「クルマ DE ビーコン」でパイオニアはどのようなビジネスを実現するのか

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クルマDEビーコン サービスプラットホーム
クルマDEビーコン サービスプラットホーム 全 4 枚 拡大写真

パイオニアは2015年8月に、スマートフォンと自動車向けビーコン端末を活用したテレマティクス・ソリューション「クルマ DE ビーコン サービスプラットホーム」(以下、クルマ DE ビーコン)を開発したと発表した。自動車業界で初となるこのプラットフォームは、ビーコン端末によりドライバーの状況を認識し、スマートフォンを介して利用シーンに合わせたサービスの提供を可能にするというものだ。

また同時に、東京海上日動火災保険が12月より提供予定のノンフリート(個人)自動車保険契約者向けの新たな「事故時自動連絡支援サービス」に同ソリューションが採用されたことも発表している。「クルマ DE ビーコン サービスプラットホーム」とは、どういうプラットフォームなのか、今後どのような展開が考えられるのかなどを、パイオニアのカーエレクトロニクス事業統括部 テレマティクス事業部 事業企画部の課長である岩堀耕史氏、および商品統括部 事業企画部 テレマティクス企画部の主事である岩田啓介氏にお話しをうかがった。

「クルマ DE ビーコン」とは

----:まず、お二人はそれぞれどのように「クルマ DE ビーコン」に関わっているのでしょうか?

岩堀:私はテレマティクス関係のソフトウェアやサーバー周りのクラウドサービスを担当する課におりまして、主にマネジメントをしています。

岩田:私のいる課は、「クルマ DE ビーコン」をはじめとする技術開発を担当しています。そこでスマートフォンやサーバー、クラウドなどで動作するアプリケーションなどを開発しています。

----:「クルマ DE ビーコン」の概要を教えてください。

岩堀氏:もともと私たちは、今後コネクテッドカーが急速に普及するという市場背景を踏まえて、NTTドコモさんとの協業で「モバイルテレマティクスセンター」を作りました。これは、車載機の中にある地図やナビゲーションのエンジンなどをクラウド上のサーバーで動作させるプラットフォームセンターです。

その後、今度は自動車がコネクテッドカーになっていくことで、いろいろな情報がクラウドに上がってくると考えました。それは走行履歴の情報に限らず、地点の情報であるとか、たとえばパイオニアでは、端末で聴いている音楽の情報をクラウドに上げています。そういった部分を、トレジャーデータさんと共同でプラットフォームを作ったという経緯もありました。

----:このプラットフォームを活用して、クラウドを使ったドライバー向けサービスをさらに充実させていくという狙いでしょうか。

岩堀:ええ。今回はさらに、そういったプラットフォームの延長線上に、もっとユーザーに利用してもらえるように適切なタイミングで適切な情報を配信できるように、ビーコン技術を活用してアプローチをしています。ただ、クルマでスマートフォンを活用するというと、たいていはナビアプリケーションを想像されるんですね。でも、そうするとクルマに乗ったときにユーザーがアプリケーションを立ち上げなければなりません。一方で、クルマに関連する情報を配信したくても、アプリケーションが立ち上がっていないと配信できません。

----:ナビゲーションのアプリケーションを立ち上げるのは知らない場所に行くときのごくわずかなタイミングしかないと思いますが。

岩堀:そうですね。日本の平日でのクルマの利用は、延べ数でいうと一日およそ1180万時間と言われていますが、そのほとんどはナビゲーションを立ち上げる必要はないわけで、ナビゲーションのアプリケーションでは接触機会がほとんどないということになります。そこで、たとえば平日に車に乗ったとき、アプリケーションを立ち上げていなくてもクラウドと連携することでユーザーに安心、安全を実現できるようなソリューションが必要と考え、ビーコン技術によって実現したのが「クルマDEビーコン」というわけです。iPhoneは「iBeacon」という形でビーコンに対応していますので、クルマにビーコンをつけておけば、iPhoneを持ったユーザがクルマに近づいたときにiPhoneがビーコンを受信します。

----:ビーコンで乗車/降車、あるいは移動中であるという動態検知をおこなうのですね。

岩堀:それをフックにしてiPhoneに情報をさせたりできます。これにより、ユーザーとの接触機会を持てるようになります。今回の東京海上日動さんの事例では、iPhoneを持ったユーザーがクルマに乗ることでiPhoneがビーコンを受信して専用アプリを起動し、事故など一定以上の衝撃をiPhoneのセンサが感知すると、東京海上日動の事故受付コールセンターの電話番号が表示されるので、ユーザーはすぐに連絡をすることができるというものです。しかし、これはあくまで一例で、「クルマDEビーコン」ではビーコンによってユーザーの状態を把握し、その状態に最適な情報をスマートフォンのアプリケーションを介して表示したり、何らかのアクションができるというものになります。このため、たとえばOtoO(オンラインtoオフライン)の施策などに活用できると考えています。

◆ビーコンとスマートフォン、クラウドの連携で広がる可能性

----:ということは、今後はサービスに合わせたさまざまなビーコンが出てくるということですか?

岩堀氏:おそらく、後継機というよりはラインアップとして追加する方がいいような気がしています。とはいえ、たくさんの機能を搭載するほどビーコンの単価が上がってしまいますから、お客様もパートナーさまも買ってもらえません。相応のバリューを提供する必要があるでしょう。機能によっては消費電力が増加して、電源の取り方も考えていく必要が出てきます。そこは、提供されるサービスとバリューと端末の構造のバランスを考えていかなければならないでしょう。

岩田氏:やはりスマートフォンだけではユーザーの状況を判断することが難しいので、さらに詳細な状況を判断できるビーコンとの組み合わせは非常に有効だと思っています。また、ビーコン本体に、サービスに直結するようなボタンを搭載することも可能ですので、そこはサービスを提供する事業者さんが自由にデザインできます。そういうところで含めて、プラットフォームとして事業者さんに使っていただけるような環境を用意してるというイメージですね。

----:具体的には、どのようなサービスが考えられますか?

岩堀氏:方向性として、大きく2つあると考えています。ひとつは、スマートフォンが普及しているので、ビーコンを追加するだけでクラウド上にある情報を活用したり、ユーザーの安心、安全を支援するようなサービスを提供できるようになることです。クルマの年式や車種などを問わないこともメリットであると考えています。

もうひとつは、ここ2~3年で盛り上がっている「マーケティングオートメーション」です。これは、最適なコンテンツを最適なタイミングで最適なチャンネルを通してユーザーに届けるというマーケティング手法です。その点、ビーコンとスマートフォン、クラウドを組み合わせることで、ユーザーの車の利用状況や位置情報、走行距離などのデータを蓄積していくことができます。それをクラウド上やユーザー単位でビッグデータ分析を行い。最適なコンテンツやタイミングを割り出して提供することができます。

岩田氏:確かに現在では、スマートフォンのAPIを叩けば、ユーザーが今歩いてるのか自転車に乗っているのか、あるいは電車に乗ってるのかがわかりますが、それをリアルタイムで知るにはアプリケーションが動き続ける必要があります。それでは消費電力が大きくなってしまい、使われなくなってしまいます。しかしビーコンを使うことで、スマートフォンとビーコンの分業ができます。常にアプリを起動させておく必要がなくなるので、普段の使い勝手もよくなるのではと思っています。

----:今後の展開について教えてください。

岩堀氏:まだ固まっていないことが多いので抽象的な話になってしまいますが、たとえばビーコンはコミュニケーションツールとしても有効だと思っています。現状では、ドライバーに対して、安心、安全のためのコミュニケーションを取るための施策として、もしくは自動車産業のビジネスをしている事業者さんとのコミュニケーションを取るためのツールとしての活用を想定しています。

----:必ずしもクルマの中でもサービス提供とは限らなくなる、と。

岩堀:今後の施策の中では、自動車関連の事業者さんだけではなく、もっと違う形のコミュニケーションのためのツールとして使っていきたいですね。たとえば、他のドライバーとのコミュニケーション、あるいはクルマの保有者ではない人とのコミュニケーションも、このビーコンを経由して行うことをということを考えていきたいですね。

また、先ほどマーケティングオートメーションという話がありましたが、さらに広くDMP(Data Management Platform)への対応も視野に入れています。DMPでは、オンラインとオフライン、さまざまなところでのユーザーの行動を分析してマーケティングに活かすわけですが、そこでスマートフォンの情報は非常に有用である反面、現状では取りづらい情報でもあります。しかし、ビーコンとスマートフォン、クラウドが連携していると、個人に紐付いたさまざまな情報をログとして取ることができます。自動車ならではの情報を組み合わせて、新しいDMPを自動車のカテゴリの中に生み出していけたら素敵ですよね。

《吉澤 亨史》

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