フロントエンジン前輪駆動という独自のマシン『NISSAN GT-R LM NISMO』でルマン24時間耐久レースへチャレンジする日産。開発は1年ほど前から始め、シェイクダウンは昨年11月。その後、アメリカでの3日間の公式テストを行った。WEC(FIA世界耐久選手権)の第1戦、第2戦には参戦せず、ルマンが初の実戦となる。
決勝レース前にNISMOの松村基宏COO、21号車のステアリングを握る松田次生選手の話を聞いた。
「WEC、ルマンに参戦するからにはイノベーションが必要だと考えてフロントエンジン前輪駆動のマシンでチャレンジすることに決めました」と松村COO。
「他のLMP-1マシンに比べ、ノーズが長くフロントセクションで相応のダウンフォースを得ているので、リアウイングをあまり大型にする必要がなく、ドラッグが少ないのが利点です」。
レギュレーションではミッドシップだとボディ後半の自由度が低くて苦労するが、FFはボディ後半にコンポーネントがないので理想を追うことができるようだ。決勝日にルマンへ姿をみせた日産デザインを統括する中村史郎COOは「ロングノーズの独特のフォルムで明らかにミッドシップ・マシンとは違いますね。ボディ自体の空力性能が高いので、余計な付加物などがなくてスタイリッシュに仕上がっています」。とお気に入りの様子だ。フロントのノーズ周り、ヘッドライトなどは『GT-R』のイメージを施すべく日産デザインもアドバイスをしているという。
WEC、ルマンのレギュレーションはガソリン/軽油の最大燃料流量が決められており、エンジンの熱効率、そしてエネルギー回生システムの活用を含めた全体のエネルギーマネージメントが勝負。
「エンジンの熱効率は、市販車をはるかに凌ぐものです(熱効率40%は超えているという)。エネルギーマネージメントというこれから役に立つ応用技術を学んでいる最中です。これはハイブリッド・スポーツカーを開発するのに活用できるでしょうね」と松村COO。次期GT-RがFFになることはないが、NISSAN GT-R LM NISMOが搭載するV6 3.0リットルツインターボエンジン+エネルギー回生システムで養った技術が応用される可能性が高そうだ。
実際に走らせてみると、意外なこともわかったという。「あまりクイックには曲がらないと想像していたのですが、ある速度、あるダウンフォースの領域では思っていたよりはずっとノーズの入り方いいのです」(松村COO)。
松田次生選手も「コーナーの入り口はまったく問題ないですよ。そこでは他のLMP1に負けていないと思います」と話す。
ただし、ドライバーへは負担をかけてしまっていると松村基宏COO。「空力特性の変化を嫌ってサスペンションを硬くせざるを得ないのが現状です。ですから、コーナーの立ち上がりでパワーをかけていくときに、路面のアンジュレーションや凹凸を吸収しきれなくてトラクションが思うようにかからないのが課題です」。
「コーナーの入り口、最高速はいいのですが、トラクションをかけづらいので0-200km/h程度までの加速でライバルと差がついてしまいます。そこが克服できれば面白くなるんですけどね」。松田次生選手は、現状で不利な点があることとを認めつつも、NISSAN GT-R LM NISMOのポテンシャルには手応えを感じているようだ。
フロントエンジン前輪駆の独自マシンで初めての実戦に臨むとあって、課題は少なくない日産のルマン チャレンジ。まずは、24時間後のゴールを目指す。