【スズキ アルト 試乗】軽いということは素晴らしい!! AGS仕様「F」…井元康一郎

試乗記 国産車
スズキ アルト F
スズキ アルト F 全 8 枚 拡大写真

昨年12月22日に発売されたスズキの軽自動車、8代目『アルト』に試乗する機会があったので、ファーストインプレッションをお届けする。試乗したのはベーシックグレード「F」の5速自動クラッチ変速機「5AGS」仕様とトップグレードの「X」。まずはFから。

クルマに乗り込んでまず感じたのは「昔の軽ってこうだったよね」というノスタルジー。軽自動車は泣いても笑っても全幅は1480mm以内。最近の軽はドアトリムを湾曲させて肘のスペースを取るなど、涙ぐましい努力で広く感じさせる工夫がなされているものが多いが、アルトはカップルディスタンス(運転席と助手席の間隔)をしっかり取りながらドアトリムは真っ平らに近いため、スペースにゆとりがあるような感じはない。そのかわり、昔の軽が持ち合わせていた良い意味での“ちっちゃい感”があり、サンダルを履いて出かけるような気楽さがある。

乗り込んでからのミラー合わせもノスタルジックだ。軽自動車の低価格車のミラーが手合わせというのは普通のことなのだが、アルトFのドアミラーは鏡面可動式ではなく、ミラー全体が動く方式で、1980年代にドアミラーが解禁された頃のベーシックカーやフィアット『パンダ』、フォルクスワーゲン『ゴルフII』などが思い出される。今日、こういうミラーは逆に新鮮味がある。昔の軽より車幅が広いため、助手席側のミラーを合わせるのが少し面倒だが、それでもシートベルトを外せば十分手が届く。ただ、リアシートのヘッドレスト未装備というのはいただけない。あくまで前席2人乗りか、チャイルドシート装着の3人乗りと考えたほうが良さそうだ。

Dレンジに入れていざ発進。ファーストインパクトは「軽いということは素晴らしい!!」であった。エンジンは52馬力、6.4kgmと、ミニマムなスペックしか持ち合わせていないのだが、スロットルをちょっと踏み込むだけでクルマが軽々と転がりだす。速度が上がったあとの巡航時も走行抵抗による失速が非常に小さく、スロットル操作にちょっと気を配れば瞬間燃費計の表示は最大値の50km/リットルに張り付いたまま定速巡航できてしまうくらいである。

この5AGSという自動クラッチ変速機はマニュアル変速機をベースに変速操作とクラッチ操作を自動化したもので、軽トラック『キャリイ』に続く搭載第2弾。同じ機械式自動変速機でも、デュアルクラッチ式変速機と異なり、変速時はスロットルオフ、クラッチ切断、ギアシフト、クラッチ接続、スロットルオンのプロセスをシーケンシャルに踏まなければならないため、タイムラグは大きくなりがちだ。

果たしてアルトの5AGSも、普通のATやCVTのようなシームレスな感じではなく、変速のたびに加速が明確に途切れる。ドライバーがスロットルを離すわけではなく、頭では加速が続くと思っているところに変速ラグが来るので、変速のときに体が前後に揺すられるようなフィールが生まれる。

このシフトにはシフトアップ、ダウンを自分で行うマニュアルモードもある。このモードにすると、変速のタイミングが自分の予想と一致するため、動きは俄然スムーズに感じられるようになる。半クラッチや電子制御スロットルのプログラミングは非常によく煮詰められていることがわかる。このあたりの商品特性は、フィアットの自動クラッチ変速機「デュアロジック」とそっくりであった。

乗り心地については、短距離ではそれほど問題にならないのであろうが、ダンピングが弱すぎ、常時ヒョコヒョコと上下に揺すられるのが気になるところであった。舗装面と数ミリの段差がある減速帯が連続するようなところではとくに快適性が悪化する。別稿で述べる上級グレードのXのほうはサスペンションの仕様が異なり、ある程度長距離を走っても問題ないと思えるような落ち着きがあった。コスト制約の厳しさは理解するが、できれば改善したいところである。

燃費は軽量ボディであることも手伝ってか、きわめて良好であった。東京ディズニーリゾートのある舞浜周辺を走り回った結果、燃費計表示は27.3km/リットル。道路はすいていたものの、いちど赤になると2分近く待たされるような長い信号がいくつもあるエリアであること、アイドリングストップ機構が未装備であることを考えれば、この数値は立派と言っていいだろう。

興味深いのは、エコランを大して意識せず、普通に走っても相当に燃費が良いということ。JC08モード燃費は29.6km/リットルだが、交通量の少ない地方部で運転技量が中くらいのドライバーが走らせれば、楽々と平均30km/リットルに達するのではないかと思われた。いずれ、長距離試乗を行って検証してみたい。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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