【インタビュー】テスラはバッテリー技術でトップランナーになる…テスラモーターズ カート・ケルティ氏

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テスラモーターズ バッテリー技術ディレクター クルト・ケティ氏
テスラモーターズ バッテリー技術ディレクター クルト・ケティ氏 全 12 枚 拡大写真

資源バブル時代に脱石油技術の切り札として華々しく登場しながら、性能的な制約や価格の高さなどがネックとなって世界的に販売が伸び悩んでいるEV。その中でこのところ、好調なセールスを記録しているのがアメリカのEVベンチャー、テスラモーターズだ。

主力モデルである『モデルS』は、欧州Fセグメント(メルセデスベンツ『Sクラス』、BMW『7シリーズ』など)とほぼ同等のボディサイズを持ち、車両価格も最低937万円と高価であるにもかかわらず、2014年にはグローバルで3万5000台を販売。販売台数が最も多い北米市場では今年1~3月の3か月間、価格がはるかに安い日産『リーフ』を抑えてプラグインカー(プラグインハイブリッドやバッテリーEV)のカテゴリーで販売トップに立ち、またEVに限らずともプレミアムセグメントの中で小さくないシェアを獲得するのに成功した。

そのテスラは現在、モデルSに続く新型車の投入を準備している。クロスオーバーSUVの『モデルX』と、より小型の乗用車『モデル3』だ。なかでもモデル3は、BMW『3シリーズ』やアウディ『A4』と同じカテゴリーでありながら予定価格が3万5000ドルと安く、テスラがさらに成長をとげられるかどうかを占うモデルとして注目される。そのテスラのビジョンについて、バッテリー技術ディレクターのカート・ケルティ氏に話を聞いた。

◆「航続距離」はEVのデメリットではない

----:バッテリーを大量に積み、長い航続距離と高い動力性能を併せ持つEVを出すという構想をテスラが発表したとき、主にコストの観点から懐疑的に見る向きが少なくありませんでした。実は私もそうです。が、今日のテスラのEVビジネスは軌道に乗りはじめています。

ケルティ:私がテスラに入社したのは(テスラ『ロードスター』プロトタイプが発表された)2006年でした。それから9年が経ちましたが、確実に状況は良くなっていると思います。われわれが確信を得たのは、EVが高い顧客満足度を得られるクルマであるということ。アメリカでもそうなのですが、テスラは営業マンと顧客という関係だけでセールスが成り立っているわけではありません。テスラを買ったカスタマーが友人に「EVはいいよ!」と言い、それがきっかけとなって購入に至ることがよくあります。購入者の皆さんの多くはクルマが大好きなのですが、購入後1か月も経つとすっかりEVに慣れてきて、コンベンショナルなクルマには戻れなくなる。それだけの魅力を感じていただけるポテンシャルがEVにはあるんです。

----:セールスはどのような役割を担っているんですか。

ケルティ:アメリカでは販売店とカスタマーの関係はビジネスライクなことが多いのですが、われわれのサービスはウェットです。カスタマーには一人ひとりに決まった担当がついているのですが、彼らは単にクルマを売るだけでなく、カスタマーのライフスタイルやクルマの使い方について熟知し、より良いカーライフを楽しめるようサポートしています。マネージャーのところには世界でどのような不満やトラブルが発生しているかという情報を記載したEメールが届き、それらはオンラインアップデートされるクルマのソフトウェア開発に生かされます。今売られているテスラはすでに、デビュー当初に比べて格段に高機能になっています。

----:あなたもモデルSに乗っているのですか。

ケルティ:もちろんです。休暇になると、家族と愛犬のラブラドールを連れ、10日分の荷物を積んで、カリフォルニアから遠く離れたコロンビア州やワシントン州などへドライブに出かけたりします。モデルSを買ったとき、そんな長距離ドライブのことを考えると普通のクルマもあったほうがいいかなと考えてハイブリッドカーと2台所有にしたのですが、実際にモデルSを使ってみると、EVだけでも大丈夫だと思うようになりました。

たしかに連続で1000kmを走ることはできませんが、想像してみてください。ドライブをするとき、300km、400kmと走ったら普通、休憩するでしょう。そのときに充電すれば、はるか遠くまでのドライブでも使い勝手は普通のクルマと何ら変わらない。運転していて楽しいのは間違いなくモデルSのほうですから、ハイブリッドカーには全然乗らなくなりました。

◆バッテリー技術でトップランナーになる

----:EVが話題になったとき、クルマは安全性や耐久性など、求められるスペックが他の製品とまったく異なるため、専用の大型バッテリーセルを使うべきだという考え方が主流でしたが、テスラはパソコンにも使われる18650型円筒セルを採用しました。時が経ってみると、大型バッテリーは当初の想定ほど高い耐久性を示せず、18650型のコスト競争力が際立つ結果となっていますね。

ケルティ:18650型セルはいろいろな製品に広く使われているため、世界で最も多く作られています。今日、1秒に1本以上作られていて、さらに増産余力がある。量産されているものは、低コスト化だけでなく、性能面の技術革新も進むものです。自動車に要求される性能が懸念されるといわれていますが、第一号モデルのロードスター発表以降モニターしてきた運用実績を見ると、設計時のシミュレーションに比べてパフォーマンスの低下はむしろ小さいものでした。

----:バッテリーはどのようなタイプのものを使っているのですか。

ケルティ:ロードスターはコバルト酸リチウムを正極材料に使用したものを搭載しました。モデルSはエネルギー密度を高められるニッケル酸リチウムです。が、これは終着点ではありません。現在開発中のモデル3は最新の三元系(ニッケル-コバルト-マンガン酸)リチウムイオン電池を使う予定です。また、正極、負極材料ともに、さらに次世代の素材についても研究開発を進めています。バッテリー技術でトップランナーとなることは、テスラにとって重要な目標のひとつです。

----:バッテリーでトップランナーを目指すとのことですが、現在、世界で熾烈な開発競争が繰り広げられています。そこで勝ち抜くのは容易ではないのでは。

ケルティ:テスラは世界最大のバッテリーメーカーとなることを目指しています。現在、世界で年間35ギガワット時ぶんのバッテリーが作られていますが、われわれがネバダ州で建設中のバッテリー工場、ギガファクトリーは、フル操業に達したときにそれと同じくらいのバッテリーセルを生産する計画です。そこでは将来、18650型よりさらに効率的な、新しいサイズの電池を作ることになるかもしれません。また、EV以外のビジネスも手がけていくことになるでしょう。

----:テスラはパナソニックと強いパートナーシップを築いていますね。

ケルティ:バッテリーの研究開発における最も大切なパートナーはパナソニックであるということは言うまでもありません。私自身、パナソニックのバッテリー事業出身で、彼らとは友人のような関係です。かといって、パナソニックに開発を依存しているというわけではありません。

われわれは先端材料のサプライヤーとも幅広く付き合っています。資源がどう採掘され、どのように加工されるというところまで把握しないと、どのくらいのコストで作ることができるかをコントロールできないからです。商社を介することなく、サプライヤーのサプライヤーのさらにその先のサプライヤーや、鉱山会社まで、低エネルギー消費、低公害といったことも含めて知り、われわれのほうからも良い提案を出すことに努めています。バッテリーの世界で必ずやリーダーシップを握れると確信しています。

----:バッテリー技術が進化すれば、さらに航続距離を延ばすこともできますね。

ケルティ:実は、われわれはこれ以上航続距離を延ばすことはあまり重要視していません。先ほど述べたとおり、ドライバーは長時間運転すれば、休息を取る必要が出てきます。その休息のインターバルを超えて航続距離を延ばしても、あまり価値がありません。バッテリー技術が進歩し、同じ重量、同じ容積のセルに蓄えられる電力量が増えたときは、生まれたゆとりをバッテリーパックの小型軽量化やコストダウンのほうに振り向けたいですね。当面の目標はコスト30%削減です。もちろん電力を制御するパワーコントロールユニット側も軽量・低コスト化を進めます。長い航続距離と3万5000ドルという価格は、そのようにして両立されることになります。

----:昨年、日本でもモデルSの販売を開始しましたが、日本はアメリカに比べてテスラのスーパーチャージャー(急速充電器)のスポットは少ない。今後の展開は?

ケルティ:この春、東京のパレスホテルが加わり、スーパーチャージャーは東京、横浜、大阪、神戸の4都市、6か所になりました。もちろんこれからも増やしていきますが、日本の急速充電器であるチャデモで充電できるアダプターもあり、30分で100kmぶんの充電をすることが可能です。ドライブエリアのカバレッジはこれからもどんどん広がるでしょう。

◆「常識破り」のテスラ、今後の展開は

今日、EV、燃料電池車といえば、エコカーというイメージが強く染み付いている。その中で、テスラのクルマづくりは独特だ。もちろん脱石油、低炭素という側面は持っているが、それを金看板にはしていない。モデルSのテストドライブを通じて伝わってきたのは、エンジン車とのドライブフィールの違いはもちろんだが、それ以上にクルマとドライバーとの関係について、これまでなかったスタイルを盛り込んでいることが印象的だった。

パワー、電力消費、サスペンションセッティング(ロール剛性や車高調節)など、詳細な車両情報がコクピットにいながらにして把握でき、その制御をドライバーの好みに応じて自在に変更できる。これらは既存の自動車メーカーが可視化を渋っていた部分なのだが、クルマやドライブが好きな人であればあるほど関心が強い項目だ。パワーゲージの動きを見ると瞬間最高出力は320kW(435馬力相当)に達しており、動力性能も申し分ない。テスラの目指しているのは単なるエコな高級EVではなく、既存の高級車に実は飽きているというユーザー層を吸引するような斬新性であることがわかる。

その斬新性は今のところ、一部の高所得層だけが味わえるものだが、スターティングプライスが3万5000ドルのモデル3が同じような思想で作られるとしたら、既存のクルマに飽きたユーザーを今よりもはるかに多く取り込める可能性が出てくる。テスラは今日、研究開発や設備投資に巨額の資金をつぎ込んでいる。その額は、一般的な企業経営の常識に照らし合わせればあまりにも過大という声も少なからず聞かれるが、テスラがその常識破りの投資の末に大きな成功を収めることができるかどうか、今後の展開が大いに注目されるところだ。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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