「V2H」で見えたエネルギー革命…PHEVが活きる、賢い電気の使い方

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「Smart V2H」に対応したスマートハウス。PHEVからの電力供給も可能となった
「Smart V2H」に対応したスマートハウス。PHEVからの電力供給も可能となった 全 14 枚 拡大写真

外部電源からの充電が可能な大型バッテリーを搭載し、電気モーターだけで走行することが可能な電気自動車とプラグインハイブリッドカー。その大型バッテリーをクルマを走らせるだけでなく、太陽電池を備えるスマートハウスの蓄電装置として活用する「V2H(Vehicle to Home)」がいよいよ普及段階に差し掛かってきた。

重電大手企業の三菱電機は昨年、「電気自動車を走る蓄電池に」というコンセプトでスマートハウスとクルマをつなぐパワーコンディショナー『Smart V2H』を発売した。太陽電池、電気自動車、電力会社の3つの電源を同時にミックスして使える「電力需要制御システム」を世界で初めて実用化したという新世代モデルだ。そのSmart V2Hが実装されたスマートハウスで、パフォーマンスを体感してみた。

◆電力線、太陽電池、PHEVの電気をマネジメントする

訪問したのは床面積160平方メートルとやや大型のスマートハウスで、屋根に太陽電池を装備。Smart V2Hを介して接続されていたのは純電気自動車ではなく、プラグインハイブリッドカーの三菱『アウトランダーPHEV』。昨年12月、プラグインハイブリッドカーとして世界で初めてV2Hに対応したことを受け、蓄電デバイスとして利用を開始したのだという。

このスマートホーム、一見しただけではV2Hであることはわからない。うかがい知れるのは、台所の壁に設置された電力のオペレーション状況をリアルタイム表示するモニター。電力線、アウトランダーPHEVのバッテリー、太陽電池の三者の電気をどうマネジメントしているかがひと目でわかる。

太陽の高度が低い冬の午後ということで、太陽電池のアウトプットは定格には至っていなかったが、それでも2.6kWは出ており、電力は余った状態だった。モニターを見ると、SMART V2Hは2.6kWのうち、住宅内に電力需要分の1.4kWを配分し、残りの1.2kWを電力会社に売電しているという状態だった。

次に、バッテリー残量80%のアウトランダーPHEVに充電を行ってみた。Smart V2HからEVへは単相200Vだが、電力供給能力は普通充電の2倍で、最大6kWの出力でバッテリーに電力を送ることができる。最大出力を使った場合、バッテリー使用領域の下限から上限までの充電時間は普通充電の4時間に対して2時間ほどですむというから便利だ。

Smart V2HはアウトランダーPHEVに、出力5.9kWで充電を開始した。スマートホームの1.4kWを足すと7.3kWとなるため、太陽電池の出力だけでは足りない。すると、それまでの“売電”から一転、送電線からスマートホームに電気が送られる“買電”へと瞬時に切り替わる。

そしていよいよアウトランダーPHEVからスマートホームへの電力供給、すなわちV2H。Smart V2Hは電気料金の安い深夜電力でクルマのバッテリーに充電した電力を昼間に供給することで生活コストを下げるピークシフト機能を持っている。そのメリットは日常的に享受できるのだが、今回はV2Hのもうひとつの特長である、停電時の電力供給を試した。

電力会社からスマートハウスへの電力供給をストップさせ、擬似的に停電状態を作り出してみた。電力会社からの電力供給は途絶えたが、晴天の昼間ということで、太陽電池の発電量は十分。切り替わった太陽電池からの電力供給によって、住宅内の照明や空調は通常通り使うことが出来た。日射状況が変化し、2.9kWと先ほどより若干上がった出力を、スマートホームに1.3kW、アウトランダーPHEVに1.6kWデリバリーしていた。停電時も太陽電池の発電が可能な状況下では家電製品を使用できるだけでなく、電気自動車やプラグインハイブリッドカーに充電することもできるのだ。

では、屋内で使う電気のワット数が増えたらどうなるのか。デモンストレーションとして高出力IH調理器を作動させた。使用電力は一気に4.2kWに。太陽電池はその時点で3.1kWまで出力が上がっていたが、それでも足りない。

すると、アウトランダーPHEVのほうから不足分の1.1kWが供給されはじめた。このときも、室内では電力会社から電気を買っているときとまったく変わらない状態で、照明がごくわずかに減光するような変化すらなかった。夜間や曇天など、太陽電池からの電力供給がまったく期待できない場合でも、アウトランダーPHEVのバッテリーが満充電の場合、平均的な家庭の1日分に近い8kWhを供給できるのだ。

◆アウトランダーPHEVがV2Hに最適な理由

V2H用のクルマとしては、同じ三菱自動車の『アイミーブ』や日産自動車『リーフ』など、クルマ側から住宅に放電するプロトコルを持っている電気自動車をセットアップするのが一般的だ。にもかかわらず、三菱電機と三菱自動車がプラグインハイブリッドカーのアウトランダーPHEVを主軸に据えているのは、スペックの面でV2Hへの適性がきわめて高いモデルだからだ。

プラグインハイブリッドカーは発電用のエンジンを搭載し、バッテリーの残量にかかわらず走ることができるという点では電気自動車より有利だ。が、バッテリーの容量が小さいため、V2H用の蓄電装置としての能力は限定的。法規制の関係で発電しながらV2Hに接続することができない現状では、必ずしも使い勝手が良いとは言えない。

ところが、アウトランダーPHEVは大型SUVという性格上、ステートオンチャージ(バッテリーの使用領域)が8kW以上と、一般的なプラグインハイブリッドカーの数倍に相当する大型バッテリーを搭載している。電気自動車の蓄電量の多さと、ハイブリッドカーの発電能力の良いとこ取りのようなモデルで、その特性がV2Hにうってつけなのだ。

「アウトランダーPHEVのバッテリー容量は、スマートハウスの1日の電力使用量に匹敵しますが、それだけではありません。バッテリーの蓄電量が下限の状態でも、エンジンで車載発電機を回してバッテリーに充電する機能がある。約1時間で8kW強を発電し、満充電状態になります。消費するガソリンは1回につき3リットル程度ですから、ガソリンが満タンであればゆうゆう10回以上、フル充電が可能。数日間停電したとしても、十分に非常電源として活用できる」(三菱自動車関係者)

電力インフラの強固な日本では日常的に停電が発生するようなことはないが、自然災害による停電は案外多い。地震や台風、豪雪などの大規模災害による長時間のものから、落雷などによる短時間のものまで、停電のパターンはさまざまだが、いずれの場合もパソコンのデータ損失や家電製品の日時設定の狂いといった被害を最小限に食い止め、普段とまったく変わらない生活を送ることができることのバリューは相当に大きい。

Smart V2Hの価格は95万円だが、補助金が40万円ほど出るため、実質50万円と工事費で設置が可能だ。これからスマートハウスを建てようと考えているカスタマーにとっては、V2Hは導入を検討する価値が十分にある技術であろう。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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