【ボルボ V40 T3 試乗】「ディーゼルよりもガソリン」を選びたい人なら…井元康一郎

試乗記 輸入車
ボルボ V40 T3
ボルボ V40 T3 全 20 枚 拡大写真

エネルギー効率を高めた新世代パワートレイン「Drive-E」の投入を急速に進めているスウェーデンのボルボ。2014年12月、大型ステーションワゴン『V70』に2リットル直噴ガソリンターボ「T5」を搭載したのを皮切りに、2015年夏には最高出力190psの2リットルターボディーゼル「D4」投入、ガソリン「T4」を1.6リットル直噴ターボから2リットル直噴ターボへと、置き換えを急速に進めた。

そして秋にはコンパクトクラスの『V40』に最高出力152psの1.5リットル直噴ターボ「T3」搭載グレードを追加。これによって在庫車を除くすべてのモデルが新世代機に切り替わったことになる。刷新の総仕上げとなったV40 T3をショートドライブする機会があったのでファーストインプレッションをお届けする。

V40 T3を試乗したのは交通量の少ない南房総エリアで、デュレーションは1時間半ほど。新世代1.5リットルターボのスペックは最高出力152ps/5000rpm、最大トルク250Nm(25.5kgm)/1700-4000rpmというもので、組み合わされる変速機はトルクコンバーター式の6速AT。車両重量が1480kgとライバルに比べて重いが、平地の一般道、高速道路の流入やクルーズなどといった今回の試乗シーンでは力感不足を覚えることはなく、プレミアムセグメントに求められる最低限の性能はしっかり持ち合わせていた。先進国のなかでブッチギリに制限速度が低い日本の道路ではT3で十分事足りると言える。

半面、税込み25万円高のD4ディーゼル+8速ATと比べると、動力性能面の格差は小さくない。D4は回転を上げれば体が持っていかれるような加速感があり、クルーズ状態からスロットルを踏み込んで速度を積み増すときも、エンジンが1200~1300rpmも回っていればシフトダウンなしに10km/h単位であっという間に速度を上げることができる。T3もエンジンスペックはそのままでもいいとしても、できればBMWのコンパクトモデルのように8速ATが欲しいところだ。

ディーゼルに勝っているのは、当たり前といえば当たり前なのだが騒音・振動。D4モデルも相当入念に防音・防振がなされていて、昔のディーゼルと比べると快適性は相当に高いのだが、それでもアイドリング時にはステアリングにブルブルと振動が伝わってくる。これに対してT3にはそれがない。アイドリングストップが機能している時にはあまり問題にならないであろうが、ボルボのアイドリングストップは気温が30度を超えると機能しなくなるので、猛暑になりやすい日本の夏においてはアドバンテージは小さくないのではないかと思われた。市街地を低速で走っているときもディーゼルより静かだ。

乗り心地はディーゼルのD4と同様に固め。筆者は21世紀に入ってからほとんどボルボに乗っていなかったため、ボルボのイメージは真四角デザインの時代のままで止まっていたのだが、夏に軽井沢の白糸ハイランドウェイでV40ディーゼルに乗った時に「いつの間にこんなスーパーハンドリングマシンになったんだ」と驚かされた。T3の足はエンジンの重量に合わせたキャリブレーションこそ異なるが、D4と基本的には同じ性格付け。今回はワインディング走行の機会はなかったが、鼻先が大人ひとりぶんくらい軽いことを考えると、ハンドリングの軽快感はT3のほうがさらに良いであろうことは容易に察しがつく。

燃費は目を見張るほど良くはないが悪くもないといったところ。空いた地方道と高速道路を普通にドライブしたところ、平均燃費計の数値はおおむね15km/リットル前後を推移した。たまたま夏にフォルクスワーゲン『パサート』でほぼ同じルートを走ったのだが、そのときの燃費は18km/リットル台というDセグメント非ハイブリッドとしては驚異的な数値で、それに比べると2割近く悪い。ただ、同じように走らせてもトルコンAT車よりDCT車のほうが圧倒的にハイエフィシェンシーなリザルトになるという筆者の運転技量の特性もあるので、直接比較はできない。新エンジンと6速ATの美味しいところが見つかれば、同じ平均車速でももっと燃費よく走らせることもできるだろう。

総じてボルボV40 T3は、プレミアムCセグメントとしては上手くまとまっているモデルに仕上がっていた。が、問題は価格設定。アウディ、BMW、メルセデスベンツなど、他のプレミアムセグメントモデルとの競合では先進安全装備が標準で満載状態ということがある程度武器になるだろうが、問題は25万円高のディーゼルの存在。単に燃費だけでなく、動力性能もディーゼルのほうが2クラスほど上で、プレミアムセグメントの命である特別感は格段に高い。

これはボルボがディーゼルをきわめて戦略的な価格で投入したことによって生じた現象だ。ちなみに各国の消費税率を勘案して計算してみると、T3+6ATも本国スウェーデンよりかなり安く、欧州市場の中心であるドイツと比べても若干安いくらいのだが、D4+8ATの日本価格の安さはその比ではない。本来、T3に相当するディーゼルは150psのD3で、V40くらいの重量であればそれで十二分に速さを得られるところなのだが、ボルボは日本市場でのプレゼンス向上のためにあえてD4をD3のような価格で投入してきたのだ。そう考えると、お買い得なのはどうしてもD4ということになってしまう。日本市場におけるT3はディーゼルよりガソリンのほうが根本的に好きだというカスタマー向けのモデルという位置づけと言えよう。

■5つ星評価
パッケージング ★★★
インテリア/居住性 ★★★★(前席優先のプレミアムCセグメントとして)
パワーソース ★★★
フットワーク ★★★★★
おすすめ度 ★★

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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