新型『ロードスター』は、デビューから25年を経て、使い勝手や利便性も兼ね備えた最新のスポーツカーとして進化を遂げている。
その細かな配慮とこだわりについて、商品本部 商品企画部 主幹の中村幸雄氏に話を伺った。
Q9.現代のスポーツカーとして向上させた使い勝手とは?
A9.乗降性を改善し、シートの快適性をアップさせた。ソフトトップも開閉のしやすさとデザインを両立している。これまでのオープンカーであきらめてしまっていたことも、今の時代に合わせてきちんとやる、ということ。
◆使いやすさ、快適性をマツダらしくブラッシュアップ
----:ロードスターに上手くサッとスムーズに乗るコツはあるのでしょうか。乗降性に関して改善した点は?
中村幸雄 主幹(以下敬称略):乗るときは、ワンアクションでサッと乗れるのですが、降りるときは人それぞれの降り方があるので研究しました。まず、着座位置が低いと、ある程度体重を起こさなければいけない。それをシートバックに手をかける人もいれば、サイドシューに手をつく人もいます。適切な体に近い部分で、平面を作るなど工夫しました。
また、足の出しやすさも重要ですよね。実際日本の市場なんかで言うと、スーパーの駐車場などに入ったら、思い切りドアを開けることも難しい。ロードスターは特に2ドアで大きいので開度がそんなに取れないんですね。その中で足を出さなきゃならないので、実を言うと、ドアトリムの下側はぎりぎりまで削って、サイドシュートリムの前側外側を斜めにそぎ落としました。ちょうど足が通過するところに、通過の軌跡を削れるように落としています。
----:シートが、ネットシートというものになりましたが、具体的にどう変わったのでしょうか。
中村:「Sフィット」と呼んでいますが、ポリエステル系の糸を縫ったネット状の物を、ウレタンのクッションの中に入れています。『デミオ』でシートバックにネットを入れたものは採用していますが、シートクッションも両方というのはロードスターが初です。人間の背中は側面から見ると背骨が反っています。もたれた時に、しっかり面では支えてあげるところと、一方でホールドしてあげるところと、というので面圧をいろいろ変えていったほうが良い。なので、特性の違うバネ状のものがいくつか入っているネットシートは、人間の体にきちっとフィットするようになっています。
座面側は、従来金属製のSバネで吸収したのに対して、ポリエステル系のネット素材をバネに使ってるのですが、後者のほうが減衰性が高いのです。車の振動に対して、ポリエステル系のネットが減衰をするので、それによって乗り心地が向上します。
また、乗員の位置を下げるにあたって、シートクッションが薄くないとならないのです。シートクッションの下にはシートレールがあって、これはどうしても下げられない。どうやって稼ぐかと言ったら、薄くするしかないんですね。従来の構造のままシートクッションを薄くしたら、ストロークが無くなるので乗り心地が悪くなる。それを両立するっていうのが今回のネットシートなのです。
----:マツダが以前から取り組んでいる、設計生理学の部分と、薄く軽くを併せ持ったシートということですね。さらに、今回はソフトトップ(幌)の進化もポイントかと思うのですが。
中村:キネマ的な考え方はNCと同じですが、閉める際に浮かないので座ったままではできない。今回は、アシストスプリングを入れて、ロックを解除するとボン、と浮くようにして、操作時にもアシストするようにしています。またリンクもアルミに変えて、幌そのものも軽くしました。
ヘッダーパネルにはアルミを採用しています。1つはデザインのこだわりですね。幌っていうのは過去のモデルでは骨がこうあるので、その間がたわむと、美しくない。今回はスモールなキャビンにしていくので、それがホネホネになるのはいよいよかっこ悪いので、シュッとドーム型にしたかった。そこで、パネルを入れて、まずテンションを出すんですね。あとは風騒音とかNVHの部分でも、パネルを貼ることによって効果が現れています。
◆エンターテイメントもただ「楽しい」だけではない
----:「S」グレード以外にはBOSEのサウンドシステムがオプション設定されています。オープンカーにおける音楽のあり方というのは、どういうふうにお考えですか。
オープン走行時には、オーディオをあまり聴こえなかったりクオリティが低いままでも諦めるしかないかな…と思っているのが従来だったんじゃないかな、と思うんです。一方で、BOSEはヘッドレストスピーカーを運転席にも助手席にも用意しているので、乗員にだけ聞こえるという考え方。なので、ある程度の音量にしてもドライバーによく聞こえるようになっているのであって、外に音を漏らすという考え方ではない。あとは、今は、ハンズフリーフォンとか、電話でも会話時にも便利ですね。オープンだと、電話がかかってきた時にその会話がスピーカーからワンワン出て、恥ずかしいこともありますから(笑)。
----:そうですね(笑)。
中村:要は、これまでオープンカーでは諦めてしまっていたものも、オープンカーとして一番楽しめるやり方で、さらに今の時代に合わせてきちんとやる、と。
----:マツダコネクトもSpecial Package以上には標準装備ですが、スポーツカーにおけるマツダコネクトの役割、例えばデミオや『アクセラ』などとは位置づけが異なるのでしょうか。
中村:マツダコネクトは、一般的にはナビやエンターテイメントという認識があると思いますが、走行中でもドライバーの欲しい情報が目に見える形で取得でき、いろいろ操作できるというように、いろんな広がりがあると思ってるんですよ。例えば、スポーツ走行の時のデータ表示ができるとか。
人間の目の特性として、視線を下げると、上側のものが視野に入りづらくなるのです。だから目線を下げるっていうのは、前方が全く見えなくなるので非常に危険なんですよね。なので、基本は目線を絶対下げずに、横移動でちらっと見えるような表示系にしています。目線を左右にやっても、例えば、前走車のテールランプが光ったりするのも分かるのでぱっと戻せる。そういう意味で、マツダコネクトの存在は重要だと思います。