【畑村エンジン博士のe燃費データ解析】その2…日本だけで進む自動変速機のCVT化とその理由

エコカー 燃費
スズキ アルトのCVTシフトレバー
スズキ アルトのCVTシフトレバー 全 7 枚 拡大写真

無段階変速機「CVT」と『プリウス』に代表されるハイブリッド車は、日本国内で販売される自動車のパワートレインの主流となってきている。諸外国と比較するとガラパゴス化しているように見えるこの現象は、日本の道路事情が原因であるといわれる。平均車速が低くスムーズな変速が求められるため、ハイブリッドやCVTの燃費が良好であるというわけだ。しかし、本当にそうだろうか。

そこで、実燃費投稿サービス『e燃費』のデータを使ってハイブリッドとCVTの実用燃費を解析し、前述の原因説を検証する。第1弾では、JC08モード燃費と、e燃費(実用燃費)の違いについて紹介しながら、実用燃費に影響を与える要素について考察してみた。今回、第2弾では、日本で進むCVT化を検証してみたい。

◆e燃費のデータでハイブリッドとCVTの実用燃費を解析

e燃費とJC08燃費の比をトランスミッション別に表したグラフを画像6に示す。数値が高いほど、実用燃費がカタログ燃費に近い、すなわち乖離が少ないということになる。ATとMTでは、この値が70~80%(デミオ1300ATを除く)であるのに対して、CVTとハイブリッドは60~70%で、低下幅が10%程度大きい。ATやMTの方が、CVTやハイブリッドに比べて乖離が小さいという結果となった。

なお、『デミオ』の6ATについては、ガソリン車とディーゼル車の値が大きく異なっている。しかしこれは、長距離を走るユーザーはディーゼル車を選択し、日常の足として車を使うユーザーはガソリン車を選択するといった傾向があるとすれば説明がつく。EMランクをひとクラス下げてJC08燃費値を高めているディーゼルMTの乖離が小さいことにも、同様にユーザー層の偏りがあるものと思われる。

『アルト』の燃費の解析結果を画像7に示す。アルトは「ガソリン車トップレベルの低燃費37km/リットル」をうたい文句として、CVT車であることを前面に出して魅力を訴えている。しかし、e燃費を見るとAMT仕様の方が低燃費の結果となった。

AMTは、従来のMTをベースに、変速とクラッチ(一部アクセル)操作をロボットが行うシステムと考えればわかりやすいだろうか。機構上、変速時にショックがある問題で日本では少ないが、伝達効率が優れているためヨーロッパでは小型車中心に普及している技術である。

◆日本だけで進む自動変速機のCVT化とその理由

ガラパゴス化した日本のCVTとハイブリッドは、国内では非常に燃費が良いというイメージを持たれているが、実用燃費はそれほどでもないようだ。

データ数が少ないという問題はあるが、CVT車のe燃費とJC08燃費の乖離は62%で、他のCVT車と同等の結果である。MTの乖離が87%と非常に少ないのは、軽自動車は交通状況が良好な地方で多く使われているためと推定される。実用燃費は交通状況により大きく左右されるため、渋滞や信号が多く発進と停止を頻繁にくり返す都市部と、渋滞や信号が少なく巡航していることが多い地方部では、実用燃費に大きな差が出る。

このことから、日本メーカーは実用燃費よりもカタログ燃費を重視して、CVTとハイブリッドに注力してきたと想像される。ただし、マツダの場合はデミオのモデルチェンジに当たって、カタログ燃費が低下してもCVTから6ATに変更して実用燃費を向上させている。

前述したように、CVTとハイブリッドは低負荷走行とアイドル時間が長い10・15モードの燃費向上に効果的である。また、日本では高速走行燃費はあまり重視されないので、伝達効率が劣るCVT(電気CVTを含む)の短所はあまり問題にならなかった。加えて発進・停止を頻繁にくり返すことの多い都会では、CVTのスムーズさが高い評価を受けた結果、国内メーカーはCVTとハイブリッドに傾倒していったといえるだろう。

CVTにはラバーバンドと呼ばれる加速時の応答遅れがあり、加速のフィーリングが快適とは言えないが、慣れとともにユーザーに許容されていった。その流れの中で、CVTに似た走行フィーリングのハイブリッドが高感度で受け入れられたのだろう。CVTとターボ過給の組み合わせは、ともに応答性に問題がある組み合わせであることと、燃費向上効果が足し算にならないことが、日本メーカーの過給ダウンサイジングの採用が遅れた原因の一つであるといえる。

《文:畑村 耕一》
《まとめ・編集:吉澤 亨史》

《吉澤 亨史》

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