進化するマイルドハイブリッド、バイワイヤ+MTで燃費・走行性能に革新…コンチネンタル&シェフラー

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48Vマイルドハイブリッドシステムを組み込んだフォーカス。バイワイヤークラッチ、6MTを組み合わせる
48Vマイルドハイブリッドシステムを組み込んだフォーカス。バイワイヤークラッチ、6MTを組み合わせる 全 5 枚 拡大写真

スズキの「S-エネチャージ」、日産自動車の「S-ハイブリッド」など一部で採用が始まっている低コスト型の燃費ソリューション「マイルドハイブリッド」。小出力のモーター兼発電機1個をセットアップし、必要最小限のアシストやエネルギー回生を行うという簡素なシステムだが、このマイルドハイブリッドが今、飛躍的な技術進化を見せつつあることに驚かされたイベントがあった。

◆ドイツ系サプライヤー2社が最新技術を披露

そのイベントはコンチネンタルとシェフラーのドイツ系部品メーカー2社が共同で開催したもの。両社の技術を持ち寄り、マイルドハイブリッドで市販車のCO2排出量を大幅に削減することにチャレンジしたのだという。ベース車両はフォードのCセグメント乗用車『フォーカス』の1リットル3気筒ターボ(125ps/170Nm)、6速MT。現行モデルはEURO6規制対応となっているが、テスト車両は旧型のEURO5で、CO2排出量は114g/km。

目標を欧州規制のCO2排出量95g/kmに定め、出力15KWのベルト駆動型モーター兼発電機と電圧48V、容量10Ah、電力量480Whのリチウムイオン電池パック、バイワイヤー駆動のクラッチシステム、さらにモーターのショックを和らげるための緩衝装置やモーターの駆動、回生の両方向で機能するベルト張力保持器などをセットアップ。エンジンはフルノーマルだが、上記の補器類だけではぎりぎり95gを突破できなかったため、バルブとカムが接触するタペットに摩擦抵抗の小さいダイヤモンドライクコーティングを施した。

その結果得られたCO2排出量スコアは現行のNEDCモード走行時で94.6g/km。さらにEURO5レベルの排ガス浄化システムを交換することなくNOx(窒素酸化物)とPN(Particulate Number=粒子状物質数)を排出ガスレベルを2017年に実施が予定されているEURO6cのさらに半分程度に抑えることに成功したという。

CO2排出量95g/kmアンダーということ自体、車両重量がテスト車両より200kgほど軽い旧世代のマイルドハイブリッドの代表選手、ホンダ『インサイト』の後期型モデルの99g/kmを上回るものでインパクト大なのだが、燃費削減効果以上に驚いたのはマイルドハイブリッドの商品力の劇的な向上だった。

テスト車両はドイツのナンバーの上に仮ナンバーをつけたもので、公道ではなくクローズドエリアのみでのドライブであったため、多様なシチュエーションで機能を試すことができたわけではないが、その限定的な環境でも興味深い機能をいくつか体感することができた。

◆バイワイヤークラッチで燃費向上&シフトチェンジの煩わしさを解消

まずはエネルギーコントロール。アイドリングストップは今日、珍しい機能ではなくなっているが、テスト車はアイドリングだけでなく、アクセルオフにしたときもバイワイヤークラッチが自動的に切断されエンジン停止。エンジンブレーキで失速することなく、燃料使用量ゼロでコースティング(空走)することができるのだ。

エンジン停止、モーターアシストゼロの状態での空走は、燃費マニアのあいだではトヨタ『プリウス』や現行ホンダ『フィットハイブリッド』などのストロングハイブリッドカーの燃費を上げるテクニックとしてよく知られているが、マイルドハイブリッドでもそれができてしまう時代がすぐそこまで来ているのだ。

スロットルを踏んで加速、ないしブレーキをかけて減速するとエンジンが再起動し、クラッチが自動接続されるのだが、その再始動から再接続のときのショックのなさにも驚かされた。12Vのマイルドハイブリッドに比べてモーター出力が強力であることから、再起動するときの回転およびトルク合わせも楽なのだろうと推測された。走行中の駆動アシスト、回生ももちろん行われる。

もうひとつ驚いたのは、バイワイヤー式クラッチを活用してマニュアル変速機をセミATのように使える仕立てになっていたこと。たとえば渋滞時、1~2速で走っていたとする。停止するときにはクラッチペダルを踏まなくてもブレーキを踏むだけで自動的にクラッチが切断され、アイドリングストップ状態となる。そこからブレーキをリリースしてスロットルを踏み込むと、自動的に半クラッチ制御が行われ、そのままするすると走り出すのだ。

2速に入れっぱなしで停止しても2速発進が可能。半クラッチの上手さは上級ドライバー並みで、極低回転トルクの薄い排気量1リットルのダウンサイジングターボエンジンであるにもかかわらず、実にスムーズに発進することができた。MTに乗りたいが、渋滞でのシフト操作は面倒くさいという人にとっては、またとないソリューションとなるだろう。

◆マイルドハイブリッドの本格普及はこれからか

両社の関係者によれば、48Vマイルドハイブリッドシステムが市販車に本格導入されるのは2016年の予定とのこと。その時点ではモーターはテスト車と同様、エンジンをベルトで直接回す方式だが、将来的にはエンジンと変速機の間に移してモーター単独での使用領域を広げていく方向であるという。また、2020年頃には変速機にモーターを内装する方式への移行が始まり、その頃から次第に鉛バッテリーレスの動きが出てくるとの見通しを示した。また、このシステムはMTだけでなくステップATやCVTとも組み合わせが可能とのことだ。

クルマの48V化は90年台に提唱されたものの長年鳴かず飛ばずであったが、蓄電技術の改良や排出ガス規制の厳格化にともなう走行中のエンジン停止のニーズが高まっていることを追い風に、成熟が急速に進んでいる。とりわけエンジン停止は、昨今、フォルクスワーゲンの排出ガス不正クリアで風当たりが強くなっているディーゼルの排出ガス抑制には相当に効果的であると考えられる。リアルドライブ(実路走行)モードをどのくらい重視するかによっては、一気に普及が進む可能性もある。

モーター単独での発進加速が可能なストロングハイブリッドの普及が進む陰で、低コスト方向からのエコソリューションであるマイルドハイブリッドは今後、無視できない存在になりそうだ。実は欧州陣営だけでなく、トヨタ自動車やグループの部品メーカーを筆頭に、日本でも48Vマイルドハイブリッドに必要な技術を囲いに出ていると推測される特許出願も増えてきている。クルマの燃費の進化はまだまだ止まりそうにない。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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