まさしくこのクルマを見た時、そう来たか…と思ったものだ。北米を旅したデザイナーが、チョップドルーフのクルマを見て、それをイメージしながら提案してきたのがこのクルマの原型。実はオリジナルは2ドアであった。
とはいうものの、今の日本で2ドアはかなりユーザー層が限られる、ということで限りなく2ドアに見える4ドアで投入したのがこのクルマというわけだ。チョップドルーフにはどうやら定義があるらしく(アメリカでは)、きっちり4インチ切り詰めるのがチョップドルーフの掟なのだということで、日本流にキリの良い100mm、ルーフを切り詰めている。
リアドアのハンドルをウィンドウの末端に融合させて、あたかも2ドアに見せる手法はヨーロッパでは当たり前のように行われているが、何故か日本車には数少ない。で、100mmも切っちゃったらさぞや窮屈か…と思いきや、頭上にはまだまだ十分すぎる余裕らあるから、元となったN-BOXがどんだけ~(ちと古い)という室内高を持っていたかがわかる。
ルーフの切りつめは、当然ながら重心高の低減にも寄与していて、意図的にステアリングを早めに転舵しても、俗にいうトールワゴンのグラリとくる印象が希薄になっているのは有難い。それにしても今回試乗したターボ付きのユニットは、本当に十分すぎるほどのパフォーマンスを有し、自主規制されているとはいえ、軽自動車のパフォーマンスを64psに制限するのは最早意味をなしていないようにも感じる。ある意味それが個性を阻害し、軽メーカー各社押しなべて性能は右へ倣えで、まあどれをとっても似たようなもの、的な印象にしてしまう。
だからいきおい、個性の発揮どころはインテリアとなるわけだが、この「スラッシュ」、ホンダ独自のセンターマウント燃料タンクを最大限に活用し、今回は後席をスライドさせた上でさらに跳ね上げも可能にした。おかげでシートアレンジの多彩さではこれまでのトール系の中では最も秀でていた。
さらに何種類かあるインテリアパッケージも興味深い。今回試乗したのは「テネシーセッションスタイル」という、まあ言ってみればジャズバーでも想定したようなシックで落ち着いたインテリア。他に「ダイナースタイル」とか「グライドスタイル」など、いずれもアメリカンな雰囲気を持つインテリアコーディネイトを可能にし、夢の膨らむカスタマイズアイテムが揃っている。アウターも同様で、今どき敢えてテッチンホイールをカスタムアイテムとしてしまうのは、まさにアメリカンの流儀と言えよう。
ハンドリングは相変わらずホンダ的で、ほとんどセンターフィールが無きに等しい軽さ一辺倒のもの。一応アシスト量を変えられるモード切替ステアリングを装備し、切り替えてみると多少重くはなるものの、相変わらずセンターフィールは希薄であった。というわけで落ち着き感がない。この軽さ、実はユーザーからのフィードバックのようで、それを象徴するかのごとく、パーキングブレーキが電子制御化された。理由はマニュアルのパーキングブレーキをお父さんが強く効かせると、お母さんはそれを解除できないから、電子制御パーキングブレーキを採用したとか。何ともまあ軟弱になったものだ。
とはいえ、新たな提案がこのクルマには多く、トール系の呪縛から逃れればまだまだ軽自動車の新提案が出てくるような気がした。
■5つ星評価
パッケージング ★★★★★
インテリア居住性 ★★★★
パワーソース ★★★★
フットワーク ★★★★
おすすめ度 ★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来37年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。