【三菱 i-MiEV 600km試乗 前編】王道つらぬき、エンジン車より楽しいチューニング…井元康一郎

試乗記 国産車
三菱 i-MiEV 600km試乗
三菱 i-MiEV 600km試乗 全 6 枚 拡大写真

リーマンショック前の資源高騰をきっかけに、次世代エコカーとして一気に注目を集めたEV(電気自動車)。2010年、世界の先陣を切って一般販売にこぎつけたのが、三菱自動車の『i-MiEV(アイミーブ)』であったのだが、早いもので、リース販売から6年目、一般販売から5年目に突入した。そのアイミーブをロングドライブする機会を得たのでリポートする。

◆エンジン車よりも楽しいと感じさせるチューニング

アイミーブは現在、バッテリー総容量16kWh、公称航続距離180kmの「X」と10.5kWh、120kmの「M」の2グレード。今回試乗したのは前者のXで、充電スポット情報などが記録された専用のカーナビ、車外から冷暖房をかけることができる「MiEVリモートシステム」、アルミホイールなど、多くのオプションが装着されていた。試乗ルートは東京・葛飾を出発し、静岡県中部を周遊するというもので、総走行距離は624kmであった。

まずハードウェア面について。アイミーブは試作モデルの頃から、走りの爽快感という部分についてはハイブリッドカーを含めた電動車両の中でも傑出した部類に属していた。市販後、制御プログラムがエネルギー効率重視のものに変更され、ややマイルドになったとされているが、今でも刺激的なドライビングフィールは健在である。

スロットルの踏み込みが浅いときは、車内に伝わってくるのは小さなインバーター音とモーター音だけで、パワートレインからのノイズレベルはきわめて低い。が、高速道路やバイパスの合流地点、ワインディングロードなど、スロットルを深く踏み込む局面では“キュイイーン”というガスタービンのようなサウンドとともに、実に素晴らしい加速を見せる。

アイミーブは軽自動車であるため、モーターの出力も最大47kW、ガソリン車風に言えば64馬力しかないのだが、高速道路を含めた日本の公道の速度域における中間加速では、スロットルを踏んだ瞬間にフルパワーを出せることもあってか、実際の動力性能は驚くほど高い。

特徴的なのは、単に速いだけでなく、ドライバーを楽しませるような速さの演出を狙ったと思われるパワーチューニングがなされている点。たとえば高速道路の流入路での加速。40km/hから60km/hまでも十分に力強いのだが、そこから80km/h、さらに100km/hに向かうにつれ、加速初期と比べてパワーが積み増されていくように感じさせる、エンジン車でいえば伸びきり感の良いエンジンを搭載したスポーティモデルのような加速だ。

ハイブリッドカーやEV、燃料電池車など電動技術を使ったクルマの多くは、エンジン車と異なるテイストを持たせて差別化を図っているが、アイミーブはエンジン車のフィーリングが好きだというユーザーに、エンジン車よりも楽しいと感じさせるチューニング。アイミーブのプロジェクトを引っ張ってきた吉田裕明氏はもともと『ギャランVR-4』に始まる四輪操舵システムやマルチリンクサスペンションなど高性能車のシャーシ分野のエキスパートで、ラリー参戦経験も持つ大の走り好き。その吉田氏は「エコというだけではEVは支持されない。走りの楽しさを持たせたかった」と語っていたが、そのスピリットは存分に伝わってくる。

◆今日の評価水準でもきわめて優れた走りと快適性

シャーシ性能も悪くない。ドライブ中、箱根峠、伊豆山中の亀石峠の2箇所のワインディングロードを通過したが、全幅1475mmに対して全高1610mmというかなり腰高なディメンションであるにもかかわらず、バッテリーを床下に積むことによる低重心化も功を奏しているのか、そこでの身のこなしの俊敏さは十分以上であった。フロントを沈み込ませ、前傾姿勢を作ってリアを巻き込むようなコーナリングで、大変コントローラブル。フロントの軽いリアエンジン車の王道のようなチューニングだった。

乗り心地については、デビュー当初は軽自動車の水準を大きく超えた良さだったのだが、今となってはベースの『i(アイ)』が発売されてからもうすぐ9年になるという古さが少し目立つようになってきた。ここ5年ほどのあいだに軽自動車の商品力の平均水準が急速に上がったため、相対的に地位が落ちた格好だ。もっとも、それでも平均値よりは上。ハーシュネス(突起物を踏んだときの突き上げ)をもう少しまろやかにできれば、印象はさらに好転するだろう。シートの設計ポリシーもやや古いが、ドライビングポジションの設定が大変良いことと、航続距離の限界から極端な長時間ドライブにはならないことから、あまりネガティブには感じられなかった。

パッケージングは、パセンジャーの乗るエリアについては十分に良い。ドライビングポジションを適切に取っても、リアシートの膝元空間は十分に確保される。ヘッドクリアランスは前後とも余裕たっぷり。これに対して、ラゲッジルームは完全に不足気味。リアのフロア下にパワートレインを積む関係で、もともと荷室は狭かったのだが、アイミーブの場合、100Vと200Vの2本の普通充電ケーブルを車側に載せると、荷物を置くスペースはほとんどなくなってしまう。ケーブルの置き場を他に作るなど、パッケージングの工夫が求められるところだ。

総じて、アイミーブは走り、快適性の面では、欠点も散見されるものの、今日の評価水準で見てもきわめて優れている。とくにドライビングプレジャーに関しては、スポーツカーを含めても相当に高い評点をつけられよう。これで後続性能がある程度確保されていれば文句なしなのだが…。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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