格安SIM初の「通話かけ放題」を採用した『エックスモバイル』の勝算

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エックスモバイルの代表取締役CEO 木野将徳氏
エックスモバイルの代表取締役CEO 木野将徳氏 全 4 枚 拡大写真

 SIMロック解除義務化によりこれまで以上にいわゆる“格安SIM”を提供するMVNO(=Mobile Virtual Network Operator、仮想移動体通信事業者)が注目されるようになっている。

 総務省が4月30日に発表した『MVNOサービスの利用動向等に関するデータの公表(平成26年12月末時点)』の資料によれば、2013年第2四半期に151社だったMVNO事業者数が、2014年第3四半期には170社まで増加をたどっている。

 今後も伸びていく分野とされているが、これらMVNOは既存の通信事業者(MNO=Mobile Network Operator)から通信回線を借り受けて事業を行っている都合上、その回線卸価格がMVNOの通信料金に大きく影響するほか、MVNO同士で差別化を図るのがなかなか難しくなってきている状況にある。

 そんななかで、独自のブランドにてFC(フランチャイズ方式)で店舗展開を図り、またiPhoneやXperiaなどの人気端末をラインアップしながらMVNOとしてサービス提供を行っているエックスモバイルが話題を振りまいている。

 人気スマートフォンをラインアップし、それと同社のSIMを組み合わせ、FCの店頭(店舗とSIMのブランド名は「もしもシークス」)で顧客に販売を行っている。そのエックスモバイルは10日、MVNOとしては珍しい「通話かけ放題」プランを発表した。

 同社が発表した通話定額の「かけたい放題」プランは、1GBのデータ通信と3分30回まで通話無料できる「基本料金プラン」(月額1,980円、税別)、7GBのデータ通信と5分30回まで無料通話できる「あんしんコース」(月額2,980円、税別)、さらに7GBのデータ通信と10分、100回の無料通話可能な「まんぞくコース」(月額3,980円、税別)の3プラン。

 このほか法人向け料金プランも用意されたほか、もちろん、既存のケータイやスマホで利用している電話番号をMNPで乗り換えて利用することが可能である。

 本コラムでは、前半で今回発表された新プランについて解説しつつ、後半で同社の代表取締役を務める木野将徳氏へのインタビューをお届けしたい。

■MVNOとしては思い切った「かけたい放題」プラン

 エックスモバイルは、「もしもシークス」のブランドで2014年10月10日から営業を開始。大手資本等は入れず創業者である木野将徳氏が自ら営業をかけてFC店を集め資金調達しMVNO事業を開始した。

 SIMカードのみの販売では、他のMVNOとの差別化が図りづらいとして、2015年4月には「iPhone 6/iPhone 6 Plus」の新品および未使用とのセット販売も開始。5月にはソニー製「Xperia Z3 Compact(SO-02G)」、「Xperia Z3(SO-01G)」の取り扱いも開始した。

 これらは独自の新品、新古品流通ルートから調達したものでNTTドコモのSIMロック品である。そのほかにも、HUAWEI製のAscend G620S(SIMフリー版)なども扱ってきた。そのエックスモバイルは10日、さらに追加となる新端末ラインアップと、これまでの料金プランに代わる新しい「通話定額」となる新プランを披露した。

 新端末ラインアップでは、HUAWEI製の「d tab d-01G 16G」(SIMロック版)、サムスン電子製「GALAXY Tab S 8.4(SC-03G)」(SIMロック版)が追加されたほか、MVNOのラインアップとしては異色の「BLACKBERRY CLASSIC 16G」(SIMフリー版)も加わった。

 新プランについては090-、080-、070-という従来の携帯電話等の電話番号をそのまま利用できる「かけたい放題」プランが登場した。回数と通話分数に制約はあるが、こうした準通話定額プランはMVNOとしては初の試みとなる。

 従来のMVNOで音声通話定額サービスを提供しているところは、いずれもIP電話を利用したもので通話品質はネットワークの混雑状況によって劣化する場合があった。電話番号も050-で始まるIP電話の番号を利用することになるものだ。

 エックスモバイルが導入する「かけたい放題」プランは、大手キャリアが提供している音声通話サービスと同じ回線交換方式のもので、090-、080-、070-で始まる電話番号で発着信が可能となる。本来であれば音声通話付きのプランとなれば、MNOからの回線卸契約上、音声通話定額の実現は不可能である(通話は従量制となるはずだ)。

 エックスモバイルの場合、あらかじめ同チェーンで販売されるスマートフォンには専用の通話アプリがプリインストールされ、この専用通話アプリを通じて通話発信する形になる。すでにエックスモバイルが市販した端末を使っているユーザーや、SIMカードのみを契約しているユーザーは、この専用通話アプリをダウンロードすることで、エックスモバイルの新料金プラン「かけたい放題」の利用が可能である。

 専用通話アプリを利用するというと、IP電話経由の通話接続を想像してしまうが、同社によればあくまでも回線交換方式での音声通話を実現させており、音声通話品質の劣化はないという。実際にデモンストレーションで通話を試したが、これまでのスマートフォンでの通話となんら遜色はない。

 その仕組みだが、専用通話アプリを使うことで、発信先の電話番号の前に専用の発信番号を自動付加し、独自の回線網を経由して相手先の通信会社に接続する仕組みをとっている。これは、たとえば「楽天でんわ」アプリと同じ技術的な仕組みを利用しているようだ。

 「楽天でんわ」は電話番号そのままで通話料が半額になるというのが特徴だが、楽天の場合も専用通話アプリを使うことで、発信時に発信先電話番号の頭に自動的に「0037-68」を付加し通話発信を行う。

 これにより楽天傘下となったフュージョン・コミュニケーションズを中継して相手先通信会社に接続する仕組みとなっている。エックスモバイルの場合も同様な技術的仕組みと思われるが、どの通信会社を中継して接続されているかは明らかにされていない。

 MVNOによる回線交換網経由の「かけたい放題」は初の試みといえる。他のMVNOと差別化を図る上で、さらには大手通信会社を利用している一般のユーザーにエックスモバイルのサービスをアピールするうえで、音声通話も含めて利用料金が安価になるというのは、大きな売りになるはずだ。

 今回発表された「かけたい放題」プランは、1GBのデータ通信と3分30回まで通話無料できる「基本料金プラン」が月額1,980円、7GBのデータ通信と5分30回まで無料通話できる「プラス1,000円プラン」は月額2,980円、7GBのデータ通信と10分、100回の無料通話可能な「プラス2,000円プラン」は月額3,980円となる。無料通話分を超える通話をした場合、1分20円の通話料がかかる。

 なお、同社は従来からデータ通信が容量無制限で利用可能なプランを提供してきたが、新プランの登場により従来のプランは10日以降、受付を終了する。以前のプランを利用しているユーザーが「かけたい放題」への変更を希望する場合はプラン変更に対応する。また、従来通りのプランを希望するユーザーはそのまま継続して利用が可能である。

■異業界からの参入。携帯電話業界のLCCを目指す

 MVNOに新風をもたらすエックスモバイル。サービス開始からまだ1年も経っていないが、フランチャイズ(FC)によりリアル店舗を全国に拡大中で、現在全国に10店舗の専業ショップをオープンさせたほか、併売形式のサテライトショップは80店舗を超す。

 ドン・キホーテやサークルKサンクスなどでも同社のSIMが取り扱われており、その事業拡大の勢いに驚かされる。直営店は1店舗のみで、あとは代表取締役の木野将徳氏が各地に足を運びFCを開拓していった。

 FCの本業種も多様で、地方で不動産業を営んでいる企業、うどん屋、バス会社、タクシー会社など幅広い。もともとの本業として携帯電話事業を営んでいるFCも最近では順調の増加しているという。

 そのほかにもスマートフォンの修理業や、スマートフォンの買取業をやっている企業がFC加盟し、本業の傍らSIMを売ってくれるというFCもある。エックスモバイルがiPhoneやXperiaを安定供給しているのは、じつはこうした業種との接点ができたことも大きいのであろう。

 また、同社は今夏にCB(第一回 転換社債型新株予約権付社債)を発行し、1億円以上の資金調達に成功している。木野将徳氏が創業時に自己調達した1億円のほか、FCから加盟金や保証金などを合わせ、合計約9億円を調達、無借金経営を実現させている。

 そんなアクティブなエックスモバイルを牽引する代表取締役の木野将徳氏はまだ31歳と、通信事業者の代表者としては最年少の部類である。そんな木野氏にインタビューをさせていただく機会を得た。

■19歳で起業した木野社長がMVNOに出会ったきっかけ

--- MVNO事業をやろうとお考えになったのはなぜ?

木野氏:もともと事業を興したいという野望はありました。2004年、19歳で起業し、フラワーショップ等を経営しました。その後、マレーシアに渡り、胡蝶蘭などフラワーの日本への輸出事業などを行いました。

 そんな事業の傍ら、現地ではヴァージン・グループのリチャード・ブランソン氏の勉強会へ参加してMVNOやLCC航空会社を知り、そして実際にアジア地域でLCCとしてエアアジアXを創業させたトニー・フェルナンデス氏にも知り合うことができました。LCCが素晴らしいことは、それまで航空運賃といえば1万円以上したものが、数千円で搭乗できるようになったことで、賃金の少ないマレーシアの人たちもエアラインに乗れるようになったわけです。

 航空業界に生まれたLCC、これを通信業界でも実現できないか? ローコストにしてインターネットの利便性を誰もが享受できる社会を実現させたい、そう考えたのです。

 とはいっても、私自身は日本の携帯電話業界のことを何も知りませんでした。たまたま日本へ行くエアラインの隣席に日本の通信事業者の執行役員の方がお座りになり、そこで日本の通信業界の一端を知ることになりました。

 これが運命の出会いだったと感じています。MVNO事業を始めようと考える大きなきっかけとなりました。ちなみに社名のエックスモバイルというのは、このエアアジアXの「X」を使わせていただきました。

--- 当然、日本で通信事業を立ち上げるには、苦労も多かったと思いますが。

木野氏:はい。すでに日本には多数のMVNOが存在し、特徴がなければ見向きもされません。そもそもSIMカードの仕入れの段階でも相当苦労しました。設立1年目では融資も受けられません。またSIMの仕入れに関しても、ほとんどの会社に取引を断られました。

 ただ、偶然の巡りあわせもあります。創業間もない頃、ドン・キホーテの専務にお会いする機会があり、開業のあかつきにはSIMを販売してくださるという約束をいただけました。資金面でも苦戦していましたが、一緒に「もしもシークス」ブランドを開拓していってくれるFCオーナーさんが増えていき、そのFC加盟金を原資にして事業を一気に立ち上げることができました。

 FCの中には中古端末買取店や修理店などの企業もあり、そうした人脈の広がりから、iPhoneやXperiaなどの端末調達ルートの確保も実現しました。FCの皆様と一緒に事業を進めていく、そんな感じで展開を図っています。

--- 今回発表された「かけたい放題」は勝算がありそうですか?

木野氏:たくさんのMVNOがあるなかで、今後は一般の消費者にどう認知してもらい、乗り換えていただくかが鍵になります。一般の消費者の方たちは、たとえばデータ通信容量が何GBだとか、通信速度が何MBとだと言っても、なかなか分かりづらいでしょう。そうしたユーザ向けに通話が定額で済む「かけたい放題」はインパクトを打ち出せるのではと思っています。

 大手通信事業者各社が一斉に通話定額の料金プランを打ち出しましたが、スマホ向けのものでは最低の基本使用料だけで3,000円かかります(2,700円+ネットプロバイダー料300円)。それにデータ通信用のパケット利用料が別途掛かります。MVNOですので、大手通信事業者の料金プランの基本使用料ぐらいで通話もデータ通信も全部含められるぐらいであれば、関心を持って頂けるのではと思いました。

 では、これで利益が出ているのかというと、正直なところほとんど利益は出せません。ただ、大きな損失が出るわけでもない、ぎりぎりのところという感じです。まずはユーザーを増やして収益を安定させるというところを目指します。

 これまで、通話やデータ通信のユーザー利用状況をさまざまな視点から統計的に分析してきました。通話に関しては1回の通話時間が長いユーザーは通話頻度が少なく、一方で通話頻度が多いユーザーは1回の通話時間が短い傾向にあります。こうした統計的データを元に、発信できる回数や定額内通話可能な分数などを算出しました。

 今回発表した1,980円、2,980円、3,980円の3つのプランですが、私の試算では3:5:2ぐらいの比率で利用されるのではないかと見ています。その上でARPU予測としては3,200円ぐらいではないかと考えています。ユーザーの利用傾向を見ながら、将来的には完全なかけ放題も実現させたいところです。

--- 通信料金の一部を発展途上国へ寄附しているのですね。

木野:はい、現在、毎月の通信料金の1%を途上国へ「通信の普及支援」として寄附しています。これはマレーシアに住んでいたときに痛感したのですが、携帯電話を含めた通信環境の普及は、じつはまだ先進国が中心で、発展途上国ではまだまだ通信の利便性を享受できていない貧困層の人たちがたくさんいます。そうした国々の通信インフラ発展に貢献したいと考えているのです。

■成否は見えないが、今後の動きに注目しておきたいMVNO

 通信事業は規制産業であり、さまざまな法律の下で認可を受けた通信事業者がサービス提供を行うものである。そこには通信設備の構築など莫大な投資が必要であり、ともあれ簡単に参入できる領域ではなかった。

 しかし、既存通信事業者(MNO)のインフラを借用して独自ブランドで通信事業を展開できるMVNOが認められるようになり、またMVNOに対する卸料金も大幅に下がってきた。

 大手3事業者が2015年3~4月に総務省に届け出たデータ通信接続料(レイヤ2接続・10Mbps 当たり月額)では、NTTドコモの場合95万円(前年度比▲23.5%)、KDDIの場合は117万円(前年度比▲57.6%)、ソフトバンクの場合135万円(前年度比▲61.5%)と提言している。すなわち、MVNOとして独自ブランドで通信事業に参入できる障壁がどんどん下がっている。

 MVNOは、これまで大手企業の資本が入った事業者ばかりであったが、エックスモバイルのように資本もほとんどない状態から創業1年でサービス提供を開始するようなベンチャー的MVNOも出現するようになった。

 木野氏はすでにFCの一次店、二次店を合わせおよそ600社に達しており、2,000店舗の開業を目指すとしている。そのやり方には手荒い部分も少なくなく、日々サービスの改善に努めているところをウェブなどからも読み取れる。

 しかしながら「携帯電話事業におけるLCCとして必ず成功させる」という木野氏の気迫には驚かされたし、また携帯電話業界に関する知見がほとんどなかったという状況から、「志」ひとつでこのMVNO事業に邁進している。世界の発展途上国の現状を知り、LCC航空会社がそうした途上国の人たちの生活を変えたように、通信の世界も変えて行きたいという強い意志を感じた。

 携帯電話業界には“この琴線には触れてはいけない”とか、“この一線を超えてはいけない”というような暗黙のしきたりのようなものが存在するのだが、木野氏はこうした業界の商慣習にはとらわれず、自身が実現したいことにひたすら奔走している。

 その姿は業界関係者にとっては、ときには“やんちゃ”に感じるところもあるのだろう。ただその“やんちゃ”さは、通信業界(とくに携帯電話販売業界)に根付いてしまった“ユーザーの便益よりも営業利益を追求する主義”に比べれば、とても健全な志向に感じさせられた。

 ともあれエックスモバイルの動きには、今後も注目していきたい。

【木暮祐一のモバイルウォッチ】第81回 LCCを手本に出発した“ベンチャーMVNO”「エックスモバイル」、新プランの勝算は?

《木暮祐一@RBB TODAY》

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