【マツダ アクセラ 3200km試乗 前編】カラット数は大きいがまだ磨きかけの宝石のよう…井元康一郎

試乗記 国産車
マツダ『アクセラスポーツXD』。鳥取砂丘にて
マツダ『アクセラスポーツXD』。鳥取砂丘にて 全 14 枚 拡大写真

マツダの新世代環境技術群「スカイアクティブテクノロジー」を投入して作られたグローバル戦略モデル『アクセラスポーツ』で3200kmあまりツーリングする機会を得たのでリポートをお届けする。

試乗車は最高出力175ps、最大トルク420Nmを発生する2.2リットル直列4気筒ターボディーゼルエンジンを搭載する「XD(クロスディー)」で、変速機は6速マニュアルトランスミッション。BOSEサラウンドシステム、本革とスエードを表皮に使った上級シート、レーダークルーズコントロール&衝突軽減ブレーキ、電動スライディングルーフなどの豪華装備を持つ、販売価格300万円超のトップグレードである。

◆ロングツーリング性能はライバルを凌駕

試乗区間は東京~鹿児島で、往路は山陰経由、帰路は山陽経由。1年少々前にホンダのハイブリッドコンパクトセダン『グレイス』で通ったのと8割がた同一のルートであった。一般道や無料の自動車道路を多用し、北九州や阪神エリアなど夜間でも信号の設定が悪くて平均車速が落ちてしまうようなところは有料道路でバイパスした。ドライブコンディションは鹿児島県内での移動を除き1名乗車、全区間エアコン「ECO AUTO」。

まずは総評から。アクセラXDは、基本性能に関しては申し分がないほどよく出来ていた。動力性能、燃費、操縦安定性に優れ、またツーリングカーにとって重要な資質のひとつである疲労軽減については、内外のライバルを見回してもトップランナーの一車に数えられるほどの資質を有していた。マツダは最近、「国境を越えるロングドライブ」を謳うテレビコマーシャルを流しているが、その言葉もまったくオーバーではないと思えるポテンシャルを有していた。一方で、マツダが同じく標榜しているドライビングプレジャーの重要ファクター、すなわち「人馬一体」を実感させるようなチューニングについてはまだ実現途上。運転に熱中して疲れを忘れさせるようなキャラクターを作り上げるまでには至っていないという印象だった。

各論に入ろう。アクセラの持っている特質の中で最も素晴らしいと感じたのは、疲労の蓄積の少なさであった。ドライブ初日、仕事の都合で東京出発が夜になり、明け方までに一般道主体で滋賀の大津まで到達するために休憩を極力取らずに走った。横浜新道のサービスエリアでコーヒーやガムなどの救援物資を買い込んだ後、約4時間連続走行して愛知県蒲郡のコンビニエンスストアで短時間のトイレ休憩を取り、その後鈴鹿峠経由で大津に達するまでさらに連続3時間以上運転した。

長時間連続運転をすると、運転中はそれほど疲れを実感していなくても、クルマを降りた時に体が重く感じられる。ちょうどプールや海で散々泳いだ後に水から出るとずっしりくるような感覚で、その度合でクルマのおおよその疲労耐性を推し量ることができる。アクセラXDの場合、4時間連続運転後にクルマを降りても、そういう重さは皆無に近かった。

それだけでも疲労軽減の性能としては第一級と言えるのだが、驚いたのはそれからさらに長時間連続走行した後も同じように平気だったこと。これまでの連続運転トライの経験に照らし合わせれば、国産車ではプレミアムの上位セグメントモデルを含めた大半のライバルをまったく寄せ付けないレベルで、アウディ『A3』やDセグメントのボルボ『V60』などのプレミアムセグメントと比較しても一歩も譲るものではなかった。

疲れの少なさを生んでいるのは、シート設計が良いことと、コクピット全体が人間工学的に非常によく考えて作られていることによると推察された。まずはシート。最近はコンピュータによるシミュレーション技術が発達したおかげで、体圧分散設計はどのメーカーもきわめて巧みになった。その中でマツダおよびシートメーカーのデルタ工業の考え方が優れていると思われたのは、体全体を面でフィットさせることにこだわりすぎず、骨盤を良いポジションでしっかり支持、固定することを優先させている点だった。

実際に長時間ドライブしてみると、そのポリシーは非常に効果的で、ウレタンパッドの感触はゴツッと固いものながら、医療用ギブスのように身体を安定させるため、連続運転時も運転姿勢のズレを修正するといったストレス要素はほとんどなかった。マツダは1980年代、『ファミリア』『カペラ』『RX-7』などに設定された特別グレード「アンフィニ」以来、ドイツのシートメーカー、レカロと協業を繰り返してきたことは、古いクルマファンの間ではよく知られている。その協業を通じて自社でもシートに関するノウハウを相当深めてきたのであろう。

シートと並んでアクセラが傑出しているのはコクピットデザインだった。まるでプレミアムセグメントのモデルのように凝った造形のエクステリアに比べ、インテリアのデザインや仕立てはプレミアムと言うには簡素にすぎる。が、質実剛健と言うべきか、運転のストレスを減らすという点についてはパラノイア的に凝った設計がなされていた。

最初に書いたように試乗車は6速MTで、シフトノブに手を伸ばす頻度はATの比ではない。ロングドライブにおいてはこれが肩こりの要因になったりするのだが、前席間のコンソールボックス上につけられたソフトパッドが、長時間運転で少し肘が下がった時にそっと下から支えるような絶妙なポジションに設置されており、それがとても優しい気遣いに感じられるのだった。スイッチ類の配置も合理的。細かいところではサイドブレーキレバーは垂直方向ではなく、ドライバー側に向かって微妙に斜めに引き上げるよう設計されているところも面白かった。こうした設計の積み重ねが、疲労感の軽減につながっているのだろう。

ほか、ハードウェア面で感心させられたのはボディ、シャシー設計の素晴らしさだった。アクセラスポーツのボディは軽く作られていながら、ソリッド感は極めて高い。また、パワートレインを含めたパッケージング全体での低重心化も徹底されている。国道9号線益田から山口までの区間や九州の山岳路のようなハードなワインディングロードでも変位やガタつきは極小で、非常に強固な印象。前ストラット、後マルチリンクのサスペンションの能力も高く、急カーブでも余裕たっぷりだ。

最近、世界の自動車メーカーはこぞってクルマづくりのアーキテクチャ更新に取り組んでおり、Cセグメントでは昨年12月にトヨタが『プリウス』にTNGAという新アーキテクチャをデビューさせた。それらの設計もこれから深まっていくのであろうが、現状ではアクセラのスカイアクティブシャシーはTNGAを全般的に凌駕しているように感じられた。

◆課題は感性領域のチューニング

このように、世界のトップランナーたちと伍するようなキラリと光るものを持つアクセラXDは、失点を抑えられさえすればナビを含めて約310万円という価格は大バーゲンだと思われるくらい熱烈に支持されそうなのだが、残念なことにその失点が少なからずある。たとえばボタンの樹脂がボロいといったくだらないことだったら気にならないのだが、クルマの運転を気持ちよく感じさせるような感性領域での取りこぼしも多いのが惜しい。

一番もったいなかったのは、クルマの性能そのものの良し悪しとは別の、ドライビングインフォメーションに関するチューニングが甘いことだった。クルマの味付けで開発者が一番苦労するのは、真っ直ぐ進むとき、カーブを曲がる時、加減速など、すべての動きをドライバーにどう伝えるかということだ。視線移動をつかさどる視界にはじまり、シート、ステアリング、シフトレバー、音、振動その他、非常に多くのパラメーターが複雑に絡み合う領域である。

人間の体感とは面白いもので、同じ加速度でも情報の与えられ方によって全然違うものに感じられるものだ。遊園地のとんでもない絶叫ジェットコースターで正面を向いていると息ができなくて苦しいくらいなのに、そんな時に真横を向くと何ともなかったりする。東京ディズニーランドのスターツアーズというバーチャル宇宙旅行アトラクションでは、椅子に座って前面のスクリーンだけを見つめていると、部屋ごとその場で上向きになったり下向きになったりしているだけなのに、まるでとてつもなくダイナミックに移動しているような感覚に陥る。そういった体感をデザインすることは、クルマをファンなものにするカギを握る重要なファクターである。

アクセラXDはその感性領域のチューニングに関してはまだまだ甘い。コーナリングでクルマがロールするとき、ドライバーの体に遠心力がかかるのだが、その遠心力が斜めのロール方向ではなく、真横にかかるように感じられる。クルマの動き自体は結構素直なのに、インフォメーションの伝わり方が悪いために、「この速度ではこのくらいのステア量で曲がればこういう動きをするんだ」という予測と往々にしてずれが生じるのだ。

すべてのシーンでそうなるというわけではない。コーナリング中にスロットルを踏んで体に加速Gがかかると、この変な体感は相当解消され、クルマの動きと体感の一致性が俄然高まる。アクセラXDでワインディングロードをリズミカルに走るには、コーナリング入り口で前傾姿勢を作るのではなく、セオリーより遅めのスピードで進入し、クリッピングポイントを通常より前に取りながらスロットルを踏んで曲がるといいようだった。

ただ、短時間の遊びなら面白く感じられるかもしれないが、そういう運転はすぐ飽きるし、ロングドライブではクルマにせかされるような雑味でしかなくなるので、道なりの走り方でもクルマの動きが素直にドライバーに伝わるようにしたほうが、オーナーの満足度もより高まるのではないかと思われた。マツダ関係者にきいてみたところ、ダイアゴナル(対角線)ロールが体感の基本という認識は持っているとのこと。最近、マツダは商品改良のスピード感が非常に素早いので、近々改善されるかもしれない。

操縦性の味付け以外で気になったのは、路面の突起やうねりをうまく吸収する能力が、Cセグメントの世界トップランナーに比べて低いことだった。コーナリング中、外側のサスペンションがある程度縮んだ状態で路面のうねりや破損を踏むとき、それをストロークで綺麗に吸収できず、車体がぐらつくように感じられるのだ。これではクルマの性能がいくら良くても信頼感が薄まり、どんな道でもこのクルマなら何ということもないという大船に乗った感が損なわれてしまう。

本来、現行アクセラの足はなかなかに良く動く設計で、デビュー直後の試乗会ではとくに2リットルガソリンの乗り味の良さが出色で感銘を覚えたことを鮮明に記憶している。その試乗車と異なり、XDはスポーツサスペンションが装備されているのだが、サスペンションが固くなると良さを出すためのチューニングは加速度的に難しくなる。3cmのストローク幅で出していた良さを1.5cmで実現させるようなものだからだ。機械的な出来は問題ないと思われるので、やる気と目的意識さえ持っていれば、微小な領域のチューニングのノウハウが深まり、その部分もいずれは良くなっていくであろう。

もう1点、これは設計の巧拙ではなく開発陣の哲学に起因するものと考えられるが、ドライビングポジションのスウィートスポットが少し狭すぎる。シートリフターを一番下まで下げ、ステアリングの角度がドライバーにほぼ正対するという、ものすごくスポーティなドライビングポジションを取れば、前述の疲労感の少なさをはじめ、アクセラならではのさまざまな美点を味わうことができるのだが、ロングドライブだからアイポイントを高くしてボンネットも見えたほうが快適…などと考えてヒップポイントを上げると、とたんにクルマへのフィット感が失われてしまう。マツダの開発陣が潜在的にいかにスポーツカー好きであるかが伺えるところだが、アクセラはあくまでツーリングカーなので、もうちょっと許容性を上げたほうがいいのではないかと思われた。そういう仕立てになれば、欧州市場での支持率ももっと上げられるだろう。

ほか、ロードノイズやエンジンノイズの室内への透過が盛大なことなど欠点は少なくないが、それでもクルマとしての基本的な資質の高さに救われて、アクセラXDはロングツーリングという視点で見れば、文句なしにおすすめできる1台と言い切れるクルマに仕上がっている。

日本市場ではBセグメントを広く作ってファミリーカー代わりにするというのがトレンドとなっており、Cセグメントはおしなべて不作。国産勢でアクセラスポーツの直接的なライバルと言えそうなのはスバル『インプレッサ』、トヨタ『プリウス』、同『オーリス』、レクサス『CT』くらいのものだが、1000km超のロングツーリング耐性という観点では、アクセラの資質はライバルと比べてずばぬけている。ドライビングインフォメーションや姿勢変化の収束、振動吸収などの要素が良くなりさえすれば、アウディ『A3』、ボルボ『V40』などの欧州プレミアム勢と四ツに組めるモデルに成長させるのもそう難しいことではなさそうだった。アクセラXDはいわば、カラット数は大きいがまだ磨きかけの宝石みたいなクルマだった。

後編ではディーゼルエンジンやオーディオ、カーコミュニケーションなどについて取り上げたい。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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