【スズキ アルト 370km 試乗前編】実燃費30km/リットルに挑戦…井元康一郎

試乗記 国産車
スズキ アルト 370km試乗、燃費30km/リットルに挑戦
スズキ アルト 370km試乗、燃費30km/リットルに挑戦 全 8 枚 拡大写真

超軽量ボディや減速エネルギー回生機構の搭載で高い燃費性能を実現させたスズキ『アルト』。JC08モード燃費は37km/リットルと、ハイブリッドカーのトヨタ『アクア』と並ぶ数値で、プラグインカーのユーティリティファクター値を除けば目下、内燃機関車トップである。そのアルトでロングランをやれば一体どのくらいの燃費で走れるのか、東京と北関東の往復で試してみた。

試乗車はアルトの中で最も豪華な「X」。フルオートエアコン、リモコン電動格納ドアミラー、ドライビングポジションをきっちり決めるためのチルトステアリングやシートリフターなど“豪華装備”が満載。走りの面でも前後サスペンションにスタビライザー装備、15インチ径アルミホイール&165/55R15扁平タイヤなど、他のグレードに対して1クラス上のスペックを持つ。価格は8%消費税込み113万4000円だ。

◆30km/リットルなるか、エコドライブに挑戦

燃費目標はまず30km/リットルをボーダーラインとして設定。状況によってはさらに行けるだけ狙うことにした。出発前、少なくともボーダーラインは楽々突破できると踏んでいた。デビュー直後、1時間ほどの短時間試乗ながら、市街地走行主体、2名乗車、エアコンONで燃費計読みで30km/リットルは出ていたからだ。目的地は群馬北方、三国峠手前の群馬サイクルスポーツセンター。往路の予定ルートは浜松町のスズキ東京支店を出発し、東北自動車道沿いの国道122号線から埼玉・鴻巣を目安に国道17号線に移り、その後は一路国道を走るというもの。

クルマに乗り込む。ここで想定外だったのは、報道関係者に貸し出すための広報車にカーナビが未装備だったこと。地理は大体頭に入っているので走るのに不都合はなさそうだが、混雑状況がまったくわからないため、動的な渋滞回避はできない。前途に少しだけ暗雲が漂うが、幹線なら大丈夫だろうと思いつつ、環状7号線近くのガソリンスタンドで燃料をすり切り満タンにしてトライを開始。

アルトはスピードを落とすとき、ブレーキフォースの一部を発電機の抗力に置き換えることで発電量を高める減速エネルギー回生機構「エネチャージ」が装備されている。その効果もあってか、市街地走行時もバッテリーの電力不足でアイドルストップしないというシーンはほとんどなく、実によく止まってくれた。

複合交差点など信号待ちの長い場所では1分くらいでビープ音が鳴り、その直後に再始動する。アイドリングストップを連続使用することを想定し、1回の停止でバッテリー電力を使いすぎないようプログラミングされているとみられた。渋滞路を走る機会の多い日本メーカーならではの知恵である。1分止まってくれれば、再始動しても青信号に変わるまでの時間はたかが知れたもので、燃料節約効果は十分であると感じられた。

エアコンは蓄冷装置を持ち、アイドルストップ中も一定時間は冷気を送り続けるデンソー製の「エコクール」だが、炎天下ではこれが意外に良い働きをしてくれて、アイドルストップが連続する市街地においても快適性は十分に保たれた。

◆思わぬ誤算…

その市街地走行において、平均燃費計はおおむね25km/リットル台を示していた。試乗車は重量が650kgしかなく、ブレーキをリリースするとアイドリングパワーだけでも10km/h+くらいまでスーッと加速する。そこからスロットルを踏むようにすれば、かなり混雑した路線でも後続車をイラつかせるような真似をせずとも燃費の落ち込みはかなり抑制できることがわかった。

市街地での落ち込みを抑えれば郊外でいくらでもリカバーできると踏んだのだが、誤算だったのは東京を出て国道122号を走行したときのこと。岩槻まではスイスイと流れ、平均燃費計の数値もどんどん上がっていったのだが、その岩槻で国道16号線と交差するところで信号10回待ちを超える大渋滞。122号を直進せず国道16号から国道17号方面に走ろうかとも思ったが、そちらもよく渋滞することがあるので思い切れない。カーナビなりスマホなりで動的渋滞情報を得ることは日本の一般道ドライブを快適にこなすのに不可欠だと痛切に感じられた。

ようやく渋滞を抜けた時点での平均燃費計の数値は26.4km。そこから先もカーナビもスマホもないことによるアゲインストの風に見舞われた。国道122号を走行中、道案内に「鴻巣」の文字が見えたので「ほう、こんなルートもあるのか」と気軽に曲がったら、見逃すまいと注意していたにもかかわらず途中で案内が消失し、ものすごい小道を走るハメになった。

アルトに限らずカーナビなしのクルマをドライブするときにいつも感じていたのだが、最近はカーナビが発達して道路案内の需要が減ったからか、案内板がどんどん雑になっている。地方部では平成大合併にともない、たとえば17号で小出が南魚沼になったり筆者の故郷鹿児島でも知覧が南九州になったりと、無意味な地名表記変更が全国で行われた。こんなことに税金を使うのはやめていただきたいと思うところだ。

◆瞬間燃費50km/リットルも

それはともかく、省エネルギーにおいて渋滞に負けないくらいダメージが大きいのは、この種の道迷いである。無駄な走行で距離がいたずらに伸びることと、道を探し回るときは往々にして燃費が落ちることのダブルパンチだ。ぐるぐる走り回ったすえに出たのは、鴻巣よりかなり手前の国道17号桶川。鴻巣に出れば渋滞を回避しながら流れの良い熊谷バイパスに乗れるという目論見は崩れ、27km/リットルでバイパスに乗った。

流れが良く、高低差も小さい郊外のバイパスはもともと燃費には有利だが、アルトにとっては追い風ぶりがことのほか顕著だった。速い流れには乗らないが遅いトラックは追い抜くくらいの速度域でクルーズしている最中、瞬間燃費計を観察してみたところ、エアコンのコンプレッサーが切れている時は45km/リットルくらい、駆動中で35km/リットルくらい。はるか前方で流れが遅くなっているが見えてエンジンパワーをほんの少し絞ると、500mくらいは余裕で最大値の50km/リットルに張り付かせることができる。このパターンでのドライブを続けた結果、前橋を越え、渋川付近に達した時点でようやく平均燃費計の数値が30km/リットルを突破した。

と、好調に見える燃費アタックの旅だが、後半戦にはさらなる過酷な状況が待ち受けていた。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

+ 続きを読む

【注目の記事】[PR]

ピックアップ

教えて!はじめてEV

アクセスランキング

  1. ブリヂストン史上最長、約13万kmの走行保証…新タイヤ「トランザ エバードライブ」米国発売
  2. 「やっと日本仕様が見れるのか」新世代ワーゲンバス『ID. Buzz』ついに上陸! 気になるのはサイズ?価格?
  3. BMWの18車種2万台にリコール…火災に至るおそれ
  4. 「三菱っぽくないけどカッコいい」ルノーの兄弟車となる『エクリプス クロス』次期型デザインに反響
  5. アウディ『Q3』新型がシャープなデザインに進化、6月16日デビューへ
ランキングをもっと見る

ブックマークランキング

  1. 低速の自動運転遠隔サポートシステム、日本主導で国際規格が世界初制定
  2. 「やっと日本仕様が見れるのか」新世代ワーゲンバス『ID. Buzz』ついに上陸! 気になるのはサイズ?価格?
  3. 三菱が次世代SUVを初公開、『DSTコンセプト』市販版は年内デビューへ
  4. BYD、認定中古車にも「10年30万km」バッテリーSoH保証適用
  5. 「あれはなんだ?」BYDが“軽EV”を作る気になった会長の一言
ランキングをもっと見る