【ロールスロイス ドーン 海外試乗】まさに新しい“夜明け”を見た…武田公実

試乗記 輸入車
ロールスロイス ドーン
ロールスロイス ドーン 全 40 枚 拡大写真

かつて「The Best Car in the World」のキャッチフレーズを堂々と謳っていたロールス・ロイスは、今なお誰もが認める世界最高級ブランド。第二次大戦前までは圧倒的な品質を矜持とし、戦後は最上級の天然素材を贅沢に使用したハンドメイドのエクステリア/インテリアを身上としてきた。そして、同社の創る作品はいずれも高貴で厳格なイメージが強く、その気質ゆえに世界中のファンから敬愛されてきたとも言えよう。

ところが昨年9月にワールドプレミアとなった新型車『ドーン』は、発表時のプレゼンの段階から「センシュアル(官能的)」という、従来のロールス・ロイスではあまり聞かれなかった単語がしばしば登場することになった。

このクルマに懸けるロールス・ロイス社の想いに強い興味を覚えた筆者は、遠く南アフリカのケープタウン周辺で開催されたプレス向け国際試乗会に参加し、現在における世界最高級コンバーチブルの一つとして名乗りを上げた新型車、ドーンの真価に触れてみることとしたのである。

官能性と高級さの両立

ドーンの成り立ちは2013年にデビューし、その高貴な美しさから全世界で大ヒットを博しているクーペ、『レイス』と基本を一にするドロップヘッドクーペ(コンバーチブルの英国式表記)と言えるだろう。ところが、ドーンのボディに使用されるパネルの85%は専用デザインとのこと。たしかに、実際に現車を目の当たりにしてみると、単にレイスのスタイリッシュなルーフを取り去っただけのものとは見えない、ドーン独自の魅力を醸し出しているかに映る。

それでもドーン最大のアイデンティティといえば、なんといっても「オープンボディであること」と言わねばなるまい。また、オープン時にスタイリッシュなのはもちろん、クローズ状態でも素晴らしいスタイルを誇ることも極めて魅力的である。

同じロールス・ロイスのオープンモデルでも、より大型の『ファントム・ドロップヘッドクーペ』は、文字どおりの伝統的「ドロップヘッドクーペ」。特にソフトトップを閉めた際には、荘重でいかめしいスタイルとなる。それに対してドーンは、対候性や快適性も強く意識した6層構造のトップを与えられつつも、そのプロポーションはオープン/クローズ時ともに、こちらも英国式表記で呼ぶなら「ロードスター」に近い、実にクールなアピアランスを得ている。

しかも、クローズ時には極めて低いスタイルが演出されるソフトトップの下では、4人の乗員がゆったり寛ぐことのできるスペースが設えられているのだ。

加えて、英国製ドロップヘッドクーペの伝統に従ってファブリック表皮とされたソフトトップは、22秒で開閉可能。また走行中でも50km/hまでなら開閉を行うことができるという。実際に今回のテストドライブの最中、制御が難しいはずの巨大で重いトップを大西洋の海風に吹かれる中で開閉してみると、実にスムーズに作動するのが良く解った。こんな些細なところにも、ロールス・ロイスが目指す「高級」が見事に反映されていると感じられたのである。

走りまでもがエレガント

ロールス・ロイス・ドーンに搭載されるパワーユニットは、レイスと同じくV型12気筒6.6リットルツインターボである。しかし、レイスの630psスペックではなく、ゴーストと共通の570psに設定される。それでも低速域からこんこんと湧き出るようなトルクと、570psものパワーがあれば、市街地からハイウェイに至るまで痛痒を感じさせることなど皆無。むしろレイスから200kg増しとなった2560kgの車体を、より心地よく走らせるべく選んだチューニングであるとさえ思われる。

この日の試乗コースには、かなり勾配の強いワインディングロードも選ばれていたが、そんなステージにおいてもV12らしく美しい「ハミング」をかすかに奏でつつ、軽々とスピードを乗せてゆく。そしてGPSとの連動によって「シームレスなドライビングエクスペリエンスを提供する」と謳うZF社製8速ATとの組み合わせも相まって、あらゆる状況のもとでもスムーズ。「エレガント」とさえ形容し得る走りが、たしかに実現されていた。

かくのごとく素晴らしいパワートレーンの傍らで、ドーンはシャシーについてもなかなかの出来ばえを見せてくれた。

あまり知られてはいないかもしれないが、ドーンのベースモデルとも言うべきレイスはロールス・ロイスに相応しい乗り心地だけでなく、洗練を極めた軽妙洒脱な乗り味を体現した、実に稀有な一台である。そんなレイスと直接比較してしまうと、通常のオープンボディならば車両重量が重くなる上にボディ剛性の点でも不利にならざるを得ないのだが、少なくとも今回の試乗コースでは、そのようなネガティブ要素を体感することなど、ほとんど無かった。コーナーの曲率や路面状況を問わず、ステアリングを切った方向にスッとノーズを向けてくれる。サイズと重量を思えば極めてナチュラルなハンドリングマナーを披露するドーンとならば、いつもリラックスしたドライブが愉しめるのだ。

ロールス・ロイスの新しい夜明け

遥か遠い昔、1906年に登場した40/50HPシルヴァーゴースト以来、ロールス・ロイス社が創ってきた名作たちはすべて、それぞれの時代の自動車の常識を遥かに超える、静かで上質な走りを実現してきた。そして、あらゆる状況にあってもドライバーに余計なストレスを一切感じさせないドライブフィールもまた、長らくロールス・ロイスを愛用してきたコニサー(通人)たちにとって重要なポイントとなってきたのだが、その美点は当代最新のドーンにおいても遺憾なく発揮されていることが良く解った。しかしその一方で、このクルマに賭けるロールス・ロイス社の意気込みは、明らかに「革新」を意識したものと感じられるのも正直なところである。

ドーンはオープン/クローズドを問わず、4座のシートに乗るものすべてに等しく最上級のホスピタリティを提供する。その一方で、ことドライバーと助手席のパートナーには、レイス以前のロールス・ロイスのキャラクターには無かった、クールでセクシーな雰囲気をも味合わせてくれる。

1950年代初頭に、わずか28台のみが製作されたという『シルヴァードーン』のドロップヘッドクーペにオマージュを捧げつつも、2年前にセンセーショナルなデビューを果たしたレイスに勝るとも劣らない、新時代のロールス・ロイスの牽引車となるべきインパクトを備えたこのクルマは、あくまでロールス・ロイスの新しい哲学に基づいて創られたものと思われる。英国では「New Dawn(新しい夜明け」という慣用句が一般化しているとのことだが、新生ドーンこそ「ロールス・ロイスの新しい夜明け」であることを実感させられたのである。

■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★★

武田公実|自動車ライター/イタリア語翻訳家
1967年名古屋市生まれ、法政大学法学部政治学科卒業。コーンズ&カンパニー・リミテッド(現コーンズ・モーターズ)でセールス/広報を担当したのち単身イタリアに渡り、旧ブガッティ・ジャパンに就職。その後都内のクラシックカー専門店勤務を経て、自動車ライターに転身した。現在では複数の自動車博物館でキュレーションも担当するほか、「浅間ヒルクライム」などのクラシックカーイベントにも立ち上げから参画している。

《武田 公実》

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