『グランツーリスモSPORT』は新しいモータースポーツの提案 ― FIAとの連携秘話も

モータースポーツ/エンタメ ゲーム
山内一典氏
山内一典氏 全 5 枚 拡大写真

先週、英国ロンドンにて開催された『グランツーリスモSPORT』お披露目イベント「Gran Turismo SPORT UNVEILING」。その2日目に、本作のプロデューサーである山内一典氏のメディア向け合同インタビューが行われました。約30分にも及び、FIA(国際自動車連盟)との取り組みに至る経緯からVRへの対応具合まで、本作に込めた想いや意気込みをたっぷりと語ったそのインタビューの模様をお送りいたします。

――まず最初に、今回『グランツーリスモSPORT』というタイトルになった訳ですが、その中でFIAとの取組みに至った経緯などを教えていただけますか?

山内一典氏(以下、山内氏):はい、もともとはFIAの皆さんから僕らの方へコンタクトがありました。「何か新しいことができないだろうか?」と。今回発表した「チャンピオンシップ(レース)をグランツーリスモの中で行う」ということと、「(FIA公認の)デジタルライセンス(現実のレースに参加できるようになるライセンス)をグランツーリスモを通じて発行する」ということ、この2つの柱というのは、お話を頂いて5分ほどで僕が閃いたことなんですね。そして即プレゼンテーションの準備に入り、FIAの皆さんにお会いして提案した、それが大体3年くらい前の話でしょうか。最初はFIAの皆さんも半信半疑と言うか、雲をつかむような感じだったのですが、その後交渉を重ねていくことにより、ようやくくこの1か月前くらいにFIA総会で議決を得られたという経緯です。そのようなプロセスを経て今回の『グランツーリスモSPORT』に至ったということになります。

――この「デジタルライセンス」に日本はまだ参入していないと言うことですが、今後の見込みはどうでしょうか?

山内氏:僕も自動車クラブの世界に足を踏み込むのは今回が初めてになるんですね。FIAの名前も知っていましたし、JAFや例えばドイツのADACなどがあることは知っていましたが、具体的にどんな組織であるのか、どのような景色が広がっているのか全然知らなかったのです。そして、実際にそこへ参加させていただいて深くコミュニケーションを取っていくうちに分かってきたのは、自動車の文化というのは100年を超える歴史があって、僕の行っているオートモービルクラブも同じくらいお歴史を持っているんですね。運営されている方々も僕の2倍とは言いませんが、それくらいの年齢の方々が運営に携わっていらっしゃる組織なんです。しかも都度皆が集まって皆で物事を決めていくものですから、僕らの会社のように何か物事を決める時に5分で決まるとかは、およそ真逆の世界なんです。ですから、今回のデジタルライセンスというものは、この3年間を通してのプレゼンテーションとかワークショップを通じての働きかけの結果、現時点で世界25か国の参加表明なんですが、これは(日本も含めて)今後またじわじわと変化していくものだと思っています。

例えば、今世界のモータースポーツの人口と言うもの自体が減ってきているのですが、その減少に対して危機感を抱いてる国、あるいはモータースポーツ新興国のインドですとか中国、中東なんかもそうですけど、そういったところは凄く興味を持っていただいてる。一方で例外的にモータースポーツが上手く回ってる国があって、例えばドイツなどは今もモータースポーツ人口も増えてサーキットも作られている、そう言ったところは温度差があって、今すぐ参加という風にはいかないと思いますが、長期的に見ていくとじわじわと広がっていって、『グランツーリスモSPORT』ローンチの時点ではまだ増えていると思っています。これは毎年増えていくんじゃないかなと思っています。

――これまで「GTアカデミー」でリアルなレーサーの育成に取り組まれてきたり、あるいは今回FIAとの取り組みを行なうわけですが、今後現実のレースのように、リアルなスポンサーがついたレースの開催や、プロフェッショナルなドライバーの育成等は考えていますでしょうか?

山内氏:まず前提として、僕が持っていた問題意識というのは現在のモータースポーツのあり方というものがそれ程安定しているものではないというところなんですね。当然として受け取っていましたけども、僕が生まれた1960年代、それから70年代というのは、モータースポーツが特別な存在としてあって、そこにスポンサーマネーが入って、車にステッカーを貼るだけでお金が回るみたいな時代が確かにあったわけです。ところがそのモデルはとっくに崩れてると思っていて、現在は新しいモータースポーツのあり方みたいな、新しいモデルみたいなものを提案していかなきゃいけない時期なんじゃないかという意識はあったんです。

例えばGTアカデミーであればグランツーリスモから上がってきたレーサーが本当にプロの世界で通用するのかという疑問に対して作用したと思っていますが、それ以前にプロフェッショナルなレーシングドライバーというものがそもそもあり得るのかという疑問はあります。例えばF1のトップ数人を除けば、本当の意味でのプロフェッショナル、例えばエコノミーとしてプロフェッショナルといえるドライバーはどれだけいるのだろうかという疑問は持っていて、モータースポーツのように歴史あるものは、巨大な慣性がついていますから、簡単には形を変えられないですが、既にモータースポーツのあり方としては違ったものになっているのではないかという予感はあります。

ですから、FIAと行なうことも、これまでのモータースポーツにバーチャルのドライバーを接近させるという手法ではなくて、僕らが外から働きかけることで、リアルを変化させていきたいということなんですね。僕らが働きかけることで逆にリアルがバーチャルよりへと変化していく触媒みたいな役割を担えたら幸せだと思っていて、FIAと僕らのパートナーシップもそこにあると考えています。凄くシンプルに、リアルの世界に変化を与えていこうと考えています。

――最近の自動車でAIの自動運転が採用されつつありますが、グランツーリスモとして、又はポリフォニーデジタルとして自動車産業界へ協力したりするような動きはありますか?

山内氏:(自動運転の)AIに関しては既に各方面に採用されているんですね。例えばNvidiaなんて3年前からグランツーリスモを機械学習に使っています。路上試験というのは一度もミスをしてはいけない世界なのでシミュレーター内で学習させるのが一番安全だからなのですが、彼らは本当にもうプレイヤーができることを機械にさせて、つまりコントローラーを操作するところからさせて、画面をキャプチャーして画像認識をさせたり、あるいは対象物を認識させて、といったことをやって学習させているのです。ですから、使おうと思えばグランツーリスモのAIはすぐにでも使われるし、実際に使われています。ただ、今後僕らがコンシューマー向けのビデオゲームを作るというところを超えて、そういった産業向けに送り出すというのは、まず何にせよ、今目の前にある『グランツーリスモSPORT』を作り終えてからというところがありますよね(笑)

――「完成度はまだ50%ぐらいだが、次の世代の香りが感じられるものになっている」という発言をされましたが、山内さんが考える次世代のレースゲームとはどのようになるのでしょうか?

山内氏:レースゲームジャンルって、最初の『グランツーリスモ』が出てきてからほとんど何も変わってないと思うんです。『グランツーリスモ』のようなゲームは増えてきているけども、新しい遊び方や新しい見せ方、そう言ったものを提案できてはないんですね。僕らも『GT5』、『GT6』とPS3の時代はもの凄く苦労していて凄くストレスのたまった時代だったんです。新しいことをやりたいんだけども、色んな意味で機が熟していなかったり、あるいはハードウェアのアーキテクチャが追い付いていなかったりと色んなことがありました。今回PS4になって、それからGTが発売から20年近く経って色々な形で世の中に対してコミュニケーションできるようになったこともあって、今なら新しい提案ができるという手応えを感じています。あと、作っていて楽しいですね。イメージしたものがそのまま形になっていくというのは『GT6』の時代にはなかなかなか難しかった記憶があります。

――ゲームのシステム部分について、スーパープレミアムカーは新たにスクラッチでモデリングし直されたとありましたが、車1台当たり何ポリゴンくらいで構成されているのでしょうか?

山内氏:最近ポリゴン数は意識してないところがあって、というのも今はアダプティック(状況に応じて)にジェネレートされるものですから一概に何ポリゴンとは言えないのですね。

――スタンダードカーは過去作からの流用でしょうか?それとも新たにモデリングし直されたものでしょうか?

山内氏:いえ、スタンダードカーも含めて全てスクラッチでモデリングし直しています。

――以前にタイヤメーカーとの提携なども発表されていましたが、今回の挙動についてはどのように進化しているのでしょうか?

山内氏:挙動の開発についてはこれはもう終わりがないんです。前提としてリアルであること、それは当たり前なんだけど、その「車に乗る」と言うことを当たり前に実現することが実は案外大変なところで、そのチャレンジはまだ続いているところです。ただ、今回のGTスポーツはプレゼンテーションでもご覧頂きましたが、初めてレースゲームを遊ぶ、初めて車を運転する、そういう人達にも向けて作っているものでもあります。ですから、乗り易さについてはこだわっていきたいと思います。

リアルなものが難しいという誤解が凄くあると思うんですが、実際、僕自身レースにも参加してリアルな運転もやっていますけど、リアルなドライブ自体はそんなに難しいものではないんです。「リアリティを高めていくと運転が難しくなる」、これは完全に間違いなので、そこを乗り越えたいと思っています。つまり、より敷居を下げつつ、より深みのあるドライブを目指したいと考えています。

――天候変化や環境変化、そしてダメージ表現は今回実装されますか?

山内氏:はい、ダメージモデルなどは既に今回の展示しているデモにも実装されていて、見ることはできませんが、内部的にはダメージのモデルを持っています。で、天候変化についてはレーススタート前に天候を選べるというスタイルにしようと思っています。例えばレース中に雨が降ってくるとかそういったことは今回やらないと考えてます。そこの自由とクオリティーの部分はトレードオフの関係にあって、自分らの望むバランスをどこに整えるかって話だと思うんです。『GT5』や『GT6』ではダイナミックな天候変化、ダイナミックなライティングの変化をやりましたけども、それをやったことによってどういった効果があったのかということも僕らは分かってますし、一方でそれをレーススタート前にやるというある種の制約を加えることでクオリティーがどれ程変わるのかということも理解しています。今回はレース中にそういった条件を設けることで、よりビジュアル面を重視した作りになっています。やっぱり1080pと60fpsで動かしたいじゃないですか。

――では解像度は1080pで60fpsで確定ですか?

山内氏:確定と言うか、今はまだ60フレーム切っているところがありますから今後はそれを直していくようにします。僕自身はそう(1080pで60fps稼働)じゃないとゲームじゃねえだろと思っていますから(笑)

――GTスポーツはVRに対応すると言うお話ですが、開発状況やどういったコンテンツが対応されるのか教えていただけますか?

山内氏:グランツーリスモシリーズとしては過去にも3DTVにも対応していたり、あるいは『GT6』はOculusにも対応していたんですね。そういった経験としてはあるので、PSVRにしても自然に対応できると思っています。『グランツーリスモSPORT』としての全ての機能を丸ごとVR上で動かすということは技術的には可能です。それが良いのか悪いのかは今後の検討課題としてありますが。実装時期としては、ローンチには間に合わせたいと思っています。元々ドライビングゲームというものはVRと凄く相性がいいんですよね。座っていますし、コックピットビューがあるというのも酔い等に対しては有利な点です。そういったところをどう自然に表現できるかというところだと思ってます。

――レースゲームが初めての人でも遊べるということですが、例えばリワインド(巻き戻し)機能は実装されますか?

山内氏:技術的にはいつでも可能です。例えば昨日のレースでもリプレイ中にリワインドして事故が起こった現場をもう一度見せていましたよね。ですから、システムとしては既にあるので、あとはゲームデザインとしてそういったものをアーケードに入れていくのか、あるいは全体に組み入れていくのか考えている段階です。

――最後に、『グランツーリスモSPORT』の発売を待たれている方にメッセージを一言いただけますか?

山内氏:そうですね、繰り返し申し上げてきたんですが、今回の『グランツーリスモSPORT』と言うのは僕や開発チームが『GT1』以来の高揚感に包まれながら作っている最中なんですよね。毎日の中で大体8時間おきくらいに何か小さな進化が目に見えて起こっている、その度に会社の中で「凄いの出来たね!」なんて事が続いている。それが3日、4日と経つと随分と良くなってたりする、そう言う小さな奇跡みたいなことが、色々な条件が整ったことで毎日起こっているんです。それは外的な条件だけではなくポリフォニー内部の条件もあります。会社ってのは生き物のような存在ですから。僕らはいつも良い状態にあって、心から楽しみながら『グランツーリスモSPORT』を作っていますので、これはかなり良いものになると言う自信がありますから、後はそれを皆さんに届けて、皆さんと幸せを共有したい、それが『グランツーリスモSPORT』を待っていただいてる皆さんへのメッセージですね。

山内一典氏インタビュー『グランツーリスモSPORT』にかける思いとは

《パムジー》

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