原油価格の動向次第でガソリンのウェートを大きくしたり、電気のウェートを大きくしたり変化できるからである。

◆FCVは早すぎたのか、世界で有利のPHV

PHVは家庭で充電できることから、夜間電力を使って走行すれば、都市全体のエネルギー利用効率を上げることができる。それを電力使用のピーク時に自動車から家庭に給電するようにすれば、さらに都市のエネルギー利用効率を上げることも可能だ。CO2の排出を考えても、街乗りを前提とするとPHVは「普通のガソリン車の4分の1程度」(トヨタ調べ)の排出となる。21世紀の「スマート社会」を考えると、PHVはかなり適切な選択肢と言える。

さらに、PHVは、新興国での普及も可能である。電気バイクは、中国の地方都市に行っても普通に見かけるわけなので、PHVの頻繁な充電に対しても、日本よりも日常化するかもしれない。中国やアジア新興国のPM2.5などの環境問題に、如何にして日本が支援、貢献するかというのは、今後の日本経済、外交にとっても極めて重要な問題である。

残念なことは、日本でのPHVの販売があまり思わしくないことである。『プリウスPHV』もFCVの登場で忘れられる存在になってしまわないか心配である。三菱『アウトランダーPHEV』は比較的好調のようだが、昨年1月の発売以降、次の一歩が見えてこない。また、いずれも、既存モデルをPHV化しており、デザインの斬新さに欠けるというのが残念なところである。

一方、海外勢はPHVに対して積極策に出てきている。BMW『i8』 はデザインで、未来感を強調しており本気度を感じる。メルセデスベンツの『Sクラス』もPHVを導入してきた。これにも本気度を感じる。ここは、日本メーカーも後発の欧州勢に負けないよう、もっと本気度を見せてもらいたいところである。

<土井正己 プロフィール>
クレアブ・ギャビン・アンダーソン副社長。2013年末まで、トヨタ自動車に31年間勤務。主に広報分野、グローバル・マーケティング(宣伝)分野、海外 営業分野で活躍。2000年から2004年までチェコのプラハに駐在。帰国後、グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2010年の トヨタのグローバル品質問題や2011年の震災対応などいくつもの危機を対応。2014年より、グローバル・コミュニケーションを専門とする国際コンサル ティング・ファームであるクレアブ・ギャビン・アンダーソンで、政府や企業のコンサルタント業務に従事。山形大学工学部 客員教授。

《土井正己》

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