【ボルボ XC90 試乗】唯一の存在になれるか、“プレミアムチャレンジャー”…井元康一郎

試乗記 輸入車
ボルボ XC90 T6 R-デザイン
ボルボ XC90 T6 R-デザイン 全 6 枚 拡大写真

ボルボが今年1月に日本市場に投入した大型クロスオーバーSUV『XC90』を短時間テストドライブする機会があったのでリポートする。

XC90はボルボの新世代プラットフォーム「スケーラブルプロダクトアーキテクチャ」採用第1号モデル。全長4950×全幅1960×全高1775mmという寸法は、欧州における乗用車のクラス分けではプレミアムGセグメントに相当するが、搭載エンジンはすべて2リットル直列4気筒と、かなり思い切ったダウンサイジングコンセプトにもとづいて作られている。

試乗車はスポーティグレードの「T6 AWD R-デザイン」とプラグインハイブリッドの「T8 ツインエンジン インスクリプション」。試乗ルートは成田空港近くの市街路、郊外路、高速道路。試乗コンディションは全区間1名乗車、エアコンAUTO、走行モードノーマル、路面ドライ。

最初に乗ったのは通常エンジン版のT6 R-デザイン。オプションとしてエアサスペンション、サンルーフ、B&Wのハイパワーオーディオなどが装備されていた。

◆時代の変化を感じさせるダウンサイズエンジン

XC90はハイブリッドでなくとも、車両重量が2tを超えるヘビー級のSUV。ルーツブロワーとターボチャージャーの2段過給器を備え、最高出力320ps、最大トルク400Nm(40.8kgm)を発生するといっても、果たして2リットル直4エンジン+8速ATというパワートレインがこの巨体をあらゆる局面でスムーズかつ力強く走らせられるのだろうか…という疑念を抱いていたのだが、結論から言えば、こんな小さいエンジンで大型SUVを走らせることができる時代になったのだな~とすっかり感心させられる出来であった。

まず驚いたのは発進のスムーズさと力強さ。スロットルを踏み込むと、いささかのためらいもなく、大柄な車体がずいっと力強く動き出す。それは2リットル過給エンジンで2t超の車体を加速させるというイメージのものではなかった。その後のギアのつながりもとても良く、混雑した成田・三里塚の市街路でも、スナッチ(ガクガクとした動き)、もたつきを感じることは一度もなかった。

ルーツブロワーが低回転から過給するとはいえ、排気量2リットルという物理的な制約からは逃れることができない。極低回転トルクが弱いエンジンで重量の大きな斜体を走らせる場合、トルクコンバーターの滑りを利用して走りやすくするのが常だ。が、ボルボはそうではなく、アイシンAW製8速ATの1速の変速比を極度に低く設定し、早期ロックアップ、およびエンジンと変速機の協調制御を頑張ることで、絶対的な排気量の小ささによるネガの解消とドライブフィールのダイレクト感を両立させるという難しい道を選択した。1時間半足らずという限定的なトリップでの体感ではあるが、その努力は大いに報われていると感じられた。

高速道路の流入路から本線車道への合流では全開加速を試してみたが、そのさいの加速力は320psという最高出力に十分以上に見合うものだった。大排気量エンジンで重量級ボディを元気に走らせるのと同等のカタルシスをドライバーに提供するだけのプレジャーは持ち合わせている。一方、エンジンサウンド、エキゾーストノートについては、軽負荷のときにはほとんど耳に届かないため気にならないが、高負荷時の音は直4そのもので、6気筒以上のエンジンが持つみっちりとしたフィールはない。

試乗時の燃費は予想をはるかに上回る数値だった。56.3kmのディスタンスを1時間21分かけて走った結果、燃費計の数値はちょうど12km/リットル。2t超の非ハイブリッドカーとしては望外の数値と言える。ちなみに三里塚での渋滞を除いた郊外路、高速道路混合のロングドライブルートでは、ドライバビリティを確かめるための意図的な加減速を含めても13km/リットル台をマークしていた。

XC90は他のボルボ車と同様、エコモードという省燃費モードを備えている。スロットルを全閉にしたときにトルクコンバーターを切断し、クルマの惰力を使ってコースティングさせることで燃費を伸ばす仕組みだ。エコモードで走れば、さらに良い燃費で走ることもできるだろう。

JC08モード燃費11.7km/リットルは昨今の欧州製クロスオーバーSUVとしては標準的な数値だが、燃費計値が正しいとすれば、実燃費はライバルに比べて優れているとみていい。このクラスのクルマを買う顧客にとって、燃料代の高い安いという金銭面はそれほどの関心事ではないであろうが、車両の効率が高いことはクルマを理知的に感じさせる。XC90の商品性をアピールできるポイントになり得ると感じられた。

パワートレイン以外のドライブフィールや快適性については、非常に良い点と改善すべき点が混在している。素晴らしいのは大型SUVとしてのクルマの動き方のチューニングが絶妙なこと。この種のモデルはロールセンターが高く、車体の揺れによる乗員の移動量も多いため、ハンドリングと乗り心地のバランスを取るのは簡単ではない。ロールを抑えようとしてサスを固くすると揺れの加速度が大きくなってヒョコヒョコとした動き強くなり、柔らかくするとぐらつきが出る。

XC90のコイルスプリング仕様は未試乗だが、エアサス装備車の場合、エアスプリング、ブッシュ、ショックアブゾーバーのフリクションバランスなどの調和が絶妙で、いかにも重量車らしいスローな揺動と正確なハンドリングが両立されていた。国産車で例えれば、現行トヨタ『アルファード』のゆったり感とレクサス『NX Fスポーツ』の俊敏さを併せ持つようなフィーリングだった。プレミアムセグメントの中でもかなり良い方にランクされる味である。

◆プレミアムセグメントならではの改善点も

乗り心地も基本的にはとても良い。静粛性も高く、気持ち良いクルーズを楽しめる。が、XC90はクラスとしてはメルセデスベンツ『GLS』やランドローバー『レンジローバー』などのプレステージSUVのすぐ下に位置するモデルで、乗り心地は良くて当然である。その基準で見ると、明確に改善すべきポイントがある。細かいうねりが連続するような路面を通過するときのぶるつきだ。

その揺れのレベルは絶対的には小さいもので、ノンプレミアムだったら問題にするレベルではない。が、プレミアムセグメントの上位というポジションとしてオーナーを満足させるのであれば、路面の変化をシート、ステアリングからのかすかな振動や音で伝えながら、ボディそのものは完全な水平移動を保ち、ホイールのストロークだけで物理的入力で吸収するようなフィールが欲しい。そうなれば、舗装の荒れた田舎道を走っている時も低反発ジェルのようにねっとりとした乗り味になるだろう。

同クラスのライバルを見渡しても、それができていないモデルもたくさんあるのだが、ボルボはトヨタのレクサスと同様、プレミアムセグメントにおいてはチャレンジャーの立場。ブランドを確固たるものにするためには、そういう味付けについて完璧を期したいところだ。そうなれば、先進安全システムを多数持つこと、簡素にして品の良いインテリアといったボルボの特質がより生きるのではないかと思われた。

総じてXC90 R-デザインは、オプションのエアサスやB&W製プレミアムサウンドシステム込みで900万円台という価格帯のクルマとしては、十分に良い出来のクルマだった。同価格帯でフル7シーターのライバルは少なく、ニッチ性も確保されている。安全思想も進んでおり、道路を逸脱して土手から転落したときに縦方向のGで頚椎に致命傷を負うのを回避するため、ジェット戦闘機の緊急脱出装置を参考にしたシート構造を採用するといった、スペックに表れない工夫が随所に盛り込まれている。ライバルとなりそうなのは7シーターを選択可能という観点ではアウディ『Q7』、ランドローバー『レンジローバースポーツ』、5人乗りに視野を広げるとBMW『X5』、同『X6』、メルセデスベンツ『GLE』あたりも競合するだろう。

■5つ星評価(プレミアムEセグメント基準)
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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