【フォード クーガ 試乗】欧州フォードらしい実直な作りをさらに深化…井元康一郎

試乗記 輸入車
フォード クーガ タイタニアム
フォード クーガ タイタニアム 全 13 枚 拡大写真

欧州フォードのCセグメントクロスオーバーSUV『クーガ』が仕様変更を受けた。最大の変更点はエンジンが新世代ユニットに換装されたこと。旧型が1.6リットルターボ1本であったのに対し、新型は1.5リットル、2リットルの2本立てとなった。

いずれも「エコブースト」と名づけられたフォードの高効率直噴ターボ技術を投入したもので、1.5は低価格グレードの「トレンド」、2.0は上級グレードの「タイタニアム」に搭載される。その両グレードを短時間ながらテストドライブする機会があったのでリポートする。

まずはエンジンから。最高出力242ps、最大トルク345Nmという強力なスペックを持つ2リットル直噴ターボは、本来はミドルクラスセダン『モンデオ』の上級グレードなどに使われるエンジンで、本国ドイツではクーガには搭載されない。かっ飛びクーガを走らせることができるのは、日本のカスタマーの特権なのだ。

その2リットルだが、排気量1リットルあたりの出力が120ps超というスペックの高さとは裏腹に特性はきわめて穏やかで、扱いやすいフィーリングであった。最大トルクの発生点は2000rpm以下と、低速トルクは十分に強力なのだが、ハーフスロットルでドバッとトルクが出るのではなく、大排気量エンジンのように自然にパワーが盛り上がっていくという印象だ。もちろんフルスロットルをくれてやれば、それこそ高速道路への合流や追い越し加速をまたたく間に終わらせるだけの能力は持っている。エンジンの燃焼音はうまく抑制され、静粛性も高い。

動力性能と並んで美点と思われたのは燃費。JC08モード走行時10.0km/リットルというCセグメントクロスオーバーとしてはかなり低い数値であることから、実走行においてもそれなりのスコアを覚悟していたのだが、新宿から羽田空港まで一般道、首都高を併用して走ってみた限りにおいては、クルーズ燃費、市街地燃費ともきわめて良好で、モード燃費を終始大幅に上回った。平均燃費計の数値はトータルで13.6km/リットルであった。

これで1.5リットルが排気量なりという程度の性能であれば、速力を求めるカスタマーは迷いなく2リットルをと言えるのだが、この1.5リットルの出来が思ったより素晴らしく、購入を考えている人を迷わせるのではないかと思えた。1.5リットルのスペックは182ps/240Nmと、2リットルの7割程度ながら、実際に走らせてみると、クーガの重量級ボディを低速から高速までよどみなく、しかも十分に俊敏に加速させるだけのパワーを発揮した。制限速度の低い日本の道路を走らせるのに、この1.5リットルで不足を感じるようなシーンはまずないはずだ。

ただ、パフォーマンス十分なぶん、実走燃費のほうもそれなり。JC08モード走行時の燃費は12.7km/リットルと、2リットルを大幅に上回っているが、実走行での燃費計の数値は2リットルとほとんど同じで、アドバンテージは感じられなかった。

次はクーガのもうひとつの関心事であるシャシー性能について。日本で販売されるクーガはトレンド、タイタニアムともにAWD(4輪駆動)。前後のトルク配分を前輪駆動から後輪駆動まで自動的に無段階調節するハイテク駆動システムを持つが、今回のドライビングではその真価が試されるようなシーンはなかった。

走り味は基本的にスタビリティ志向に振られている。ステアリングを切ったときに鼻先が鋭敏に反応するのではなく、ステアリングを切ったときの反力を手のひらに感じながらじわりとコースを変えるというフィーリングだ。これはフォード車全般に共通したテイストなのだが、クーガはそれが最も色濃く出た1台と言える。

が、タイタニアムとトレンドの間ではドライビングフィールに若干の差がある。自然だったのはトレンドのほうで、ステアリングの中立の遊びから指1本分くらい切り込むだけで、首都高の緩やかなカーブの綺麗なライン取りが面白いように決まる。乗り心地もしっとりとしたものだった。それに対し、タイタニアムはよりスポーティ、よりクイックという味付けだが、それがやや人工的に感じられる局面もあった。乗り心地も快適ではあるのだが、トレンドに比べるとハーシュネスが強めであった。

新型クーガは総じて、欧州フォードらしい実直な作りをさらに深化させたSUVと言える。スタイリングがいささか地味で、輸入車らしい華はないが、高速ツアラーとして、またちょっとした未舗装路も含めたアドベンチャードライブのためのギアとして、十分に魅力的であるように感じられた。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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