【ホンダ クラリティFC 試乗】静かで快適な走りと十分な航続距離で優位に立つ…松下宏

試乗記 国産車
ホンダ・クラリティフューエルセル
ホンダ・クラリティフューエルセル 全 18 枚 拡大写真

ホンダの『クラリティフューエルセル』はとても良くできた燃料電池車だった。『ミライ』から1年以上も遅れての発売だから当然といえば当然だが、ミライを上回る部分も多くあった。

走り出してすぐに感じるのは静粛性の高さだ。ミライも全体としては静かなクルマだが、静粛性が高いために逆に聞こえてくる音がいろいろある。クラリティは燃料電池スタックの作動音はもちろんいろいろな音が遮断されていて、とても静かなクルマだった。

発進時の力強さなどはミライに分があるようにも思ったが、中間加速の滑らかさと力強さはクラリティが勝っている印象だった。ただ走行性能については、どちらも電気自動車としての良さを備えていて、決定的な違いはない。

乗り心地の快適性でもクラリティは優位に立つ。ミライがしっかりした乗り心地で操縦安定性を重視した印象なのに対し、クラリティは柔らかな乗り心地で快適性が際立つ印象だ。このあたりはトヨタとホンダのクルマ作りが逆転したかのように思えるほどである。

クラリティは燃料電池スタックや制御系をコンパクト化してボンネットフード内に収めている。通常のFF車のようなパッケージングを採用することで、プラットホームの汎用(はんよう)性をねらったという。

このことについては、フロントヘビーになり過ぎるのではないかとの懸念を感じていたが、実際に出来上がったクルマは通常のFF車並みの前後重量配分になっていた。むしろミライより前輪荷重の比率が少し低いほどだ。

これは後部に大きく重い水素タンクを搭載することが影響している。ある意味で“ケガの功名”ともいえるような結果である。

FF車のようなパッケージングなので後席の居住空間は足元の余裕が大きいが、水素タンクが大きいためにトランクの容量はミライよりも小さい。

燃料タンクの大きさは航続距離の長さにつながる。公称の航続距離は750kmでミライより100km長く、また実質的な航続距離も500kmほどでやはりミライよりも100km長い。燃料電池の発電性能については、どちらも大きな違いはないようで、水素の搭載量の違いが航続距離につながっている。

現在のように、水素ステーションの普及が十分でない状態であれば、なおさらに燃料電池車の航続距離は長いほどうれしい。これがクラリティがミライに対して優位に立つ最大のポイントだと思う。

外観デザインはコンセプトカーを見た段階では、絶対にクラリティが欲しいと思うくらいに良かった。クラリティは発売のメドさえ明らかにされなかったので燃料電池車を買おうとしたらミライを選ぶしかなかったのだが、市販車のクラリティを見るとコンセプトカーほどのカッコ良さではなくなっていて、ミライのオーナーとして安心させられた。

クラリティにはミライにはないホンダセンシングなどの最新の安全装備や運転支援装備が用意されている。発売時期の違いが、これらの装備の有無に直接的に影響している。

価格はミライの723万6000円に対し、クラリティは766万円とやや高いが、ミライはカーナビがオプションであるほか、先進運転支援装備の仕様で劣るので、実質的にはほとんど変わらない。

クラリティの問題は、ひとつはボディが大きすぎることだ。全幅が1875mmもあるから、私の駐車場では物理的には入っても、ドアを開けての乗り降りを考えると実用的には使えないくらいの幅広さだ。ミライも1815mmで1800mmの壁を踏み越えているから、クラリティばかりを責められないが、いずれにしてもクラリティが大きすぎるのは間違いない。

また初年度に200台だけを官公庁向けにリースするだけというのは、クラリティがまだ商品として完全には仕上がってないのではと思わせる。恐らく、量産体制やコストダウン、信頼性の検証などの部分で克服すべき課題が残っているのだろう。

これに対してミライは完全に売り切りであり、ミライを選んだ私には、これまでの10か月ほどの間に1万5000kmを走った歴史がある。個人でクラリティを買おうとしたなら、この先まだ1年も待たされるのだから、トータルで2年の差があることになる。この差はとても大きい。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★

松下宏|自動車評論家
1951年群馬県前橋市生まれ。自動車業界誌記者、クルマ雑誌編集者を経てフリーランサーに。税金、保険、諸費用など、クルマとお金に関係する経済的な話に強いことで知られる。ほぼ毎日、ネット上に日記を執筆中。

《松下宏》

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