すべて流され5年…宮城・女川魚市場、奇跡の復興ストーリー

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震災から5年、復興が進む女川魚市場
震災から5年、復興が進む女川魚市場 全 3 枚 拡大写真

 2011年3月11日、東日本大震災による津波は、東北の沿岸部に甚大な被害をもたらした。宮城県牡鹿郡にある女川魚市場もその一つ。建物は外観こそ残ったが、中身はすべて流されガレキの山に。水揚げの岸壁は陥没し、船を着けられなくなった。

「何をすればいいかもわからない。途方に暮れました」と当時を思い返すのは、女川魚市場の代表取締役専務 加藤実氏。幸い職員は山へ避難していて助かったため、とりあえず全員手作業でガレキの撤去から始めた。その作業にはおよそ2ヵ月はかかったという。

 その一方で、加藤氏はサンマの時期の9月から市場が再開できればと考えていたという。しかし、地元の漁業者はたくましかった。7月から水揚げしたいという要望を受けて、加藤氏は女川町に依頼。仮設岸壁を作ってもらう。

 そして、7月1日、女川魚市場は業務を再開した。とはいえ、フォークリフトもトラックも冷蔵庫も、何も設備はない。当初は水揚げ量がほとんどなかったので、手作業でまかなえたが、このままでは秋のサンマ漁ができない。まだ復興計画も何も立てられない頃に、それでも加藤氏は国や女川町の支援を受けると、設備をどうにかひととおり揃えることに成功。なんとかサンマ漁の再開にこぎつけた。

■データが無い! ゼロからの会社再建

 業務を再開したものの、津波で会社のパソコンがなくなり、経理関係のデータがすべて消えていた。前年の11月分までは宮城県漁業協同組合に残っていたが、12月から3月までのデータが無い。預貯金から未収金からすべてがわからない。取引先に確認しようにも取引先も震災でやられているという状況だった。

 正確な数字がわからない。これまで経理を何十年もやってきた加藤氏にとって、こんな経験は始めてのことだった。「1年かけてなんとか数字を確定していきました。この1年が一番苦しかった」と加藤氏は当時のことを話している。 

 女川魚市場が株式会社になったのは今から10年前の2006年のこと。それまでは宮城県漁業協同組合連合会が市場を経営していた。しかし、単独で判断することのできない協同組合の経営は何かとやりづらいことが多く、売上も頭打ちだった。そこで連合会は市場を株式会社に変えることにした。

 そのときに加藤氏は30数年在籍していた協同組合から市場に転籍した。株式会社は結果さえ出せば、それまでと比べ自由に活動できる。市場は順調に売上を伸ばし、株式会社化は正解だったと誰もが思った。そこへ震災が襲った。

 市場の建物は女川町のものなので、女川町が国からの補助で再建する。だが、設備や備品は市場が用意しなければいけない。そもそも震災で資産を全部失った市場は債務超過となっている。どうやって再開すればいいのか。

 そこで、加藤氏が訪れたのが農林中央金庫だった。彼らは1750万円の出資を快く引き受けてくれると、女川町からの増資もあって、事業は好転する。これによって銀行からの融資もスムーズに受けることができた。

 さらに東北漁港機能の早期再開を謳う“希望の烽火(のろし)プロジェクト”が「市場が再開しないと女川の水産業は動いていかない」と、市場を中心に支援してもらえたことも大きかった。同基金の岡本行夫代表は何度も女川へ足を運び、現場の意見を聞いて回ったという。この支援でフォークリフトやトラック、コンテナなど、足りなかったものを用意することができた。

■震災から2年で黒字化に成功

 これらの活動により、市場は徐々に活力を取り戻していく。2012年に立てた5ヵ年計画では最初の3年は売上目標を40億円としていたが、1年目から43億で目標をクリアし、約8,000万円の不良債権を償却した。その翌年からは完全に黒字化し、2013年に75億、2014年に88億と一気に震災前の売上を取り戻した。震災当時のことを思うと、これは考えられないことだったと加藤氏は話す。

「漁業関係者の方々をはじめ、いろいろな人の協力があったからこその結果です。震災後は給料を3割カットしてのスタートでしたが、職員はよく耐えてついてきてくれました。一時は役職以外の職員を全員解雇するという話もあったんです。しかし、それでは再開はできないと私は言いました。おかげで黒字化することができ、今は給料も元に戻るどころか逆に前より上がっています(笑)」

 2015年6月には東荷さばき場が完成。これは震災前にはなかったものだが、計画は震災前からあり、国の承認も得られていた。震災で頓挫してしまうかと思われたが、結果的にはこれが一番最初に作られた。

 震災で残っていた建物もきれいに解体され、新しい事務所は今年の6月に、中央荷さばき場は8月に完成予定。そして来年の3月には西荷さばき場が完成する予定になっている。東荷さばき場に約16億円、それ以外に約62億円がかかっているが、これらはすべて国からの補助金でまかなわれた。

 順調に見える女川魚市場だが、今後の課題もまだ多い。売上は回復させたが、水揚げ量はまだ震災前のようには戻っていないと加藤氏はいう。

「まわりの水産加工場が戻らないことには受け入れができない。市場だけが設備を良くしても本当の復興は来ないんです」

 また、以前は加工場の各個人がそれぞれに冷蔵庫を持っていたが、津波ですっかりダメになってしまった。新しい工場が再開しはじめてはいるが、冷蔵庫なしの状態で再開しているところもある。これから水揚げを延ばしていくには冷蔵庫が足りない。個人で冷蔵庫を持つことは厳しいので、共同の大きな冷蔵庫を2~3年後を目標につくりたいと考えている。

 未曾有の災害を乗り越え、ここまで復興した女川魚市場。新たになった設備とともに、より一層の発展が期待されている。

【東北の農林水産業】全てが流された魚市場。奇跡の復興

《板谷智》

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