【千葉匠の独断デザイン】ロードスター のWCOTYダブル受賞に想う「良いデザイン」の在るべき姿

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マツダ ロードスター
マツダ ロードスター 全 16 枚 拡大写真

ニューヨークモーターショー16で、マツダのプレスカンファレンスはプレスデー2日目、3月24日の11時20分に始まった。ワールドカーアワードの表彰式で『ロードスター』(現地名:MX-5)が「ワールドカーデザインオブザイヤー」と「ワールドカーオブザイヤー」をダブル受賞してから、およそ2時間後のことだ。

まるで栄冠を手にすることを予想していたかのようなタイミングでカンファレンスがスタートしたわけだが、もちろんこれは偶然。ワールドカーアワードでは審査員の投票結果の管理を第三者の監査法人に委託しており、主催者でさえ表彰式で監査法人から手渡された封筒を開けるまで誰がウィナーかわからない。

祝賀ムードに包まれたプレスカンファレンスには、前田育男デザイン担当常務(3月29日付けでデザイン本部長から常務に昇進)の姿もあった。このショーでリトラクタブル・ファストバックのロードスターRFがワールドプレミアされたから、開発リーダーの山本修弘主査やデザインの中山雅チーフデザイナーがいるのは当然だが、前田氏は「中国出張の予定をキャンセルしてニューヨークに来た」という。その甲斐あってのダブル受賞。「広島に帰ったらまた忙しい日常に戻らなくてはいけないけれど、今日はこの喜びに浸らせてもらいます」。

ワールドカーアワードには本賞のワールドカーオブザイヤー(WCOTY)の他、デザインや環境車、高級車、高性能車など部門別の特別賞があり、それぞれのトップ3が3月初旬のジュネーブモーターショーショーで発表されていた。WCOTY候補の3台はロードスター、アウディ『A4』、メルセデスベンツ『GLC』。デザイン部門はロードスター、『CX-3』、ジャガー『XE』で、トップ3のうち2車がマツダだ。少なくともデザイン賞はマツダに行く確率が高そうな状況だったわけだが…。

私は審査員ではなく、デザイン賞であるワールドカーデザインオブザイヤーについてデザインエキスパートという役目を仰せつかっている。審査員は73名いるが、それぞれが主観でデザインを評価すると投票がバラけてしまって有力候補を絞るのが難しくなる。そこで6人のデザインエキスパートが事前に各自5~6車を選ぶと共に、その推薦理由を文書で提出。ここでトップ5を決めた後、推薦理由を審査員に配布して投票の参考にしてもらうという仕組みだ。

面白いことに、デザインエキスパートの選択が大きく割れたことは過去に一度もない。昨年までは5人だったが、トップ5のうち3~4車はスンナリと決まる。残りの1~2車についても、メールでの再審議ですぐに決まる。これには主催団体の事務局が、「あなたたちの意見はホントにいつも一致するのね」と驚いていたほどだ。

今年度は長らくデザインエキスパートだった一人が退任し、新たに二人が加わって6人になったのだが、やはり結果は同じ。6人の推薦で、ロードスター、CX-3、キャデラック『CT6』、ランドローバー『ディスカバリー』の4車をまず決定。残る1枠を『XE』とメルセデスベンツ『Cクラスクーペ』が争った。私はもともとXEを推薦していたので事態を静観していたところ、3人のエキスパートが相次いでXEを推し、すぐに決着した。

デザインの評価は、けっして主観的なものではない。「良いデザイン」の基準を明文化することはできないけれど、それは言わば「暗黙知」だ。今年度も6人のエキスパートがそれを共有して明快な結論を出し、トップ5を決めた。そこから審査員の投票によりトップ3が選ばれ、さらに投票が行われてロードスターがWCOTYに輝いたのである。

ロードスターについて、私は次のような推薦文を書いた。「1989年に生まれた初代MX-5は大きな成功を収め、多くの情熱的な顧客を獲得した。今も初代をガレージに持っている人は少なくない。それゆえ新型MX-5のデザインのゴールは、初代を愛する人たちを魅了することだった。ご存知のように、マツダのデザイナーたちは初代のスタイル要素を新型に使ってはいない。そのかわりに彼らが行ったのは、初代の機能性とシンプルさを再開発し、それをエクステリアとインテリアの両面で新たなレベルに引き上げること。シンプルだがエモーショナルなエクステリアは、とくに注目に値する。これはマツダの『魂動のデザイン』の新たな時代を体現するものだ」。

これが世界各国73名の審査員の心に、どう響いたかはわからない。でも、審査員が最終的に下した結論には、もちろん大満足だ。そしてもっと嬉しいのは、ロードスターがワールドカーアワードで史上初のダブル受賞となったことである。

環境車、高級車、高性能車に与えられる特別賞は、カテゴリー別に設けられた部門賞であり、それぞれに投票対象車がノミネートされる。しかし、デザイン視点で選ぶワールドカーデザインオブザイヤーはカテゴリーを問わないので、対象車は本賞のWCOTYと同じだ。言い換えると、ダブル受賞があり得るのは、おそらくワールドカーデザインオブザイヤーとWCOTYの組み合わせだけ…。それが今回、実現した。

「良いデザイン」であるためには、「良いクルマ」でなくてはいけない。「カッコいいけれど乗るとダメ」も、「乗れば良いクルマだけどカッコ悪い」も、どちらもダメなのだ。開発チームが、そして会社全体が、目標を共有して妥協なく開発してこそ「良いデザイン」の「良いクルマ」が生まれる。そんな当たり前の事実を、ロードスターのダブル受賞が証明してくれた。私はそこを、何より嬉しく思っている。

《千葉匠》

千葉匠

千葉匠|デザインジャーナリスト デザインの視点でクルマを斬るジャーナリスト。1954年生まれ。千葉大学工業意匠学科卒業。商用車のデザイナー、カーデザイン専門誌の編集次長を経て88年末よりフリー。「千葉匠」はペンネームで、本名は有元正存(ありもと・まさつぐ)。日本自動車ジャーナリスト協会=AJAJ会員。日本ファッション協会主催のオートカラーアウォードでは11年前から審査委員長を務めている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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