【池原照雄の単眼複眼】出発点は「謙虚」…マツダの新しい走り「G-ベクタリング」

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マツダ アクセラ 改良新型
マツダ アクセラ 改良新型 全 4 枚 拡大写真

エンジンでシャシー性能を高めるという発想

マツダが車両運動の制御技術である「G-ベクタリング コントロール」(GVC)を7月14日に大幅改良して発売した『アクセラ』に搭載した。エンジンの駆動トルクを変化させることにより、車両の挙動をスムーズにするという世界初の技術だ。試乗してみると、コーナリングなどでこちらの意図に素直に反応し、ちょっぴり運転がうまくなったように感じた。ディーゼルエンジンなどで独創技術が相次ぐマツダだが、この技術も完成までの経緯が面白い。

GVCについてマツダは「エンジンでシャシー性能を高める」と謳っている。ハンドルの操作に応じてエンジンの駆動トルクを弱めたり、強めたりすることで車両の横方向と前後方向のG(=加速度)を統合制御し、車両の応答性や乗り心地を良くするのだ。

たとえば、カーブに差し掛かってハンドルを切り始めると瞬時にエンジンのトルクを小さくし、わずかに車両を減速させる。ハンドルの舵角が一定になると直ちにトルクを回復させ、安定性を高めるようにする。乗り心地が良いと感じるのは、乗員にかかるGの変化が滑らかになるためだ。また、エンジンの駆動トルクの変化はごくわずかなので、運転していてその変化を感じることもなかった。

「つんのめり」の原理を提案した日立オートモティブ

首都高速を含む横浜市での試乗に同乗してくれた車両開発推進部の斎藤茂樹副主査が、GVCを平易に説明してくれた。コーナリングでクルマを安定して走らせるには、「カーブの入り口で前輪に荷重を移動させ、ややつんのめるような挙動にした方がよい」のだという。GVCではハンドルの切り始めをセンサーで拾い、エンジンの駆動トルクを小さくして「つんのめり」の状態にする。

実はこうした挙動制御の原理は、外部の部品メーカーからもたらされたものだ。日立製作所の自動車部門である日立オートモティブシステムズ(東京都千代田区)である。同社の前身の1社である「トキコ」の技術者のアイデアに基づくのだそうだ。トキコは自動車部品業界に詳しい人やレース好きの人には懐かしい社名だろう。ショックアブソーバーやブレーキシステムの専門メーカーであり、2004年に日立と合併している。

マツダのGVCは、この日立オートモティブが有する「G-Vectoring」というアルゴリズム(=制御手法)を応用して完成した。マツダ関係者によると、日立オートモティブのアルゴリズムは多くのに自動車メーカーに提案されたそうだ。しかし、現時点で実用化まで漕ぎつけたのは1社のみとなっている。

そのマツダも、すんなりと完成させたわけではなかった。当初、「つんのめり」状態を起こすのはブレーキの制御で試みた。しかし、細かな制御が難しく、ブレーキが効きすぎてうまくいかなかったそうだ。そこで、エンジンの駆動トルクによる制御に切り換えていった。

制御ソフトはわずか5キロバイト

マツダは2011年から「SKYACTIV」による新エンジンシリーズの製品化を進めており、この際に燃焼を高度に制御する技術を導入したことがGVCの開発とうまくマッチした。斎藤氏によると「SKYACTIV以前の当社のエンジンだと、うまくトルク制御ができなかった」という。このほかにも、全段をロックアップする6速AT(自動変速機)や、全後輪への荷重移動がしなやかにできるサスペンションなど「SKYACTIVシリーズとして刷新されたコンポーネンツの集合によってGVCは完成」(斎藤氏)となった。

コスト面もGVCの強みだ。エンジンのトルク制御に反映する基本要素は、ハンドル操作(舵角)と車速だが、これらのセンサーはいずれも今のクルマには備わっている。新たに必要だったのは制御ソフトであり、それもわずか5k(キロ)バイトほどの容量だという。ちなみに同社のエンジン本体の制御ソフトは2G(ギガ)程度となっている。今回、GVCを全車に標準搭載した新アクセラの価格が、実質据え置きとなったのも、そうお金のかからない技術だからだ。

原田裕司専務執行役員はGVCの実用化について「当社のように小さい会社で、開発部門間の垣根が低かったからこそできた」と見ている。確かに、エンジンや操舵、シャシーといった各分野の技術者が容易に交流できないような企業だと難しいだろう。さらに、外部からの技術提案にも眼を開くという、謙虚さも成功へのベースとなっている。

《池原照雄》

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