【土井正己のMove the World】2015年の モノづくり、リスクは米国とアジアに

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GMの米国ミズーリ州ウェンツビル工場
GMの米国ミズーリ州ウェンツビル工場 全 7 枚 拡大写真

2014年もあと僅かとなった。製造業にとっては、近年稀に見る良い年ではなかっただろうか。

日本経済は、2008年の「リーマンショック」以降、厳しいことが続いた。2011年には「東日本大震災」、そして「超円高」が日本を襲った。原発が止まって、電力がピンチとなり、自動車業界が土日を稼働日にして平日を休業としたのも2011年夏だった。2012年には尖閣問題で、「中国の日本企業焼き討ちや日本製品ボイコット」があった。2013年から少し明るさが戻り、そして、2014年の今年はようやく普通の一年だった。

ほとんどの自動車メーカーは好決算を達成することができている。これは、日本のモノづくりは、「普通の状態であれば依然強い」ということだと思う。では、リスクはないのかというとそうではない。

◆米国景気のスローダウン

リスクの一番は、米国経済である。今年の米国の自動車市場は、1650万台を超えてくる勢いである。リーマン前の状態に完全に戻ったということだ。原油価格が下がっているため、大型のクルマが売れているのも収益に貢献している。米国市場が良くなると、日本企業は米国事業採算が良くなるだけでなく、ドルが高くなり(円が安くなり)、輸出採算全体が良くなっていく。対米国だけでなく、世界各国との取引の多くがドル建てだからである。米国経済がクラッシュするとこれの逆のことが起きるわけだから、マイナス影響は膨大となる。

来年は、米国の景気はスローダウンすると見られている。バブルを避けるためにも、冷却装置にスイッチを入れる経済政策をとってくる。スイッチが大きすぎたり、遅すぎたりするとクラッシュが起きる。自動車市場も、暫くは好調が続くと思うが、来年の後半以降にはスローダウンが始まると思っておいた方がよい。

◆アジアとの競争激化

日本経済にとってのもう一つのリスクはアジアでの競争激化だ。現在、安倍政権は、「アベノミクス」と称し「日本経済を過去20年に亘って苦しめたデフレからの脱却」が経済政策の中心とされているが、私は、これは相当難しいと思っている。昨今、アジアの経済、技術、ファッションなどはフラット化しつつあり、昔のように日本だけが良品廉価を作れるという状況ではなくなってきている。

それは、30年くらい前から、日本企業がアジアに出ていって「日本のモノづくり」をアジアで広めた結果でもあるわけだ。価格は安くて、しかも、品質やファッション性も問題ない商品が、どんどんとアジアから入ってきている。「100円ショップ」にあるアジア製品の品質もデザインもかなり良くなっている。すなわち、アジア経済のフラット化が進む過程において、日本においては「価格デフレは必然」と言ってよい。

アジアや欧米のメーカーは、景気の良くなった日本市場を狙って、良品廉価で攻めてくるだろう。よって、このアジアの競合に打ち勝つために、日本のモノづくりは更なる効率化、原価低減を行う必要がある。ところが、昨今の好業績で、企業にそういう危機感が薄れてしまっている気がする。

アジア経済のフラット化は、ビジネス拡大のチャンスでもあり、そして、アジア企業との価格競争が激化するというリスクでもある。これをよく理解しておく必要があろう。

「アベノミクス」で円安になったことで、デフレ引力が多少は緩和された。(過去の超円高時代は、このデフレ・スピードを加速する負の貢献があった。)しかし、それとて長続きするものではなく、日本経済のグローバル化の進展によりデフレは続くと思う。

◆今こそボトムアップで「技術イノベーション」にチャレンジを

そして、アジア企業との価格競争から抜け出すための最大の策は、「技術イノベーション」である。他国に追随を許さない、圧倒的な技術革新があれば価格競争にはならない。イノベーションへの布石を複数仕込むことや、これまで躊躇していた新技術の事業化をリスク覚悟で進めるということもできる時期である。こういう提案は、トップダウンよりボトムアップの方が、士気が高揚して成功率が高い。読者の皆さんも、会社や大学(産学共同等)で、是非チャレンジしていただきたい。

今回は、モノづくりに携わるものとして、本年の振り返りと今後のリスクやチャレンジについて書かせて頂いた。私のコラムも本年、2月からスタートし、11か月を終えようとしている。お読み頂いた皆様に心から感謝申し上げたい。来年も、「モノづくり」をテーマに楽しく語らせて頂きたい。

<土井正己 プロフィール>
クレアブ・ギャビン・アンダーソン副社長。2013年末まで、トヨタ自動車に31年間勤務。主に広報分野、グローバル・マーケティング(宣伝)分野、海外 営業分野で活躍。2000年から2004年までチェコのプラハに駐在。帰国後、グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2010年の トヨタのグローバル品質問題や2011年の震災対応などいくつもの危機を対応。2014年より、グローバル・コミュニケーションを専門とする国際コンサル ティング・ファームであるクレアブ・ギャビン・アンダーソンで、政府や企業のコンサルタント業務に従事。山形大学工学部 客員教授。

《土井 正己》

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