アマチュアレース支える片腕のカメラマン

モータースポーツ/エンタメ エンタメ・イベント
桑嶋敏 アマチュアレースを支える片腕のカメラマン
桑嶋敏 アマチュアレースを支える片腕のカメラマン 全 2 枚 拡大写真

「また撮影してほしい」

自動車メーカーに勤める桑嶋敏さん(42)のもとには、こんなレース撮影の依頼が飛び込む。毎週のように開催されるアマチュア・バイクレース。そこにも全日本グランプリやMotoGPのように、勝者がいて、ドラマがある。その一瞬を切り取り無償で選手に提供する。

主力の撮影機材はEOS-1DXと600ミリ絞り値f4の望遠レンズ。フィルムカメラの時代から始めて、デジタルカメラで機材が軽くなって、レース場に通う回数も飛躍的に増えた。長さ50センチ近いレンズを取り回すために、先端の石突きを大きく改造して安定感を増し、さらに足で踏んで固定するアルミの折りたたみペダルを付けた。

桑嶋さんは右手だけで写真を撮っている。

人生の転機には、いつもバイクがあった。1990年代、桑嶋さんは市販車を改造したプロダクション・バイクレースへの参戦をきっかけに、レースのおもしろさに目覚めた。HRCのRS125Rに乗り換え、本格的にレースの道を目指したが1995年、22歳のときにバイク乗車中の交通事故で左腕の機能を失い、断念する。しかし、3年後の就職では、それでもオートバイ好きをアピール、現在の自動車メーカーに就職した。

「世の中には義手を付けてレースに参戦する人もいる。自分もクラッチレバーを右側に持ってきて乗ろうとしたことがあるが、どうもしっくりしなかった。一度、全日本ロードレース選手権GP250チャンピオンの青山博一選手とイベントの先導で走ったことがあるが、スロットルを戻した瞬間に、彼は容赦なく抜いていった」(桑嶋さん)

写真にのめり込んでいったのは、その頃のことだ。

「乗れなくなっても、こんなにバイクが好きな自分がいるのかと驚く。むしろ今のほうが熱は上がっている」

被写体として動くものは何でも撮る。わが子の成長の軌跡も6年間続けたサッカーで追った。ただ、やっぱりバイクが好きだ。

「バイクは人馬一体感が出ていてすばらしい。そういう雰囲気が出ている写真を撮りたいと思ってます」

同僚はそんな桑嶋さんの姿を見て、人生初めての写真展を開いてくれた。文京区根津にある焼き鳥とワインの店「76vin」(ナナジュウロクヴァン)に、店内の壁やテーブルに作品50点ほどを展示する。バイク全盛期の旧車を愛するオーナーと意気投合した。28日までの開催だ。

「自分の乗っていたRS125Rは、清成龍一(日本GPチャンピオン・英スーパーバイク選手権2位)が乗り、彼が頂点に連れて行ってくれた。私もプロになってとまではおこがましくて言えないが、プロのようにいい場所でいいショットを撮って、選手たちを勇気付けたい」

桑嶋さんも選手も、その写真に勇気付けられている。

《中島みなみ》

【注目の記事】[PR]

ピックアップ

教えて!はじめてEV

アクセスランキング

  1. 待望の新型スズキ『GSX-R1000R』が予告なしの初公開!「3色3様」往年のレーシングカラーで日本市場復活へ
  2. 「ミニGSX-R」をスズキがサプライズ発表!? 鈴鹿8耐マシン以上に「サステナブルかもしれない」理由とは
  3. 世界初の「破壊不可能ホイール」って何だ!? テスラ向けパーツ手掛ける米メーカーが開発
  4. リトラと決別した「ワイルド・キャット」、3代目ホンダ『プレリュード』【懐かしのカーカタログ】
  5. 新型『ムーヴ』『ステラ』のコーナリング性能を向上、ブリッツの車高調「DAMPER ZZ-R」シリーズ
ランキングをもっと見る

ブックマークランキング

  1. 「AIディファインド」の衝撃、日本の自動車産業は新たな波に飲み込まれるのか…アクセンチュア シニア・マネジャー 藤本雄一郎氏[インタビュー]
  2. ステランティスの水素事業撤退、シンビオに深刻な影響…フォルヴィアとミシュランが懸念表明
  3. EV充電インフラ-停滞する世界と“異常値”を示す日本…富士経済 山田賢司氏[インタビュー]
  4. SUBARUの次世代アイサイト、画像認識技術と最新AI技術融合へ…開発にHPEサーバー導入
  5. ブレンボが新ブレーキ開発、粒子状物質を削減…寿命も最大2倍に
ランキングをもっと見る