【川崎大輔の流通大陸】ラオスに芽生えた自動車オークションビジネス

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ラオスで初めての自動車オークションビジネスを立ち上げた日系企業LAOCAM社の代表である大橋氏に、ラオスでの自動車ビジネスの課題と今後の展望について話を聞いた。

◆ラオスの中古車市場規模

私がラオスを初めて訪問した20年前などは首都ビエンチャンでさえも道路は舗装されておらず、3階建て以上の建物は建っていない、誤解を恐れずにいえば田舎町であった。しかし現在では舗装されて徐々に自動車の台数も増え、首都ビエンチャンの中心エリアでは朝夕のラッシュ時には渋滞もしている。

とはいえ、まだまだ新興国である。新興国においては自動車の流通システムが整備されておらず、更に統計データもないため市場を把握する情報が極端に少ない。自らの足を使ったインタビューによって市場の状況を調査する必要がある。非常に多くの労力と時間、更にはコストを費やすこととなる。このような調査によって、ラオスでの直近の年間中古車販売台数は1万5000~1万8000台ほどと推計することができた。

更に、首都ビエンチャンにおける2015年の年間中古車販売台数は、およそ6700台である。インタビューによれば中古車の平均販売価格はおよそ1万3500ドルだ。つまり、首都ビエンチャンの中古車市場規模はおよそ100億円に達し、ラオス全体の中古車市場規模は240億円となる。中古車市場の規模は年々大きくなってきている。

◆ラオスの自動車ビジネスにおける課題

2015年、LAOCAM社はラオスで会社を立ち上げ、ラオスで中古車オークションを4回開催した。ラオスで初めての自動車オークションとなる。現地でのオークションの感覚を理解し、ネットワークの構築を行いながら、先日2016年5月28日に5回目のオークションを開催し筆者もオークション会場に駆けつけ見学をした。今後はオークションの定期開催を目指す。「ラオス自動車ビジネスにおける大きな課題は、これだけの店舗がありながら市場相場の形成が全くないということ」と大橋氏は指摘する。

通常、相場がない市場でのビジネスは難しいであろうと考える。しかし、LAOCAM社は2016年のタイミングでオークションビジネスをラオスに活性化させることは、中古車業界全体のニーズを満たし、同時に明確な中古車相場を生み出す絶好の機会ととらえている。

2015年6月にだれでも出品可能なオークション(出品台数70台)を皮切りに、同年9月に新車ディーラーの下取り車両のオークション(出品台数50台)、会員制オークション(出品台数50台)を12月に2回開催している。その結果、現在ではラオスの首都ビエンチャンの新車ディーラー、中古車ディーラー、ファイナンス会社のおよそ80%とオークション会員契約を締結。規模は小さいラオス自動車市場であるが、物事は表裏一体。市場規模が小さいお陰か外資を含む大手企業の進出が鈍り、短期間で多くの企業とのネットワークを構築することを可能とした。

また、中古車の輸入が名目上ストップしている点も見逃せない。実際にはタイの隣にあるという地理的メリットを利用して、禁止にも関わらずタイから輸入し販売している業者もいるという。

◆LAOCOMとしての今後の取り組み

LAOCOMではラオスでのオークションの定期的開催を2016年の重要なポイントとして位置付けている。アセアンにおいては、現地の企業との信頼関係を築いていくことが大切だ。いきなりオークションの会員になってくれといっても難しい。先にメリットを与えながらラオスでオンリーワンのオークション企業としての立ち位置を築いていく戦略である。更にラオスで築き上げたビジネスモデルをそのまま、別のアセアンの国へ移行する予定であり、既に、次の国に向けての市場調査に入っている模様だ。

◆今後のラオス自動車市場の方向性

経済は成長してはいるが、多くの人々にとって自動車はまだ高嶺(たかね)の花である。やはり新車購入車は1部の裕福層か外国人に限られている。また、道路インフラはビエンチャンの中心から離れるとそれほど整っているとはいい難く、ピックアップトラックやSUVの人気である。特に、トヨタ『ハイラックス ヴィーゴ』は大人気だ。

一方でラオス自動車市場の大きな方向性として、「国の政策による物品税の変動で新車価格が上昇する可能性が大きい。それによって新車から中古車へとトレンドがシフトする可能性が大きい」と大橋氏は指摘する。

実際にその流れを敏感に察し中古車ディーラーの数がラオスで急激に増加傾向であるという。中古車市場が拡大すると、中古車を効率よく売る場所、更に中古車を仕入れる場所が必要とされる。1度に多くの購入希望者にアプローチでき、更に多くの車を見ることができる場所。そこに、ラオスでの中古車オークションの大きな可能性を感じる。

未だに2輪車やトラックが人々の移動手段となっていることは事実である。一方で、首都のビエンチャンではきれいに舗装された道路も増え、人々の所得の増加とともに、本格的なモータリゼーションへと向かいつつある。更にラオス語とタイ語が同系言語ということでお互いに理解でき、タイの地方都市としての市場拡大の可能性も見逃せない。

政治的にはベトナムとの結びつきも近く、タイとベトナムの間に挟まれているという地理的メリットによって、東西回路のインフラが急激に整備されてきている。タイ、ベトナムをビジネスに絡めることができる。このようなラオスでの自動車ビジネスの機会はこれから徐々に増していくと考えられる。

<川崎大輔 プロフィール>
大学卒業後、香港の会社に就職しアセアン(香港、タイ、マレーシア、シンガポール)に駐在。その後、大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年半ばより自らを「日本とアジアの架け橋代行人」と称し、Asean Plus Consulting LLCにてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。専門分野はアジア自動車市場、アジア中古車流通、アジアのアフターマーケット市場、アジアの金融市場で、アジア各国の市場に精通している。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。

《川崎 大輔》

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