【畑村エンジン博士のディーゼル不正問題検証】その2…実走行排ガス試験RDEの導入と燃費・排ガスへの影響

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【畑村エンジン博士のディーゼル不正問題検証】その2…実走行排ガス試験RDEの導入と燃費・排ガスへの影響
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世界に激震が走った、独フォルクスワーゲン(VW)のディーゼル不正問題から、排ガス規制の走行モードとディーゼルの排ガスの現状について検証する第2弾。今回は、実走行排ガス試験RDEの導入と燃費・排ガスへの影響について考究する。

【画像全8枚】

◆欧州で採用予定の実走行排ガス試験RDEとは

WLTPの導入と同時に、欧州ではRDEの導入が予定されていると前回その1にて書いた。従来の排ガス試験は、画像1にあるとおり、シャシーダイナモという試験装置の上に車を載せて、駆動輪で大きなドラムを回転させて走行モードと一致する車速で車を走らせ、その排ガスを収集し、NOxなどの規制成分の排出量を計測するものだ。

自動車メーカーは、規定の範囲内で車の走行抵抗や、エアコン作動やドライバーのテクニックなど、理想的な条件にできるだけ近づけて試験に臨むことができる。そのため、カタログ燃費と実走行燃費の乖離だけでなく、排ガスについても試験と実走行との差が生まれる余地を大いに残した試験法だとも言える。特に排ガスについてはエンジンの運転領域の違いが大きな差を作る結果となっている。

かつては試験室一杯を占めていた排ガス計測システムも小型軽量化が進み、数年前から比較的簡単に車載して排ガス計測が可能になってきた。そこで世界中の大学や研究所では、画像2にあるようなPEMS(※1)を実車に搭載し、実走行の排ガス試験が実施されるようになった。

そのような研究結果の一例を画像3にて棒グラフで示す。NEDCやWLTCなどのモード走行と比較して実走行では、1.8リットルのガソリンエンジン車のCO2排出量は大幅に増加し、3.0リットルのディーゼルエンジン車は少し増加する結果となる。また排ガスについては、ガソリンエンジン車、ディーゼルエンジン車ともにNOxが大幅に増加する。特に注目なのは、ディーゼルエンジン車では20~30倍という極端な増加を示していることだ。

なお、ディーゼルエンジンで問題となるのはNOxとPM(※2)の排出だが、画像4にもあるとおり、負荷が高い方がDPF(※3)が機能しやすいので、PMについては実走行での増加は見られない。

実走行と排ガスの関係を示す別の研究結果を画像5に示す。これは高速道路と一般道路や登降坂路の実走行の加速度分布とNOx排出量を計測したものだ。これを見ると、緑のNEDCモード走行に比べて加速度分布が広範囲でかつ加速度が大幅に高いことが分かる。右図はその時のNOx排出量を示し、NSC(※4)を使うEURO5規制対応のディーゼルエンジンは負荷の高い運転領域で大量のNOxを排出することが明らかだ。

NSCでは適当な間隔でNOx還元のリッチ運転が必要だが、燃費が悪化するリッチ運転の頻度は高めたくない。その結果、高負荷でエンジンからのNOxの排出量が増加すると吸蔵触媒がいっぱいになって、NOxが触媒を通り抜けるようになる。これに対してSCR(※5)を使うEURO6対応エンジンは、この領域のNOx排出が抑えられている。ただし負荷がさらに高い登降坂路ではNOx排出の増加が見られるため、登降坂路ではエンジンの排出するNOx流量に対してSCRは能力不足だということになる。

◆NEDC・WLTC・RDE走行モードの変更について

走行モードの変更は、CO2規制対応のための燃費向上技術の効果にも影響がある。CO2排出量とカタログ燃費はWLTCの結果が使われるが、RDEの結果で乖離が大きいと問題になるので無視することができない。

画像6では、SUVの車の駆動出力(運転負荷)に対して、各種の燃費向上手法の効果のイメージを示しており、その上図では走行モードによる運転負荷の頻度分布の違いを示している。NEDCからWLTCでは駆動出力分布が高負荷に移動しており、RDEではさらに高負荷寄りで広い範囲に分布していることが分かる。

なお画像6の下図は、それぞれの燃費向上技術の過給ダウンサイジングガソリンエンジン比の燃費向上効果を、運転負荷毎に示したものだ。従来から実用化されているDoD(気筒停止)、Lean(リーンバーン)、ハイブリッドは低負荷での燃費向上効果に優れているが、20-30kW以上になるとほとんど効果が期待できないというのが実態だ。それに対して、日本でも普及が始まったクリーンディーゼルエンジンは、全域で燃費向上効果が大きく、今後の高負荷領域に広がる走行モードに対する燃費向上手段として期待される。ただし、排ガスが大幅に増加するという問題を同時に抱えているので、その対策のために大幅なコスト増加が避けられない。

◆今後のCO2規制対応について

今後のCO2規制対応を考えると、より高負荷領域の燃費向上は避けて通れない道だ。またWLTCとRDEの導入で、将来の燃費低減技術に異変が起こる可能性がある。そこでAVL(オーストリアのパワートレイン・エンジン開発等を行う会社)が提案しているのが、高負荷燃費の改善効果が期待でき排ガスの悪化も少ないミーラーサイクルとクールドEGRを使った高膨張比過給ガソリンエンジンだ。画像7にもあるとおり、トルクが低下する分、ダウンサイジングより排気量を増加するので、これをライトサイジングと呼んでいる。

過給に否定的なマツダは、2.0リットルの代わりに2.5リットルのミラーサイクルとクールドEGRを使うアップサイジングを提案している。さらに欧州では、画像8にあるような、ガソリンエンジンベースの天然ガスエンジンの導入も進められている。天然ガスは発熱量あたりのCO2排出量がガソリンの4分の3なので、燃料を変えるだけでCO2が25%減少する。今後の動向に注目しておきたい技術だ。

畑村耕一 | 株式会社畑村エンジン研究事務所 代表
東京工業大学修士課程修了後、東洋工業(現マツダ)に入社し、ユーノス800に搭載されたミラーサイクルエンジンの開発に携わる。2002年に畑村エンジン研究事務所を設立。著書に『博士のエンジン手帖』など。

《文:畑村 耕一》
《まとめ・編集:石原 正義》

<専門用語解説>
※1:PEMS:Portable Emission Measurement Systemsの略記。持ち運び可能(ポータブル)なことにより、実路での排ガス計測が可能になった、車載の排ガス計測システムを指す。
※2:PM:環境中に存在する様々な種類・性状・大きさをもつ、粒子状物質の総称を指す。
※3:DPF:Diesel Particulate Filterの略記。ディーゼルエンジンから排出されるPMを集め、大気中に排出されないようにする後処理技術のことを指す。
※4:NSC:NOx Storage Catalystの略記。排出ガス浄化技術のひとつで、NOx吸蔵触媒のことを指す。
※5:SCCR:Selective Catalytic Reductionの略記。排出ガス浄化技術のひとつで、選択還元触媒のことを指す。

《畑村 耕一》

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