3Dプリンタが実現する自動車製造の未来とは…マスプロダクションから「マスカスタマイゼーション」へ

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3Dプリンタを用いた製品・治具の例
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アメリカの3Dプリンタ専業メーカー、ストラタシスは4月24日、都内で自動車業界における3Dプリンタ活用セミナーを開催し、3Dプリンタがマスカスタマイゼーションに最適な工法であることを具体的な導入事例を交えて披露した。

ストラタシス・ジャパンの片山浩昌社長は「もともと3Dプリンタは試作でよく使われていたが、それが昨今のアメリカ市場を中心に、製品そのものを造る製造機として、あるいは製品を造るための治具や金型、工具を3Dプリンタで造るという新たなアプリケーションが始まっている」と語る。

こうした動きを「DDM(ダイレクト・デジタル・マニュファクチャリング)」として、DDMが活発化している背景としてスピードアップ、コストおよびリスク低減、デザインの自由度、新たなサプライチェーン構築、少量個別化生産への対応という5つの要素があると分析している。

このうちスピードアップに関しては、ストラタシスの試算によると治具や固定具の場合で生産リードタイムを40~90%短縮できるという。さらに片山社長は「市場の変化に対応する答えとしても3Dプリンタという手法が使われている」とも指摘する。

コスト面では、複雑な形状であっても一体成型でき、しかも異なる形状のものを同時に製造できる特徴を生かし、治具や固定具の製造コストを70~95%削減できると試算。さらに金型が不要で「在庫レスによるコストダウンもDDMの大きな要素」(片山社長)となる。

このほかの利点としては、従来の工法で必要だった抜き勾配が不要となること、中抜きによる軽量化と、より革新的なデザインが可能となることなどが挙げられる。また昨今、「マスカスタマイゼーション」への移行が徐々に進行し、注目される中、「これを実現する上で3Dプリンタはそれに一番近い工法」だと片山社長は話す。

その一方で片山社長は「3Dプリンタは魔法の箱ではない。現状の工法の置き換えではなく、いかに補完させるかということが重要」と指摘する。というのも既存の大量生産の設備および工法は生産する数量が増えればコストが下がっていくが、3Dプリンタのコスト曲線はほぼフラットだからだ。このため大量生産では割に合わない領域こそが、3Dプリンタの威力を発揮できることになる。

アジア太平洋地区の製品ディレクターを務めるフレッド・フィッシャー氏も「これまでコスト的にできなかったものや、複雑すぎたり、造る数量が少ないものがまさにDDMのスイートスポット」と語る。

その上でフィッシャー氏は「自動車業界はDDMにとって非常に戦略的な分野とみている。自動車業界は3Dプリンタを活用している業種の中で2番目の規模となっている。フォーチュン誌のランキング上位に入る大手自動車関連企業が3Dプリンタを活用しているのはデザインや試作段階だけではなく、製造段階でも付加価値が得られるからだ。その中でもとくに日本での成長が著しく、市場規模はアジア太平洋地区で最大」と話す。

自動車業界への具体的な導入事例に関して、米ストラタシスで航空宇宙・自動車・防衛バーチカル・ソリューション事業部のシニアディレクターを務めるアンドリュー・ストーム氏は、「トヨタ自動車の『カムリ』のように大量生産されているものには適用できないが、ランボルギーニやマセラティなど少量生産している車種に向いている。実際、トヨタは従来の手法からいかにして新しいやり方に転換するかを自分たちで検証するため、新型車の開発にDDMを導入して行っている」ことを披露。

このほか、とある自動車メーカーから、クレイモデルに必要な切削加工をどうすれば減らすことができるかを検証したいという依頼に対し、積層造形を使うことで、すでにコモディティ化したメタルのパーツを減らせるかという検証を行っていることを明かした。

さらに、DDMで製造した部品の品質についても「年産25万台の車種のパーツの一部を3Dプリンタで実際に製造し、装着されているが、不具合はこれまでに2件しか発生していない。また複雑な構造になっているオイルタンクも、我々は3Dプリンタで熱耐性があるものを造ることができる」と自信を語る。

「我々の仕事は、単に3Dプリンタ設備を導入するのではなく、顧客と一緒に様々なプロセス、パーツの一つひとつを検証、サポートすることで、物事を違った見方を提供することだ」(ストーム氏)

トヨタ生産方式がかつて、1980~90年代に世界中の製造業に与えたインパクトは計り知れない。今後、マスプロダクションからマスカスタマイゼーションへ、製品のパーソナライズ化が求められていく中で、3Dプリンタが製造業、自動車生産の現場に与えるインパクトは決して小さくはない。

《小松哲也》

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