『ETC2.0』とは…次世代ETCが目指す未来の道路交通

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ETCが今、次世代へ向けた『ETC2.0』構想へと大きく動き出している。『ETC2.0』とは何なのか。どんな場面で我々ドライバーに対して役立ってくれるのだろうか。そのテーマは「道路を賢く使う」だ。
ETCが今、次世代へ向けた『ETC2.0』構想へと大きく動き出している。『ETC2.0』とは何なのか。どんな場面で我々ドライバーに対して役立ってくれるのだろうか。そのテーマは「道路を賢く使う」だ。 全 10 枚 拡大写真

今から15~16年前、高速道路の料金所は渋滞を発生させるボトルネックとして間違いなく存在していた。それが今はどうだ。料金所で渋滞している光景はほとんどみられなくなっている。ETCの普及により料金所で停止しなくて済む効果がはっきりと現れているのだ。

そのETCが今、次世代へ向けた『ETC2.0』構想へと大きく動き出している。『ETC2.0』とは何なのか。どんな場面で我々ドライバーに対して役立ってくれるのだろうか。そのテーマは「道路を賢く使う」だ。

◆ETCの普及とDSRC

ITSサービス高度化機構によれば、2001年春にETCサービスの本格運用が開始されて以来、セットアップ累計件数は昨年11月末までに6400万件を突破したという。なかでも注目すべきはその利用率だ。料金所を通過する車両の9割がETCを利用しているのだ。

言うまでもなくETCの機能は通行料金の自動決済にある。これが実現したことで料金所周辺の渋滞はほぼ解消に至ったというわけだ。

ETCは5.8GHzの周波数帯を使うDSRC(Dedicated Short Range Communication:専用狭域通信)と呼ばれる通信方式を採用する。この通信を使って路側に設置されたアンテナと交信することで料金決済を行っている。

そんな中、ETCの機能を拡張させた「DSRC車載器」が登場し、これに対応した「ITSスポットサービス」が2011年にスタート。全国の高速道路約1600個所にアンテナを設置し、安全運転支援として道路上に発生した様々な事象を伝えたり、交通情報の提供を開始した。

この交通情報はVICSを超える広範囲なエリアを対象としており、これを活かせば、交通状況を鑑み、渋滞を回避した効率の良いルート選択も可能になる。つまり、DSRC車載器を搭載することで通行料金の決済と同時に高速道路をスムーズに走行するための交通情報が取得可能になるというわけだ。

また将来は、駐車場やガソリンスタンドでの自動支払いを実現したり、ファーストフードではカーナビに表示されるメニューから注文だって出来てしまうかもしれない。すでに実験は何度も行われたが、これらを実現し維持していくには膨大な費用が必要となり、残念ながら現状では“費用対コスト”などから実用化には至っていない。

◆進化した「ETC2.0」とは

しかし、この便利さを備えているにもかかわらず、「ITSスポット」の存在を知っている人は想像以上に少ないのが現状。「VICS」「ETC」に比べると知名度はあまりに低かったというのが正直なところだ。それ故、DSRC車載器も普及してこなかった。

これではせっかく整備した全国1600個所の「ITSスポット」が活かせない。国土交通省はこの現状を踏まえ、「道路を賢く使う」ことをテーマにユーザーへのアプローチを転換。“ETCの進化系”との考えに基づく「ETC2.0」構想を実行することとした。つまり、今までのわかりにくい「DSRC」とか「ITSスポット」という呼び方を、「ETC2.0」と統一して呼ぶことにしたのだ。

国土交通省の資料によれば、日本の高速道路は海外の先進諸国に比べて車線数が少なく、そのためもあってか都市間連絡速度も依然として低い水準にある。かといって、道路整備を進めるにはそう簡単には事が運ばないことも事実。そこで、既存の道路をもっと活用する“賢さ”を導入するためにも、このETC2.0を役立てようというわけである。

たとえば、渋滞が頻発する道路であっても、一日24時間を捉えれば必ず空いている時間帯はある。年間を通してみてもそれは同じことが言える。交通需要を均一化することができれば、それは渋滞の抑制へとつながり、スムーズな交通の流れが作り出せるようになる。ETC2.0を活用すればそれが可能だ。

◆「ETC2.0」が実現する優遇制度

その好機となりそうなのが、首都圏『3環状(「首都高中央環状線」「外環道(東京外かく環状道路)」「圏央道(首都圏中央連絡自動車道)」)』の相次ぐ部分開通だ。この開通により、都心から放射状に伸びる各高速道路間のアクセスは大幅に向上することとなり、ルートの選択肢も増える。ETC2.0の能力を存分に発揮できる環境が整うのだ。

見逃せないのは、このプランには渋滞の発生を予測して交通の流れを分散させることを目的に、経路別の料金優遇制度が検討されているという点だ。

これはETC2.0が持つ経路情報を活用して実現するもので、まだ具体的な方法や実施時期は決まっていないが、その中には渋滞中の個所を迂回するルートを提案したり、事故や渋滞時には一般道へ一旦下りて再び高速道路へと誘導するプランも構想に入っている(※経路情報収集のための再セットアップが必要。従来型ETCは対応不可)という。

これこそ「道路を賢く使う」ことを積極的に推進しようとする国土交通省の本気度の表れではないだろうか。

なお、これまではカーナビとの併用が必須だったが、今後はカーナビがなくても利用可能な車載器を開発中だ。

現状ではETC2.0に対応する車載器が従来型ETCに比べて割高となっていることから、たとえばこの経路誘導のメリットを運送業界にも働きかけ、業務用途から普及を促進していくことも有効ではないだろうか。これによってETC2.0が広がり、一般にももっと普及していけば、前述した駐車場やガソリンスタンド、ファーストフードのドライブスルーでの料金決済も現実味を帯びてくる。あとは自ずと需要は付いてくるというわけだ。

また、ぜひ知っておきたい事実としてあるのが、国土交通省では新規で開通する高速道路の路線ではVICS電波ビーコンによる情報提供をETC2.0に置き換えている点だ。これまで渋滞を避けるルート探索や渋滞を考慮した到着予想時刻の計算には、VICSによるFM多重放送、高速道路の電波ビーコンと一般道の光ビーコンによる交通情報の取得が必要だった。それが高速道路上では今後電波ビーコンに代わってETC2.0が役割を果たすようになるのだ。

壮大な最先端ITS(Intelligent Transport Systems)の世界の実現がETC2.0によって一歩一歩近づきつつある。ETC2.0はまさに、そんな近未来のドライブツールとして大きな役割を果たしていくことだろう。

《会田肇》

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