【オートモーティブワールド15】本田技術研究所 山口次郎氏…新価値を生むために大切な3つのこと

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本田技術研究所 四輪R&Dセンター取締役 専務執行役員 山口次郎氏
本田技術研究所 四輪R&Dセンター取締役 専務執行役員 山口次郎氏 全 11 枚 拡大写真

ホンダのクルマが商品化され私たちの街を走るまでに、どのような道のりを通ってくるのか。

1月14日、東京ビッグサイトにて開催された「オートモーティブワールド2015」の基調講演で、本田技術研究所四輪R&Dセンター長を歴任した(現、取締役 専務執行役員)山口次郎氏が、開発時の研究所でのエピソードを交えながらホンダのものづくりの原点から未来への展望までを語った。

「未来のモビリティ社会と“Waku Waku”する新価値創造」と題した講演で山口氏は「どんなに電話で話し合っても、人と人がじかに会って話をする、手を握ることにはかなわない」と、創業者の残した言葉を引用しながらモビリティの価値は普遍的なもの、と述べ、さらに新しい価値を付加するためのカギを三つ挙げて詳説した。

◆“世界一”や“世界初”の技術でなくても価値ある商品は創ることができる

ホンダが最初に創った新価値商品は、戦後まもなく自転車にエンジンを搭載し人が楽に移動できるようにした乗り物。このエンジンは陸軍払下げの推進系の発電機だったという。その後今までに「ホンダの商品すべてに“世界一”や“世界初”の技術が投入されるわけではないながら “ホンダらしいね”とお客様に言って使っていただいている」。では本田は技術の高度さ新しさではなくどこで勝負をしているのか。何が新しい価値を生み出すのか。

ホンダが新価値商品を生むためのカギは「枠にはまるな」「苦し紛れの知恵」「負けず嫌い」の3つ。1つめの「枠にはまるな」とは、規制概念や常識にとらわれない自由な発想が新たな価値を生むこと、を意味する。“枠にはまらない”から生まれた商品例に『N-BOX』を企画した際のスケッチをスライドに映す。

「日本には特有の“軽枠”というのがあるが、この時、外枠に縛られずに“室内空間をどうしたいか”“みんなが楽しく乗るためにはどんな室内がいいか”をまず描きその次にイメージを具現化する技術を当てはめる」というプロセスを踏むのだという。この過程で、“こうすれば子どもの塾の帰りに、雨が降ったときに自転車も乗せられる”という様な使用シーンもイメージしていくという。「こうしてわれわれは“軽は我慢して乗る”という常識を変えました。」

◆「家族四人で温泉にいく車をつくる」…夢の力が危機を支えた

2つめのカギは「苦し紛れの知恵」。社内でもよく使われ修羅場を経験してこそ新しいソリューションを生み出せる、という意味を持つと述べられる。

「みなさんも忘れもしない2011年の3月11日、栃木にある研究所では震度7を記録しました。設計のフロアの天井は落ち、一瞬でがれきの山と化しました。開発の作業もストップ。しかしすぐさま私たちは自分たちで機材を運びだすことに。翌日からがれきの山の中に入り、中から使える機材や設計に必要なパソコンを運びだしました。近くの事務所を借り、あるいは工場で、まずは開発作業を再開することにしました。そして一週間後には図面を出す機能が復活しました」

このときを振り返り山口氏は所員の普段気付けなかったようなところも含めた力に気付かされ、仲間の力に驚かされたと語る。

また「苦し紛れの知恵」で生み出した商品も紹介された。ホンダが90年代に経営危機になった時期の事。ミニバンブームの波に他社がのっていく中、ホンダは工場のつくりの問題がありミニバンを製造できないでいたという。

そんな中である研究のトップが皆を集めて「温泉車をつくるぞ。」と言ったことを、山口氏は今でも鮮明に覚えているのだという。

「わたしたちホンダはパワーポイントで文字を書くよりもまずイメージをつくるクルマづくりをするのですが、この時も研究のトップがミニバンかどうか以前にお客様にとっての価値が重要と話ながら、“家族四人で温泉に行く図”を描いたんです」

こうしてできたのが初代の『ステップワゴン』。あまりに真四角で研究所内ではカッコわるいという評価もあったという。しかし車の目的が家族みんなで温泉にいくこと、とハッキリしていたため“デザイン”や”見栄え”よりも”使い勝手””お客様の喜ぶ顔”を思い浮かべながら進め、結果的に大ヒットにつながった。

◆社内アイデアコンテストから生まれた「ユニカブ」や「モトコンポ」

最後のカギは「負けず嫌い」。90年代の日本には本格的なスポーツカーといえるものがなかったので、ヨーロッパに負けないスポーツカーを創りたいという熱が湧いてきたという。こうして出来たのが『NSX』で、他社が3リッターオーバー&縦置きエンジンをスタンダードとする中、乗用車の『レジェンド』をチューニングして横置きにして搭載した。「するとかえって、“初心者でも運転できるスーパースポーツ”という評価で大ヒットした。NSXはデトロイトオートショーでも赤のプロトタイプを出し二代目に継承していっています」。

この他には93年まで続いた社内のアイデアコンテスト(通称アイコン)も新価値商品創造に役立っているという。『ユニカブ(UNI-CUB)』、“積めるオートバイ”こと『モトコンポ(MOTO COMPO)』などもそこで生み出されたもの。「現在も形を変えて、“自動車に限らず”新しい乗り物をつくるための若手中心の活動があります」。

これまでのモノづくりエピソードを語った山口氏。今後の開発に対しても「FCVでも、遅れながら私たちも出したいと考えている。自動運転分野では歩行者のもつスマホとの連動を可能とした世界初技術も開発されたように、クラウド技術やビッグデータを使ったサービスや技術を一日でも早く提供したい。これは震災のときにその翌日からどこがクルマの通られる道なのかを開示することができた経験からこれらの新しい技術の貢献の幅、可能性を認識しているからだ。今後様々な分野と対立するのではなく協調しながら、また新しい価値を提供していきたい」と意欲を語った。

《北原 梨津子》

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