【モデューロ S660 試乗】まさにミニ NSX、この足で初めて S660 は完成する…井元康一郎

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MODULOのエアロ、サス、ブレーキ、アルミホイールを装着したホンダ S660
MODULOのエアロ、サス、ブレーキ、アルミホイールを装着したホンダ S660 全 28 枚 拡大写真

ホンダの軽オープン『S660』を「MODULO(モデューロ)」ブランドでカスタマイズパーツを展開するホンダアクセスの足回り、エアロパーツなどでチューニングしたモデルに試乗する機会を得たのでリポートする。

◆S660の完成形に到達、“群サイ”で鍛え上げた足回り

用意された試乗車は3台。ベースモデルのグレードはすべて上級の「α(アルファ)」で、CVT車にモデューロのアルミホイールを装着したもの、6MT車にサスペンションキットとドリルドブレーキローター、ブレーキパッドを装着したもの、さらにそれに電動リアスポイラーを装着したものの3種類だ。

試乗コースは群馬北方、みなかみ町にある群馬サイクルスポーツセンター。全長6kmのこのコースは全線がギャップ、アンジュレーション(路面のうねり)、舗装のひび割れだらけで、南信濃の地方道のような道路相。全日本ラリー選手権のスペシャルステージ(タイムを競うスピード競技区間)にも使われるこのコースは、モデューロ開発におけるホームグラウンドのような場所でもあるのだという。

その3台を試乗した結論から言えば、S660はモデューロのパーツを装着して初めてS660が完成形になると断言できるほどに素晴らしいものだった。

筆者は過去、S660をほんの少ししか運転していない。見た目はミニチュアスーパースポーツのようで着座位置も低いが、いざ動かしてみたらただの軽自動車じゃないかとしか思えない、退屈な乗り味だったからだ。が、モデューロのサスペンションキットを組み込んだ個体は、それとはまったく異なるクルマに仕上がっていた。

◆路面を掴んで離さないユーロスポーツのような味付け

最初に乗ったのは、ノーマルのホイールをモデューロの16インチに換装したもの。完全フルノーマルで同じような道路相の山岳路を走ったわけではないのであくまで感覚的なものだが、ドライブフィールについてはフルノーマルと大きな違いがあるようには思えなかった。アンジュレーションやギャップを拾うたびにクルマが跳ね、グリップ力が損なわれる。またアップダウンのきついコースで、勾配とコーナーが重なっている場所では着座位置が低いせいかコーナーの先の見越しも悪い。クローズドコースを走っていても、楽しさより緊張感のほうが常に優越するという状態だった。

次にサスペンションとブレーキを組み込んだモデルを走らせてみたのだが、比較試乗の中でこれがもっとも衝撃的であった。いくらライトウェイトオープンといっても、全幅の小さな軽自動車ではストロークも制限され、しょせん味付けには限界があるのだろうというイメージが、スタート後の最初のコーナーでステアリングを切った瞬間に丸ごと払拭されるような思いだった。

ステアリングを切り込んだ瞬間、フロント外側のサスペンションが引っかかり感なしにしなやかに沈み込む。クルマが「これからこのように動きますよ」と、姿勢を通じてドライバーに教えてくれているかのようだった。すると、最初の個体に乗ったときに見通しが悪いように感じられた林間コースが、とたんにパッと開けた場所のように見えてきた。見通しが悪く感じられたのは単に着座位置が低いことに起因するのではなく、実は目には見えているのにクルマの今の動きのインフォメーションが薄く、また自分の運転操作でどういう動きをするか予想をつけづらかったことによる心理的な部分が大きかったのだと認識を新たにした。

このモデューロサスペンションの素晴らしさは、単にインフォメーションを得やすいだけではない。ノーマルサスペンションだと跳ねて駆動力やグリップ力が抜けてしまうような場面でも、路面をしっかり掴んで離さない。ユーロスポーツモデルのような、四輪が路面に練りついている感覚そのものである。開発のトップである福田正剛氏は、

「サスペンションのジオメトリーは、ストロークさせて初めて生きる。どのように素晴らしくストロークさせるかということは、クルマの走りを高めるための基本中の基本。これはS660だけでなく、すべてのモデルに通じるモデューロの思想なんです」

と、狙いを語る。サスペンションをしっかりとストロークさせているからこそ、伸び側の反応も良いものになり、結果としてロードホールディング性全体が高まるのだ。

◆低速から効果を発揮する電動リアスポイラー

3番目は、70km/h以上で展開、35km/hで格納されるという電動リアスポイラー付き。事前にスタッフから「これがまたひと味違うんですよ」と吹き込まれていた。まあ、自信があるからこそわざわざ仕様を分けたのだろうが、これまた効果を如実に体感できるほどの違いがあった。ダウンフォースが如実に表れる中高速域だけでなく、整流効果のおかげか、中低速コーナーでの回り込みでも違いがある。コーナー出口でスロットルを踏み込んだとき、外側のリアサスペンションが軽く沈み込む動きを腰に感じるほどだ。

筆者は昨年春、モデューロのサスペンションキットを組み込んだ初代『NSX』を芦ノ湖スカイラインで走らせた。そのとき、「NSXってこんなタイトで荒れたワインディングロードを、これほどまでに楽しく走れるクルマだったっけ」と思うくらいにコントローラブルでびっくりしたのだが、このリアスポ、サスペンション、強化ブレーキ付きS660は、そのモデューロNSXのミニチュア版と呼ぶにふさわしい走りだった。

◆土屋圭市氏「まさにこれが我々の目指す、ストリートチューン」

最後にモデューロの開発アドバイザーを務める元レーシングドライバーの土屋圭市氏が、筆者を助手席に乗せて、同じコースを流してみてくれた。

「いいクルマを味わうのに腕は関係ありません。どんなレベルのドライバーでも、そのレベルに応じて良さは確実に体感できるし、楽しさも増す。エンジニアに本物の情熱があれば、そういう本物の楽しさを持つクルマを作ることは可能なんだということを、このクルマはある程度証明できる域に達していると確信している。より速く、より安全で、より乗り心地が良い…僕だって、クルマが良くなきゃ荒れたルートを速く走る気にはなりませんよ。世の中、そんなクルマだらけです。しかしこのS660は、こんなアンジュレーションやギャップを高速で通過してもリスキーなことは何も起こらない。サーキットのような平坦な路面だけでなく、どんな道路でも、クルマを信頼してドライブできる。まさにこれが我々の目指す、ストリートチューンなんです」

3モデルを乗り比べた結果確信したのは、何はともあれS660を購入するカスタマーにとって、サスペンションキットはマストアイテムだということ。これがあるのとないのとでは、もはや別のクルマだからだ。ノーマルが、着座位置が低くて屋根の開くただの軽自動車であるのに対して、モデューロS660は“軽自動車にしては”という枕詞などまったく関係なく、こういう楽しい乗り物だという個性を確立しているという違いだ。

そのサスペンションキットをつけたうえで、電動スポイラーやドリルドローター、アルミホイールなどを予算に応じてつけるといい。もしそれでも予算不足という場合、シティブレーキを捨てることにはなるが、装備レベルの低い下位グレードの「β」にして、差額をサスペンションキットに使ってもいいくらいだ。

現時点では一般のカスタマーがこのモデューロ版S660を試せる機会は多くはないが、ぜひ一度運転してみることをおすすめしたい。本当に、走り始めてすぐに違いがわかるレベルにあるのだ。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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