徹底した自動化とプレス、塗装、レーザー加工の新技術…ホンダ先進の生産現場を見た

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立体的な生産ラインを組み合わせることで効率化を図った
立体的な生産ラインを組み合わせることで効率化を図った 全 10 枚 拡大写真

2013年7月に稼働を開始したホンダの埼玉製作所寄居工場。『フィット』や『シャトル』、『ヴェゼル』などの小型車の完成車工場としてだけでなく、生産システムの自動化をグローバルで展開するための“マザー工場”としての重要な役割も合わせ持つ、ホンダの最新鋭工場だ。

ホンダは稼働後3年にわたって工場内を非公開としてきたが、今年になって相次いでメディア関係者に公開。5月下旬には自動車系メディアに対しても工場見学会の機会が与えられることになった。当日は八郷隆弘社長も参加して意見交換まで行うほど力が入っていた。いかにホンダが寄居工場に期待しているかが窺い知れると言っていいだろう。

寄居工場は駐車場まで入れれば東京ドーム20個分という広大な敷地を持つ。そのため、見学会はバスによって移動することになった。工場は稼働してから3年しか経っていないこともあり、見る場所全てが真新しい。工場を囲む緑地が目に優しく、環境に力を入れている一端を感じ取れた。

工場の車体組み立てラインに入ると、生産ラインが縦横無尽に流れていることに否応なく気付かされる。これは1階に生産ラインを設ける中、地下には燃料タンクのような10kgを超える重量物を運ぶラインが仕組まれ、2階にはボディや周辺パーツ類が運ぶラインがつながっているから。つまり工場を三層構造とすることで効率の良い生産ラインを実現しているのだ。

この工場では、金属ロールや樹脂に至るすべての素材から、近所の小川工場で生産されているエンジンの組み付けなど、クルマが完成するまでの組み付けを含むすべてを一貫して生産できる。生産システムは徹底して自動化が図られており、これまで人が必ず介在していたシートやタイヤの組み付け、ダッシュボードといった大型のパーツは機械がすべて担当。マルチサスマウントの自動組み付けも実現しているのには驚かされた。

塗装工程も寄居工場ならではの技術が取り入れられている。従来は4層に塗装を重ねるところを、中塗り工程なしの3層とすることで、塗装ラインを短くしてCO2排出量を約40%も削減したのだ。ユーザーからすれば「大丈夫か?」と心配する声も出てきそうだが、耐候性やUV耐性をベースとなる塗装膜に加えることでこれを可能にしているのだ。

圧巻だったのはプレス加工の現場だ。工場に入ると目の前には大型のプレス機が現れ、金属をプレスする際に発生するけたたましい金属音が絶え間なく響いてくる。プレス機の隣には自動車工場として世界初という金型ラックがまるでマンションのようにそびえ立っていた。車種ごとにプレス用金型は交換する必要があるが、このシステムを使うことで数分で金型の交換作業を終えることができる。これも自動車工場では最短なのだという。

ここで見逃せないのはレーザーを使った加工技術だ。作業は全てプログラムの下でロボットが行い、ここで人が介在することはない。さらに、従来はプレスを行った後はバリ取りが欠かせなかったが、レーザー加工ならその手間を最小限にとどめることができる。車種が変わってもプログラム変更だけで対応できるのもメリットだ。くり抜いた素材は別の部品の材料として無駄なく活用できるという。

まさに最新鋭というキーワードが相応しい寄居工場だが、ここまで自動化が進むと人間は何をすればいいのかという心配も生まれてくる。八郷社長はそんな声に対して、「自動化=人員削減」の考え方よりも、むしろ「労働人口が急速に減少していく中で、自動化についてちゃんとオペレーションできる能力のある人を育てていく必要がある」とし、「自動化にこそ将来に向けたモノ作りで重要になっていく」との見解を示した。

ホンダは今、グローバルで500万台体制の確立を目指し、今後は地域専用車だけでなく世界共通で展開する車両にも力を入れていくとの方針を示している。それが生産の効率化にもつながり、資金にも余裕が生まれればホンダらしさを追求するきっかけにもなる。規模の拡大だけを追い求めるのではなく、次の世代につながる生産体制の確立をこの寄居工場から発信していく考えだ。

《会田肇》

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