【マツダ 開発者 徹底インタビュー】ロードスター編…初代の踏襲ではない、「原点回帰」に込めた本当の思い

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ロードスター開発主査の、山本修弘氏(左)と中山雅チーフデザイナー(右)
ロードスター開発主査の、山本修弘氏(左)と中山雅チーフデザイナー(右) 全 28 枚 拡大写真

マツダ新世代商品群の節目となる、新型『ロードスター』が5月20日にデビューした。

2012年に登場した『CX-5』から、生まれ変わった『アテンザ』、「マツダコネクト」初導入となった『アクセラ』、質感を大幅にアップした『デミオ』と、「SKYACTIV技術」とデザインテーマ「魂動」を採用した新型車が次々に発売。『CX-3』という新たな道を切り拓くモデルも生まれた。

ついに発売となった4代目ロードスターは、今のマツダラインナップの中でどのような役割を持つ存在なのか。山本修弘 開発主査と中山雅チーフデザイナーに聞いた。

◆マツダというブランドの「ありたい姿」を体現

----:昨年9月のお披露目から約8ヶ月を経て、ようやくロードスターのリリースがスタートしました。まずは今の心境からお聞かせください。

山本修弘 主査(以下敬称略):やっと発表できたと、ほっとしました。発表会の後に、マツダのお客様を集めたイベント「Be a driver. Celebration」を開催したのですが、それが実現できたことは僕らにとっても驚きだったし、とても喜ばしい気持ちです。

中山雅チーフデザイナー(以下敬称略):このイベントでは国会議員の気持ちが少しわかりました。わたしたちはみなさんに選ばれた代表。みなさんが欲しいと思うクルマを作って「できました!」と披露する、そんな感覚でしたね。なんだか有権者と代議士の関係に近いなあ、と。

----:ロードスターというのはマツダというブランドのイメージを牽引している車種だと思うのですが、その位置づけを教えてください。

山本:最近になって実感するのは、ファンと強い絆で結ばれた、熱烈なファンに支えられたブランドになるというマツダの「ありたい姿」を、ロードスターが体現しているんだということです。

----:ロードスターがマツダを象徴している、ということでしょうか?

山本:ロードスターでは最初から「人馬一体」ということを言ってきましたが、これを全部の車種が言ってくれるようになりました。マツダの提供価値として以前から存在していたものが、CX-5以降の新世代商品からは明確に表現されるようになった。これは大きな意義があると思っています。

ロードスターはマツダのブランドアイコンだということは僕らはずっと言ってきたし、経営陣もそう言ってくれるようになっている。また社内では「フラッグシップ」と「ビジネスピラー」という言葉も使っているんですよ。

----:フラッグシップはアテンザですよね。ビジネスピラーとは?

山本:CX-5やアクセラ等はアイコンではありませんが、重要な車種であることに変わりはない。それぞれがマツダを支える柱としての役割を果たして、あわせて3本の柱を「群」と捉えて魅力を伝えていこうよ、ということなんです。

この言葉はそれぞれの車種に携わる人たちの、仕事に対するモチベーションを高めるために使っています。いわば社内スローガンのようなもので、外部に発信するための言葉ではありません。

◆どんな車種でもブランドイメージは共通

----:ラインナップをおおまかに3種に分けているわけですね。それぞれ「マツダらしさ」の表現に違いはあるんでしょうか?

山本:「ロードスターはアイコン」というのは例外的なもので、市場ではまずマツダというブランド全体を意識してもらって、その中にはこんな車種もあるんですよ、という感じで伝わるほうがいいと思っています。車種ごとではなくマツダとして認識してほしいですね。

中山:現在、ロードスターはアイドルのようなキャラクターですが、それぞれの車種に同じようなひいきのお客さんがついてくれれば、全体としてすごいブランドになるんじゃないかと思っています。そして各車のファンが全員、マツダのファンとなるようにしたい。

----:たしかに新世代商品ではブランドイメージの統一を図っていることがわかります。これも車種だけでなくマツダというブランドを意識してもらうためでしょうか?

中山:各車が仲間に見えるというのは、携わるチームの皆が、同じ方向を向いているということ。野球チームの場合、ポジションも選手の個性もプレースタイルも違っているけれど、目指しているものが同じだからチームとして統一されたイメージになっている。

魂動デザインも同じことです。それぞれが精悍な顔つきや俊敏な動きを表現したいと考えている。車種ごとの役割によって、表情がやや違ったものになっている、ということですね。

◆ロードスターの世界観からマツダの世界観へ

----:それでは、ロードスターについて具体的に訊いていきたいと思います。開発の方向性はどのようなものだったんでしょうか?

山本:以前は「マツダ」よりもロードスターという車種ブランドのイメージのほうが強かった。ロードスターは「ロードスターの世界観」を作ってきたんです。ですが、クルマというのはすごく浮気しやすい商品。ですから乗り換えるときに「今度もマツダの中から選ぼう」という、信頼を獲得できるものを目指しました。

----:具体的には、どんな点を工夫したのでしょうか?

山本:(インテリアの)スイッチのレイアウトなどは、他のマツダ車から乗り換えたときに目をつぶっていても操作できるぐらい、同じ位置になければいけません。操作感覚もブランドイメージの重要な要素です。

だから操作系のレイアウトやドライビングポジションなどを、マツダとして統一されたテイストにしようと強く意識しました。これが実現できなかったらブランドアイコンという表現は使えないな、と。

◆原点回帰とは、過去に還ることではない

----:スタイリングについては「原点回帰」という言葉を使っていますが、この意味は?

中山:これはNA(初代ロードスター)に回帰するということではありません。NAが目指していたものを、違う方向で実現しようという意味。NAではなく「NAの志」に回帰したと言えばいいでしょうか。

ただし、時代が違うのだから取る手段が異なるのは当然ですし、そうなるとNAに似ないのもあたりまえです。見た目をNAに似せることはまったく考えませんでした。

----:それでも、NAオーナーからも好意的に迎えられているようです。

中山:目指しているものが同じだからでしょうね。それはなにかというと「人間の中にあるもの」に応えるということ。人間の感覚に合わせたものにするということです。

船に例えるなら、戦艦じゃなくて小型ヨットやカヌー。戦艦はその目的のために大きな船体が必要。でも「自分が乗って、動かす」ということを考えたときに、適切なサイズってあると思うんです。「ヒューマンスケール」(人間の感覚や動きに合った、適切なサイズ) ですね。

----:適切なパッケージレイアウトを構築して、そこにロードスターのキャラクターに最適な魂動デザインを表現した、と?

中山:原点に還るというのは、人間本来が持っているバランス感覚や美意識を目指すということなんです。スポーツカーとして、そのための必然に従っただけなので「なんでこの部分はこういうデザインになっているのか」なんて、わざわざ説明する必要がありません。

----:そういえば中山さんは、最初の商品(CX-5)でもチーフデザイナーでしたね。

中山:CX-5の経験がなかったら、もしかしたらSUVを敵視して、粋がってロードスターをデザインしていたかもしれませんね。でもSUVを手がけていたおかげで、心に余裕がありました。

山本:でも、発表会で6台が並んでいるのを初めて見てわかったのですが、全体的に後ろ(リアエンド)はまだちょっとイメージが統一できていないかな。リアエンドだけで「マツダ車だ」とわかるぐらいにしなきゃいけない、というのは今後の課題ですね。

----:いま契約しても、納車には少し時間がかかってしまうとか。待っている大勢の人たちにメッセージをお願いします。

山本:「待つ楽しみ」を味わってほしいと思います。いろいろなメディアを見ながらドライブ候補地を探したり、カスタマイズ計画などを練ったり。スポーツカーって、生活ですぐに必要なものじゃありませんよね(笑)。そういうクルマって、ほかにはなかなかありません。これもロードスターだからできる体験だと考えてくれたら幸いです。

《古庄 速人》

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