『フィット』のスペースユーティリティは世界のコンパクトカーの中でもピカイチと言える。
そんなフィットのコンパクトワゴン版が『シャトル』だ。室内空間の広さはフィット譲りで、特にリクライニング機構が加わった後席は身長172cmのリポーターのドライビングポジションの背後で頭上に15cm、ひざ回りにはひとクラス上のワゴンに相当するの18cmものスペースがあるからゆったりできる。
ラゲッジも広大だ。その広さ、容量は3ナンバーワゴン並みで、フロアは低く重い荷物 の積み下ろしやペットの乗降も楽々。先代ガソリン車にあった、A字に畳み、ラゲッジ 前後を仕切れたマルチボードが廃止されたのはちょっと残念。ガソリン車の場合、 ホテルのクローク、コンシェルジュの意見からヒントを得た、後席背後の収納=マルチユースバケットは設定されないグレードでもある。
メーター&シフター回りのデザインにハイブリッドのような先進感はなく、132ps、モード燃費 21.8km/リットルという1.5リットルガソリンエンジン+CVTを組み合わせるガソリン車「G」の走りは、ハイブリッドと比較してしまうとかなりフツーである。
たしかにトルキーに発進し、動力性能的には十分だが、ノーマルサスペンションと15インチタイヤを組み合わせた乗り心地はハイブリッドに比べ硬めでゴツゴツしたタッチを示す。 段差やマンホールを超えたときのショックもハイブリッドより大きめに感じられ、しなやかさに欠ける印象なのだ。ハイブリッド専用のザックス製振動感応式ダンパーを、こちらは採用していないのがその一因だろう。
しかも、ハイブリッドほど防音材、吸音材(フロント遮音ガラス含む)がおごられていないこともあって 、ゴロゴロ、ざわざわする領域もあるエンジンが3000回転を超えたあたりからエンジンノイズ、こもり音がけっこう目立ってしまうのだ。
とはいえ、操縦性に関してはハイブリッドよりキビキビ感があるもので、スポーティーなテイストという意味ではガソリン車が上回るように感じられるかもしれない。
ハイブリッドに対してリードする部分はラゲッジ床下収納の容量(ハイブリッドは1か所、ガソリン車は2か所あり)、価格ぐらいではないだろうか。価格に関しては、169万円と、ハイブリッドのベース車より30万円安、ハイブリッドのメイングレードであり、走りの開発基準グレードとなる「ハイブリッドX」より50万円も安いのだ。
が、ベースグレード的位置づけのガソリン車とハイブリッドの両方に試乗したとすれば、運転席回りのデザイン、走りの質感、快適度、シートのかけ心地(X以上。表皮が異なる)、静かさといった項目を含め、「今度のシャトルはハイブリッドしかないね」「ガソリン車はクラッシィリゾーター 、”さぁ、心のリゾートへ”という新型シャトルのコンセプト、テーマとはちょっとズレるよね…」と思えたのも本当だ。
後席を低くフラットに倒し、ヘッドレストを逆付けすることで身長188cmの人でも真っすぐ横になれる、全長約185cmのベッド化、車中泊も可能なシートアレンジ性は、マルチユースバケット付きの「ハイブリッド X」、「ハイブリッド Z」より優れてはいるのだが…(マルチユースバケットが付かないためよりフラットなベッドになる!)。
ところで、シャトルにはホンダ最新の先進安全装備、ホンダセンシングはOPでも用意されていない。思うに、タイミング的にまだ付いていないか、兄貴分のフィットに遠慮したのではないか。今後、フィットにOP採用されるタイミングで、こちらにもOPで用意されるはずだ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★
ペットフレンドリー度:★★★★
青山尚暉|モータージャーナリスト/ドックライフプロデューサー
自動車専門誌の編集者を経て、フリーのモータージャーナリストに。自動車専門誌をはじめ、一般誌、ウェブサイト等に寄稿。自作測定器による1車30項目以上におよぶパッケージデータは膨大。ペット(犬)、海外旅行関連の書籍、ウェブサイト、ペットとドライブ関連のテレビ番組、イベントも手がけ、犬との自動車生活を提案するドッグライフプロデューサーの活動も行なっている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。