2014年のモバイル業界動向を振り返る「スマホは成熟市場に」

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 早いもので、今年もあと数日を残すのみとなった。約20年にわたって日本のモバイル業界動向を、メディア側、そして消費者側の視点で追いかけてきた筆者が、過去の業界動向を踏まえた上で2014年にとくに注目しておきたいトピックスをまとめてみた。

■スマホの国内普及率が50%を超えた

 iPhoneの日本上陸(2008年)以降、わが国の携帯電話業界はがらりと様相を変え、端末はいわゆるガラケーからスマートフォンへシフトし、モバイルコンテンツ業界も大きく変貌していった。とはいえ、まだまだ国内普及率は50%を超えたところだという。スマートフォン普及率の調査は様々なシンクタンク等が行っているが、各所のデータを見てもおよそ50%を超えたあたりだ。世界の先進諸国と比べると、じつはスマートフォン普及率で日本が遅れをとっていることは明らかである。

 とはいえ、この普及率の計算には、加入契約数に対する割合をベースにしているものが多いようで、その加入契約数の中には通信モジュールなども含まれる。また、スマートフォンを所持していないユーザー層は当然まだ「ガラケー」を使っていることになるが、筆者はガラケー自体が十分に“スマートフォンに準じる通信機器”だと考えている。世界で使われている音声通話用携帯電話は、それほど高機能なものは少ない。一方、日本の携帯電話はインターネット接続機能やブラウザを標準で備え、アプリは動くし、高解像度のカメラやワンセグ視聴機能、おサイフケータイなど、スマートフォンに劣らない装備を持つ。そう考えれば、わが国のスマートフォン普及率は100%に近いと言っても過言ではないのでは。

 また実際に、東京や大阪、福岡などの大都市圏で、地下鉄などに乗車されている人たちの端末に目を向ければ、ほぼ100%と言ってもおかしくないほど、スマートフォンが利用されている。では、なぜ普及率50%弱なのだろうか。じつは、これは地方が足を引っ張っているとも言えそう。筆者が拠点を置く青森県も普及率のワーストから数えたほうが早い。地方では移動手段は自家用車というケースが多く、自宅や勤務先等にはブロードバンドが整っているため、移動中に利用するモバイル端末は音声通話さえできれば良いという考え方がまだまだ一般的のようだ。

 ちなみに、“コンテンツの利用”という視点で普及率を見てみると、たとえば一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラムが毎年調査しているモバイルコンテンツ市場規模において、コンテンツ有料課金市場では2013年時点で77%がスマートフォンからのアクセスにシフトしている。つまりモバイルコンテンツを積極的に活用するユーザーのすでに大半はスマートフォンを利用しているということが言えそうだ(図)。

■モバイルキャリアから新料金プランの登場

 携帯電話の料金プランは、これまでいくつかの変遷を経て現在に至っている。自動車電話、ショルダーホン、携帯電話等が世の中に初めて登場した黎明期(1979~1993)は、免許制度の関係もあり、利用する場合は通信キャリアから無線機部分をレンタルし、レンタル料を含めた基本使用料を支払う必要があった。解約時は当然のことながら端末は返却しなくてはならなかった。その利用料金は月額14,000~20,000円程度もかかった。その上、契約時に施設設置負担金(いわゆる加入権、現在は廃止)や事務手数料、保証金(10~20万円、解約時に返却)、バッテリーや充電器等の付属品の購入費(2~5万円)が掛かるなど、一般庶民には縁遠い存在だった。

 これが規制緩和により、1994年より「お買い上げ制度」が導入され、レンタルではなく、自由に携帯電話端末を販売し、ユーザーもこれを購入できる仕組みが導入された。まさに現代に続く販売方法がこのときから始まった。レンタル料の負担がなくなる分、基本使用料が安価になっていった。契約時に必要な諸費用も年々引き下げられていった。この頃の料金プランは、基本使用料で月額約7,000円台のプランと、月額約4,000円の2プランが用意され、基本使用料が安価なほうは、その代わりに通話料が1.5倍程度高い設定となっており、通話が少ない人向けとして用意された。

 その後、通信キャリア各社が競争を繰り広げていく中で、料金プランもより複雑なものとなり、音声通話を使う頻度別に基本使用料と通話料金が段階的に設定されたものに変わって行った。さらにiモード等のモバイルインターネットサービスの普及でパケット通信料という通信キャリアにとっては新たな収益源が生み出され、そのパケット通信料自体も2000年代中盤から「定額制」へと移行していった。

 LTE方式のネットワークが登場し、データ通信の利用量が一段と増加していくと、パケット定額料金制ではネットワークの負荷が多くなる懸念や利用頻度の高いユーザー層とあまり利用しないユーザー間で料金の不均衡も生じるということで、パケット定額が順次従量課金(データ通信量の上限を設け、それを超えた場合はパケット通信料を新たに追加するか、通信速度の制限が入る)へ移行していった。

 このように携帯電話サービスの歴史を振り返ってみても、唯一「音声通話料」は一貫して従量課金というのが常識だった。ところが2014年4月にNTTドコモが発表した「新料金プラン」は衝撃的なものだった。基本使用料が従来よりも若干高め(ガラケーで2,200円、スマホで2,700円)になるとはいえ、音声通話料を含み、その通話時間は無制限というもの。さらにパケット通信料は使う量に応じて選択でき、さらに家族間でシェアできるというものになった。ドコモに続き、ソフトバンク、auも、同様の料金プランを採用。

 まさに、モバイル利用の中心が、音声通話をベースにしたものからデータ通信が主体としたものへの転換期を迎えたということが、新料金プランから伺い知れるのではなかろうか。また、将来3GからLTEネットワークへ完全移行していくためには、LTEネットワーク上で音声通話もパケットに乗せて送受信するVoLTE(IP電話のLTE網版)へ移行していく必要がある。そうなれば従来の音声通話(回線交換網経由)のように1対1のユーザーが回線を占有するということがなくなり、従量課金にする必要性がなくなってくることを見込んだ上で、先行して新料金プランを導入したものと考えている。

 とはいえ、基本使用料は780~980円程度まで引き下げられていた中で、音声通話料金を含めたことで基本使用料がベースアップしており、音声通話もデータ通信利用も少ないユーザーは新料金プランへの移行を躊躇しているケースも少なくない。そんな中で台頭してきたのがいわゆる“MVNOによる格安SIMカード”なのであろう。

■MVNOの急激な躍進、格安SIMと格安スマホ

 2014年の最大のトピックスは、やはり「格安SIM」と「格安スマホ」の登場とも言えそうだ。すなわち、既存の通信キャリア(=MNO、Mobile Network Operator)からインフラを借りて独自ブランドとして通信事業を展開するMVNO(=Mobile Virtual Network Operator)が、最も注目を集めた年といえそう。

 MVNOは以前からも多数参入し、多様なサービス提供を行ってきたが、近年参入したMVNOは、SIMカードのみを取り扱い、既存の通信キャリア(主としてNTTドコモ)の端末に、そのMVNOのSIMカードに差し替えることで、従来の料金よりも安価に利用できることを特徴としてきた。ところが、SIMカードの販売といっても、一般的なユーザーの多くはSIMカードの存在さえ知らずに携帯電話やスマートフォンを使っている人も少なくなく、なかなかMVNOの認知が高まっていかなかった。

 そうした中、流通大手のイオンがこのMVNOのSIMカード販売と合わせ、独自に調達した格安スマホとの組み合わせで販売したところ大ヒットとなり、これに続く形で、様々なMVNOが端末と組み合わせるなどして販売することで、消費者にその存在を知らしめていくことができた。

 もちろん、格安SIM & スマホの成功には、大手通信3キャリアが新料金プランに移行し、その料金がやや高めに設定されているからこそ、MVNOが脚光を浴びているという事情もある。また、ガラケーの時代からMVNOは存在していたが、スマートフォンが主流の時代となり、海外の端末メーカーが高性能ながら安価なスマートフォンを供給できる環境が整ったからこそ、消費者に受け入れられる状況になってきたといえるだろう。

 ただし、これらMVNOの存続は、いつまでも「格安」だけでは勝負ができない。大手通信3キャリアが値下げなどしようものなら、ひとたまりもない。MVNOが今後どういった独自サービスで差別化を図るか来年以降お手並み拝見といったところだろう。

■技適問題に結論が出なかった2014年

 前述の格安SIMでスマートフォンを使うケースで言えば、ある程度端末入手のノウハウを持つユーザーであれば、海外でお気に入りの端末を購入してきたり、海外の通販サイトを通じて端末を入手し、日本で使うというシチュエーションも考えられる。ところが、こうしたケースでは、日本における技術基準適合証明(いわゆる「技適」)がないと、違法無線局になってしまう。

 一方で、2020年に東京オリンピックの開催が決まり、来日外国人観光客のモバイル利用をどうするかという課題も出てきた。このため、国としては来日観光客向けに積極的に無料で利用できるWi-Fiスポットを整備していくことや、来日観光客が利用する端末に技適が無い場合にどういう扱いにするかの議論が始まった。すでにWi-Fiの整備は自治体によっては先行して進めているところもあり、技適が無いと思われる端末をフリーWi-Fiスポットで利用している観光客の姿もよく見かけるようになった。

 Wi-Fiの整備や、来日観光客向けにMVNOのプリペイドSIMを販売する試みなどはスタートしているが、この技適を巡る法規制の緩和に関しては、来年以降に持越しである。このあたりの課題がきちんと解決されていくと、来日観光客に限らず、海外で販売されるスマートフォン等の並行輸入などの新たなビジネス市場の創出にもつながり、MVNOの利用にもさらに弾みがついていくことになろう。

 本連載第48~50回でもご紹介したが、たとえば米Googleが米国で販売した眼鏡型ウェアラブル端末「Google Glass」も、言ってみれば技適がない(実際には申請と取得はされているが端末上に表示されない)ため、合法的には国内で電源を入れることができない。このため、連載中で合法的にレビューを行うためにわざわざ韓国へ渡航してきた。韓国も日本同様に電波の扱いや端末の認定に関して厳しい国だが「個人が私的利用する目的で国内に持ち込むものに関しては同形端末1台に限って免除する」除外規定があり、これに則って試用してきた。Google Glassは本来、ウェアラブル端末用のアプリケーション開発者向けに先行販売されたもので、アプリ開発者にとってはビジネスチャンスにつながるものだが、法規制によって電源さえ入れられないという現状のわが国の状況では、せっかくのビジネスチャンスも逃してしまう。お隣の韓国では、「研究、開発目的」であれば、他国の認証・検定等を通過している端末の持ち込み試用が認められている。スマートフォン主流の時代となり、わが国のモバイルコンテンツ業界、アプリ開発者等が世界で活躍できる環境が整い始めている中で、海外の端末を簡単に日本で利用できないというこの課題がある。来日観光客向けという切り口からでも、ぜひこの技適問題を上手にクリアできる道を切り開いてもらいたいものである。

■国内線での航空機内Wi-Fiの本格スタート

 2014年7月から、JALが国内線で航空機内Wi-Fiサービスの提供が開始された。航空機上から、まさに「エアメール」をPCやスマートフォンから送ることができるようになった。

 じつは航空機上で携帯電話やインターネットの利用を可能にしようという試みは2000年代初旬から各所で検討されてきた。携帯電話に関しては、衛星通信を通じて、機内にはGSM方式の電波を出して機内ローミングという形で携帯電話を利用できるようにしようという試みが2002年頃に海外で話題になっていた。インターネット接続に関しては、2004年に米国ボーイング社の系列企業が「Connexion by Boeing」の名称で通信衛星を利用した機内インターネット接続サービスを開始している。これには、JALをはじめ世界の主要航空会社が採用し、サービス提供を行っていたが、まだこの時代はノートPCの活用が中心で、一部のビジネスマンを中心にニーズはあったものの利用が伸びず2006年にはサービスが休止された。

 その後、様々な試行錯誤を経て、再び衛星通信を使うものが提供されるようになり、国際線を中心に世界の主要航空会社が2012年頃から順次導入をはじめていた。日本の航空会社も国際線を中心に導入を始めていったが、ついに2014年7月からはJALが国内線にも導入を開始。

 これも、言ってみればWi-Fiを必要としているユーザー側のニーズがこの10年足らずで大きく変化した結果、ニーズにマッチしたサービスになったと言えるのではないか。2004年の時点ではまだ早すぎたのであろう。かつては一部のビジネスマンがノートPCでWi-Fiを利用する程度で、収益に見合う通信トラフィックが発生せず、黒字化できずに終わったのであろうが、その後携帯電話からスマートフォンへのシフトし、タブレットなど手軽にインターネットを利用する端末が一般のユーザーに広く普及したことで、どこでもWi-Fiを使いたいというニーズが急速に高まり、新たな機内衛星Wi-Fiサービスの商機が生まれてきたということなのだろう。

 なお、こうした動きと同時に2014年9月1日から、国土交通省の航空機における電子機器の利用についての告示も緩和された。電波を発しない機器であれば離着陸時含め常に利用が可能となり、機内モードにしてあれば、滑走路への移動中や離着陸時にもスマートフォンで機外の風景を撮影できるようになった。これだけでも旅が一段と楽しくなったはず。

■2014年を振り返る、総括

 長くなったが、2014年を振り返って業界に大きな変化をもたらしたトピックスをいくつかご紹介したが、スマートフォンの普及はまさに一段落し「スマホ成熟市場」となり、それに伴って、周辺のサービス提供者が過去に失敗したサービスも含めて再起し、上手に成功につなげていったのが今年だったのではと感じている。

 通話さえできればいいではないかというガラケーユーザー層も、とくに地方では少なくないのだが、万が一の通信手段として、モバイルネットワークに限らず、Wi-Fiやその他の通信手段を備え、さまざまなコミュニケーション手段をアプリで活用できるスマートフォンは、やはり非常時にも役立つ通信機器である。

 スマートフォン普及率において、足を引っ張っているのはとくに青森県、岩手県、秋田県の北東北であるというデータもある。その一方で、東日本大震災時の教訓として、緊急時の情報伝達手段として、スマートフォンは有効であると考え、それをより広いユーザー層に普及させて行こうということで県をあげての地道な活用推進に向けた取組みも増えている。たとえば、青森県では県自らスマートフォン等の情報通信機器の利活用を推進するための取組みを行っており、障害者や高齢者もスマートフォンやタブレット端末の操作に習熟してもらおうという講習会等が多数開催されてきた(写真1)。青森県に限ったことではなく、まさに全国各地で県や自治体、様々な企業等が連携して、講習会やコンテスト、ワークショップ、アイデアソン、ハッカソンなどが実施された。そして筆者も各地でそうした取り組みに協力し、スマートフォンの利便性を伝えたり、スマートフォンをより一層便利に活用するためのアイデア協力などを惜しまず続けてきた(写真2)。まだ道半ばであるが、より多くの人たちに、より便利に、安心して情報通信技術(とくにスマートフォン)を活用してもらえる社会の実現を目指してきた。2015年は、こうした取り組みがさらに広まっていくものと期待している。

【木暮祐一のモバイルウォッチ】第68回「スマホは成熟市場に」…… 2014年のモバイル業界動向を振り返る

《編集部@RBB TODAY》

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