【ロードスター開発者への10の質問】Q6.ロードスターのトランスミッション開発における必須条件は?

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マツダ ロードスター
マツダ ロードスター 全 16 枚 拡大写真

新型『ロードスター』の心臓部である「SKYACTIV-G 1.5」に組み合わされるトランスミッションは6速のSKYACTIV-MTと6速AT。

FR用MTの開発におけるハイライトとは。また、ATはアイシン製だが、それをマツダ風にどうアレンジしたのか。Q5に続き、車両開発本部 車両開発推進部 副主査の高松仁氏(「高」は、はしごだか)、パワートレーン開発本部 走行・環境性能開発部の兼為(かねい)正義氏の二人に話を伺った。

Q5.ロードスターのトランスミッション開発における必須条件は?
A5.小さく産んで大きく育てる。ディメンジョンありきではなく、常にあるのは“人間中心のパッケージ”

◆ATをSKYACTIV化しなかった背景とは

----:今回のFR用MTは新設計、ATはアイシン製と聞いています。もちろんロードスターに搭載するにあたって独自の味付けはしていると思いますし、ATの評判も中々良い。その辺の“キモ”のような部分をお聞かせください。

高松仁氏(以下敬称略):トランスミッションも含めてですが、このクルマを企画した時期というのは世の流れからしてスポーツカーにとって非常に不毛な時期でもありました。

もちろんマツダの中では、ロードスターを無くすという話は有り得ませんし、じゃあどこで、どうやってやるの? という時に、我々(企画部門)の中では「小さく産んで大きく育てる」という合言葉で表現していました。

つまりスタートラインではミニマムコンテンツというか、一気に色々なバリエーションを持つのではなくて、新しいお客さんを含めて、実際の土壌を作った上でバリエーションというか長く発展させていく。そのためにもスターターキットという位置づけからスタートしましたし、時代が許してくれなかったというのもあります。その中で、トランスミッションもまず「本当に、最初からATが要るのか?」というディスカッションも行いました。

----:そもそもATが必要かどうか、からですか。

高松:はい、それほど長いディスカッションにはなりませんでしたが、やはり要ると。しかしMTは当たり前ですが(ATも)当然進化させた状態にする。では二兎を追うのか、という話もありました。とはいえ、ミッションを決めるのは(クルマの開発においては)2番目、3番目の話です。“人間中心のパッケージング”でデザインやディメンジョンもこれでやりましょう、というのをまず決めるわけです。で、軽量化のポテンシャルも必然的に決まってくるわけですが、そうした時にこのミッションを入れるボディを作るという発想は無いわけです。

----:そこでアイシンのATを選んだ理由はどこにあったのでしょうか。

高松:結果論としては、全く見なかったわけじゃないですけど「人間中心で、より内側に低く座ってもらう、4輪のタイヤがここに来るから一体感を感じられる、低い所に座るからボンネットも低くなって、ヒップポイントも下げる」というような順番で、この中に入れなければならないという空間が先に決まってくるんです。そうして見た時に、ATはアイシンのものが一番“細かった”んですね。

----:細かったから。けれど、ただスペースに収まるから選んだというわけでもないのでしょう?

高松:大きな流れ的にはそういう順番で物事を考えています。が、ただ付けばいいという話ではもちろんありません。機能としては、ATにもスポーツモードというものを設けました。あれにも色々ディスカッションがありましたが(笑)。

「スポーツカーとしての2ペダル」というモノの考え方を、我々は否定しているわけではありません。そちらも当然1つの世界でありますし、視野には入れていく。それはある意味、小さく産んで大きく育てる、第2ステップとして、優先順はやっぱり付 けないと、産めないんです。最初から大風呂敷を広げた状態では。プログラムにはできない、という葛藤の中システム設定をしてきました。

----:一方のMTは新設計ですね。

高松:マニュアルトランスミッションも実は、流用する、という所から始まっていました。でも、思想はSKYACTIVですから、理想や現実的なスペースに対しても当然、機構的に小さく、軽くしないといけないわけです。で、少しづつ「ここは新設する、しない」というのを繰り返して実際設計しました。実際は流用出来ない部分もありましたから一部確信犯ですけど、あ、社内的にですよ。

一同:(笑)

◆2ペダルはスポーツカーじゃない?

----:世の中には2ペダルのスポーツカーも数多く出ています。一方でロードスターは一部には「マニュアルじゃないと」という声も聞かれます。このロードスターのATの比率って、NC(3代目)に比べてどうなると予想されてますか?

高松:今日(取材日)現在、25%位です。NCはRHTが出てから比率が上がり、最後50%がATです。

----:かなり多いですよね。

高松:出始めですからやはりMTの比率は多くなっているし、行き着く所、50:50になるかと思います。もしくはリージョン(地域)や国によっては、アメリカでも最終はATは60%位だったかな、逆にMTが40%もあったか、と思うわけです。ヨーロッパではMTが多かったです。

----:NDについてはどのミッションで乗るのが最適だと思いますか。

高松:MTじゃないと乗ってはいけないクルマだとは考えていません。元々ロードスターって、速く走ることを強いるようなクルマではないからです。むしろ逆に、「ゆったり、のんびりと」という表現が適切かどうかわかりませんが、「クルマとの会話を楽しんでもらうクルマ」というのがメインだと思っています。

ミッションやクラッチのミートも、自分でコントロールする楽しみがあることは間違いありません。しかし2ペダルという選択肢や楽しみも十分あって、2ペダルにした瞬間にロードスターというクルマの価値は何か変わるかというと、変わらないというのが私の感覚です。

◆数値だけでは語れないパフォーマンスフィール

----:ミッションのフィーリングなどはどう改善されているのでしょうか。

高松:パフォーマンスフィール的な話ですね。前にも「このクルマは、数値であまり語らない」とお話しましたが、典型的な部分で言えばトルクカーブというのは全開のときのデータですよね。全開は全開で、もちろん必要ですが、普段使う領域でアクセルをパーシャルから開いていった 時、もしくは加速していく途中で、どれだけ気持ちよく加速するかというのを彼らが一生懸命やっていました。これは基本的にATもMTと同じです

----:ロードスターのギア比というのは普遍的な数値があるそうですが。

兼為正義氏(以下敬称略):6速が直結の1(1.000)です。

----:6速が直結の1ということの意味は?

兼為:ファイナルギアが2.866。普通のFFだと2.6位です。先代と比較しても変えているのでデフのケース自体は小型化できるんですよ。

----:またそこでつながってくるわけですね。

兼為:先代に対して約7kg軽量化しています。

----:ATのほうはどうでしょうか。

兼為:ATのベースは基本的には先代と同じのを使っていますが今回1.5リットルで使うのにあたってトルクコンバーターを専用の部品を変えてます。

----:当然こちらも小さく軽くなるわけですね。

兼為:はい、あと今回はダイレクト感を出したかったので、ロックアップ領域を先代の5&6速に対し3、4、5、6速に拡大しました。

先代の2リットルから1.5リットルになり、出せるトルクが小さくなりました。エンジンの出せるトルクはATをコントロールするトルクになるのでその分ハード的にアキュームレーター(蓄圧器)を変えています。そのまま1.5リットルに持ってくると、変速のショックとかが悪くなるので、その辺りは手を加えて、一応今回の走りの目標に合致できるでしょう、というレベルに仕上げています。

----:実際はたくさんの改良を重ねているわけですね。ただ今のこの段階では、こういうやり方でやろうっていうことですか。

高松:いえ、SKYACTIVというのは理想を追求していきますので、前述したようにロードスターの場合は「小さく産んで大きく育てる」という中で、ディメンションを先に決めています。

狙いはここにあって、そのしがらみの中でやりきる。結果としてディメンションに入るもの、という選び方になりましたが、ATはそのまま持ってきて放置して、古いATの性能のままだと言わせるつもりはありません。

◆キーワードは“吸い込まれ感”

----:シフトフィールは非常にスムーズな印象を受けました。開発側としてはどうでしょうか。

兼為:「シフトが自然に決まる」ということだと思います。自然というのはシフトしてる時って、このゲートからこちらのゲートまで手を動かす、クラッチを踏む、アクセルも調整します。それが全部きれいに決まらないと、自然という感じがしません。そこに入ってくる要素は、クラッチペダルの重さや戻ってくる フィーリング、クラッチを繋ぐタイミング、クラッチの伝達スピードなどがあります。

----:ショートスロークですよね。

兼為:シフトはこのストロークは先代からずっと受け継いだ40mmのゲート。ショートストロークのゲートをここからここまで持ってくるタイミングで、回転がちょうどいいところまで落ちてこなきゃいけない。回転慣性ですね。回転が落ちる時にフライホイールが無かったらなかなか落ちてこないし。逆に回転慣性が軽すぎると、今度はギア周辺のノイズが出てきたりします。耐久性とのせめぎあいもある中、今回は薄型化と25%の軽量化も達成しています。

----:開発をされてきた中、こうありたい、という目標や思いはあるのでしょうか。

高松:シフトのゲートインのところで、我々は“吸い込まれ感”っていう言い方をしています。それを今回、もっと強調したい。とにかくステアリングなども含めて全体をある意味丁寧に、力まずに、無意識に操作できる状態になりたいっていうのがあります。

その1つとしてシフトもそうですし、グリップもそういう想いで作ってるし、まさに吸い込まれ感。ゲート位置もすぐ分かって、そこまで持って行ったらもうあとは自分で入る、を目指してやってきてます。流れ的には少し乗れば、まさに「自分の手足のように」なるはずです。

《高山 正寛》

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