「小さな命を守りたい」開発者の想いが生んだ、車の“見えない”を減らす富士通テンの技術

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富士通テン(株)ITS技術本部 製品企画室の村角美紀(むらすみ みき)さん
富士通テン(株)ITS技術本部 製品企画室の村角美紀(むらすみ みき)さん 全 8 枚 拡大写真

『マルチアングルビジョン(TM)』(以下『MAV』)という製品があることをご存じだろうか。富士通テンが富士通研究所と共同開発し、2010年に世界初(※1)「車両の全周囲を様々な視点から“立体的”な俯瞰映像で確認できる」製品として発表したものである。

これは現在、主にトヨタ自動車の主要車種に『パノラミックビューモニター』の製品名でグレード標準やメーカー純正オプション等として搭載されている。また同製品の機能は発表以後にも進化を続け、新たな映像表示方法として、ドライバーの視点から車のボディを透過したような見え方で死角を確認できる機能も開発されている。それは2015年1月に、トヨタの新型アルファード/ヴェルファイアにおいて『シースルービュー』の名称で、世界初(※2)の機能として、標準またはメーカーオプションで設定されている。

参考動画(約25秒)を観ていただくと、これが何なのかをイメージしやすい。まずは以下の動画を、ぜひともご覧いただきたい。

映像中央に黒い影があったはずだが、それは自車の影である。さらには、タイヤやピラーもうっすらと表現されていたことにお気づきになっただろうか。つまりその映像は、運転席からボンネットやドアなどを透かして見える景色だったのだ。

車には思いの外、死角が多い。ボディサイドはドアミラーで確認できるが、ミラーの前側には目視が効かない部分がある。特に運転席の反対側に関しては、ミニバンであればかなりの幅が死角になっている。高さのあるものなら気づけるが、ボンネットよりも低いものは目に入ってこないのだ。

しかしながら『シースルービュー』では、動画で確認いただいたとおりに、車の周囲のほぼすべての死角がクリアになる。(※3)

実車で体験すると、この機能の凄さを思い知らされる。画面の見え方は動画どおりなのだが、動画に映っていた幼児の人形や三輪車が、目視ではまったく見えていないことに愕然としたのだ。この機能を体感したらもう、これなしでは運転できない…そこまで思えた。

■富士通テンと言えば、「カーナビメーカー」というイメージがあるのだが…。

ちなみに『MAV』では、目的に合わせて複数の見え方も用意されている。車の上から俯瞰で立体的にぐるりと全周囲を見渡せるモードや、接近物を捉えるとアラームで警告するモード等がある。

当製品はざっくり、以下のような仕組みで成り立っている。フロント、リア、そして左右のサイドミラーの下部に、計4つのカメラが取り付けられていて、それらが撮影した映像を、立体的に起こした“フレーム”内に貼り付けていくのだ。ポイントは、貼り付けられる“フレーム”が3次元であるということと、視点を自由に変えられる、というところにある。

なお、『MAV』の開発に携わった技術者は、以下の2つの権威ある賞を受賞している。1つは「第46回(平成25年度)市村産業賞」の「貢献賞」、もう1つは、「平成27年度科学技術分野の文部科学大臣表彰」の「科学技術賞」である。

と、ここまではすべて、富士通テンを取材し、開発者の方々からじきじきに教えていただいたことである。

なぜ今回、このようなお話をお訊きしたのかというと…。

富士通テンといえば、“カーナビメーカー”というイメージを思い浮かべる方が多いと思う。それはまったくもって正しい認識だ。例えば、“AV一体型カーナビ”のことが“AVN”と総称されたりするのだが、実を言うと“AVN”とは、富士通テン(イクリプス)カーナビの登録商標名だ。この事実が示すとおり、富士通テンは、“AV一体型カーナビ”市場をリードしてきたブランドの1つであるのだ。

しかしながら富士通テンは、『MAV』のような“安心・安全”や、エンジンの電子制御機器といった“環境”に関わる技術、さらには将来的な“自動運転”の実現にも繋がる先進の技術を多々開発しているメーカーでもある。そこのところを改めて深掘りしたいと考えて、今回のこの記事は企画されたのだ。

というわけでまずは、この『MAV』とは何か、からじっくりと解説させていただいた。

さて、取材にご対応いただいたのは、以下のお二方だ。富士通テン(株)ITS技術本部 PF技術部 第三技術チームリーダ 兼 製品企画室 第二企画チームリーダである山下善嗣(やました よしつぐ)さんと、ITS技術本部 製品企画室の村角美紀(むらすみ みき)さん。『MAV』とは何なのか、そしてその開発背景、さらにはこれが未来にどのように繋がるのかまでを、詳細にお訊きしてきた。

■「子どもを守りたい」「直感的に分かる映像を」。100本以上のサンプル動画を作製。

村角さんはなんと、冒頭で動画を見ていただいた『シースルービュー』の企画立案と開発の両方に携わった唯一の人物でもある。その村角さんに、当機能を企画した当時のことをお訊きした。

村角「入社して9年間は開発部門にいて、その後企画部門に転属になりました。そこで『MAV』の新しい見せ方を検討する業務を担当させていただくことになったんです。4人のメンバーで、運転中はどんなシーンがあり、どんなところに危険が潜んでいるのかを検討してきました。車の全周囲を運転席側から車両を透かした形で見える表示方法は検討案の中の1つでした。

私自身に小さな子どもがいて、子どもが死角に入ることで起こる事故がなくなれば…という思いもありました。それなら、周囲を上からだけでなく運転席側から見渡せたほうが、もっと大きな表示で直感的に状況も把握できて、役立つのではないかと強く考えたんです。チームの仲間と、どの範囲のカメラ映像を見せるのか、車室内のどこを通る軌跡で視点を回転させるのか、回転スピードはどれくらいがわかりやすいのか、などいろいろ試行錯誤を繰り返し100本以上のサンプル動画を作成しました」

山下「彼女たちは、1枚ずつ画像を作成しては、それを“ぱらぱらマンガ”のように手作業で繋ぎ合わせて1本の動画にしていったんです。しかし、最初のプレゼンでその動画を見せられたときは正直、使い物にならないな、と思いました(笑)」

村角「でも、相当な数のサンプルを作っていたので、物によっては、これならなんとかなるのでは、と言ってくれる人もいました。実際、お客様のところに提案に行った時も、可能性を感じてくださる方がいて、そういう方々がいたことで、さらなる改良のモチベーションを高く保つことができました」

山下「当初のサンプルでは、すべてを見せようとしていて、情報量が多すぎたんです。遠くまで捉えた映像をすべて表示しようとして画像が粗くなっていて見にくかったり、小さくて何が映っているか分からなかったり、さらに動きもぎこちなかった。そもそも何を見せたいのか、コンセプトは何なのかを、相当に議論しましたね。そうして、死角に限定した見せ方に立ち返ったんです。結果、情報量を適切にして、動きもスムーズにすることができました」

村角「そしてようやく企画が通ったのですが、その後に設計部門へと異動することとなったのです。これは私にとってかけがえのない経験となりました。自分で企画したものを形にするところまで携われたのですから。紙面上の企画を形にするためにお客様とは何十回と仕様の細部に渡る議論と実車検討を繰り返しました。それ故に、完成した製品に対しての思い入れも強いです。ショッピングモールなどで設定されている車種を見つけると、ついついカメラが搭載されているか確認してしまいます。そうしてそれを見つけると、子どもにこの車にはお母さんが作った製品が使われているんだよ、と話して聞かせたり(笑)」

村角さんが企画立案をスタートさせてから、製品が発表されるまでには約3年が費やされている。完成までの時間は決して短くはない。その間には多大な苦難があっただろうことは容易に想像がつく。それだけに、完成を見届けた時の達成感がひとしおだっただろうこともまた、すんなりと理解できる。

山下「ちなみに当社では、“シゴトとヒトを同時に移す”ことが、割と多くあるんです。村角のように、自分で考えたものを自分で形にするという体験を持つ者は、結構多い。“任せる”という社風があるんですね」

■“先進運転支援”“自動運転”に向けて、富士通テンができること。

さて、『MAV』に関して、富士通テンではどのような将来像を持っているのだろうか。それについては、山下さんが以下のように話してくれた。

山下「当社は、ICT(情報通信技術)を活用し、安心・安全な車社会の実現を目指しています。これは「人」「クルマ」「社会」のデータをつなぎ合わせて、お客様一人ひとりに合わせた新たな価値を提供するという車載情報機器・サービスのコンセプト“Future Link(フューチャー・リンク)”に基づいているのですが、『MAV』にも“つながる”機能を加えていくことを考えています。例えば、カメラで捉えた情報をスマートフォンに送信することで、離れていても自分の車の状態を確認できる、盗難防止に役立つ機能などです。

また、今の『MAV』は見せて周囲を確認する機能がメインになっています。今後はセンシング機能を追加していき、さまざまな情報を収集・計測してより高度な安心・安全機能へ進化させようとしています。現在すでに、『MAV』で使用している『カメラ』の画像認識技術に加え、当社の強みの一つでもある『ミリ波レーダー』から得られる情報を統合して解析して車の周囲の状況をつかみ、車両制御と連携していく技術などの開発を急いでいます。こうした取り組みによって車の先進運転支援、さらに2020年には実現するであろう車の“自動運転”に、当社としても貢献していきたいと考えています」

2020年に、本当に“自動運転”は実現するのだろうか…。

山下「簡単なことではないと思っていますが、実際にそれを可能とするための技術のいくつかは我々の中でもスピードを上げながら開発を進めています。私たちが担える分野においては、私たちで不可能を可能にしていきたいと考えています。考えたものを形にすること、そして形にしたもので交通事故の無い車社会にしていくことこそが、我々にとっての一番のやり甲斐です」

まだ他にも面白いお話をお訊きすることができたのだが、記事はここで終了とさせていただく。

今回改めて、『MAV』という技術の凄さを知ることができ、かつ、それを実現させた方々の思いを訊くことができて、とても有意義な時間を過ごせた。

『MAV』が、そして“Future Link”というコンセプトが、未来の車社会でどのような光を放つのか…。興味は尽きない。

(※1)2010年4月現在、富士通テン(株)調べ。立体的な俯瞰映像で視点を変えて表示できる機能として。

(※2)2015年1月現在、トヨタ自動車(株)調べ。

(※3)全ての死角を表示するものではない。

《太田祥三》

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