【マツダ ロードスター 試乗】素には素の良さがある…中村孝仁

試乗記 国産車
マツダ ロードスター S
マツダ ロードスター S 全 19 枚 拡大写真

4代目としてデビューしたND『ロードスター』。MTとATが存在し、MT仕様にはSグレードとSスペシャルパッケージ仕様が存在する。今回は素のグレード、Sに試乗した。

因みにATにはSグレードは存在しない。さて、では一体スペシャルパッケージ仕様と具体的にどこがどう違うか。一番顕著に走りに効いて来るのは、ダンパーの違い、並びにE-PASのセッティング、そしてトンネルブレースバーが存在しないことあたりだが、他にもSはリアスタビライザーを装備していないし、リアホイールインナーやボンネットのインシュレーターを取り去るなど、軽量化と簡素化を徹底し、結果として20kgの軽量化を果たしている。では、軽量化のためにこれらの仕様変更を果たしたのか。違う。確かに軽量化という側面もあるかもしれない。しかし、山本修弘 開発主査に話を聞くと、やはり求めたものは原点回帰。即ちNAロードスターが持っていた走りのテイストを復活させる。この一点にあった。

私事で恐縮だが、初代ロードスターが登場した時、和製ロータス『エラン』が出た! と飛びついて購入し、2年ほど楽しませてもらった。それは素晴らしい経験だったように思う。口さがない友人たちは、どうせエランには及ばないでしょ? と言った。確かにその通りだろう。しかし、ある意味エランはパーパスビルドのクルマ。そこへ行くとロードスターは立派にデイリーユースのクルマとしての要件を満たしていた。だから恐らく妥協もあったろう。しかし、日本の路上で「楽しい」を具現化してくれたクルマだったことは間違いない。

で、新しいロードスターSである。確かにトンネルブレースバーが無かったり、リアスタビがついてなかったり、ダンパーが変更してあったりするとSスぺシャルパッケージが持っているしっかり感はなく、どことなく緩い。それにロールも大きめ。しかし、これ、まさに山本主査の狙い通りだったのだろう。深めのロールは結果として足の動きを促進し、沈み込みながらグッとコーナーで踏ん張ってくれる。

もちろん限界はSスペシャルパッケージに比べて低いだろう。電子制御系で装備されているのは今やマストになった横滑り防止、即ちマツダでいうところのDSCとトラクションコントロールのみ。余計なデバイスは一切つかない。でも、必要ないと感じた。まさしく人馬一体でコーナーをひらりひらりと走る快感。じわっと加速するコーナー出口。試乗日、路面はウェットだったにもかかわらず、不用意なアクセル操作を意図して行ってもリアが破たんする兆候すら見せない。つまり、爆発的なパフォーマンスなどこれっぽっちも持たない。何せ131ps、150Nmのパワーとトルクだ。でも、試乗を終えて帰ってくると、顔がほころんでいるのは自分でもわかる気がするほどだ。リアホイールインナーにインシュレーターを持たないから、クローズすればエクゾーストサウンドもスペシャルパッケージ以上に室内に侵入し、サウンドを愉しむこともできる。ただし、雑味も同時に進入してしまうが…。

以前も別の試乗記で、クルマを選ぶ時の3要素について書いた。即ち自分に合ったスタイルか。自分に適した機能性を持つか。自分のドライビングスキルにあったパフォーマンスを持っているか。の3つ。これを満たせば安全に快適に、そして日常的に使えて持つ喜びを享受できる。僕はそう思う。

しかし今回、マツダの設定したグレードはかなり悩ましいのである。何故か。個人的にはSの足が欲しい。プリミティブだと言われればそれまでかも知れないが、少し緩い方が意図的にクルマを滑らして走るようなケースでは面白い。ガチっとした足回りだと、なかなか足の動きなど感知できるものではないが、この足の設定はそれを感じ取れるような設定だ。だからこれが良い。

しかし一方でマツダコネクトやi-ELOOPなどは欲しいのだが、Sにはその設定がない。オプションですら付かない。さらにはオートライトやオートワイパーといったたぐいの装備もないし、それもオプション設定でも付かないのだ。ナビに関しては結局、ディーラーオプションに頼る以外にない。つまり、そうした装備品が欲しければ、Sスペシャルパッケージをお買いなさい、ということだ。しかも価格差は20万円程度でしかない。だから、どう考えてもSスペシャルパッケージの方がお得感があるわけだ。この装備仕様について、山本主査はオートワイパーやオートライトは意図して外したと説明してくれた。まさに確信犯である。

というわけで、ロードスターSは結構パーパスビルド的要素を持ったモデルに仕上がっているというわけで、走りに徹したストイックなユーザーには向いているわけだ。 歳のせいかそこまでストイックにはなれないなぁ…。

■5つ星評価
パッケージング ★★★
インテリア居住性 ★★★★
パワーソース ★★★★
フットワーク ★★★★★
おすすめ度 ★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来37年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。

《中村 孝仁》

中村 孝仁

中村孝仁(なかむらたかひと)|AJAJ会員 1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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