【ジャガー F-PACE 試乗】同セグメントのベストSUVの1台「ただし…」…中村孝仁

試乗記 輸入車
ジャガー F-PACE S
ジャガー F-PACE S 全 21 枚 拡大写真

ジャガーは今、ブランドの変革を遂げている真っ最中だそうである。曰く旧来のイメージから脱却して、自らをパフォーマンスブランドと位置付けるということだという。では、旧来のイメージとは何か。そして新たなパフォーマンスブランドとしてどのように変革を遂げていくのか、実は非常に興味深い。

確かにこれまでのジャガーは上品さの滲み出た『XJ』に代表される、どちらかといえば爺臭い(失礼)イメージがあった。それと紳士のクルマ、というイメージも。メーカー的には簡単に言えば若返らせようとしているのだと思うのだが、敢えて反論させてもらうと、昔からジャガーにはパフォーマンスイメージがあった。そうでなくてはルマンで何度も優勝できるはずがない。要は効率的な宣伝をしていなかっただけ…そんな気がするのである。

それに旧型XJの時代だって、「R」の文字が付いたモデルは十分にパフォーマンスモデルとしての素養を持っていた。これも世間が付けたイメージに打ち勝つことが出来なかっただけ…のような気がするわけで、パフォーマンスブランドとして変革…といわれても正直なところ姿こそ変わったけれど、ジャガーの本質は何も変わっていないと思うわけである。

前置きが長くなったが、ジャガーにとって初のSUVとなる『F-PACE』、傘下にランドローバーという、SUVだけで生きているブランドがあるので、さぞや作りづらかったろうし、個性を出すのに苦労をしたのではないかと思う。仮想敵はポルシェ・『マカン』、BMW『X4』、アウディ『Q5』など。これを聞いた時、一瞬えっ?って思った。『カイエン』だったり、『X5』じゃないんだ。と思ったからである。

家に帰って諸元を調べてみると、確かにF-PACEはカイエンやX5より小さい。しかしかといってマカンやX4よりは大きく、仮想敵としているモデルの中ではホイールベースが一番長く、当然室内空間も広い。まさしく間隙をぬったクルマ作りがされている。というわけで当然傘下の『レンジローバー』よりは小さく、例えば『ディスカバリースポーツ』などよりは大きい。

最近ランドローバーでもスポーツ色を強めたモデルを出しているが、その点ではとてもジャガーに及ばない。それに、ジャガーのラインナップもうまいことやっている。ラグジュアリー系のモデルはすべて2リットルインジニウムターボディーゼルで、スポーツ系はすべて3リットルV6スーパーチャージドガソリンと棲み分けている。しかし、乗ってみてわかったことは、このスポーツ系でも十分にラグジュアリーパフォーマンス系のモデルとして分類できるということだった。

今回試乗したのはガソリン仕様のトップグレード「S」と呼ばれるモデルで、最強の380psを発揮するガソリンV6エンジンを積む。各操作系はすべて『XE』から始まるジャガーセダンと共通だから、ジャガーを知る人には極めてわかり易い。つまり乗り換えも楽…である。スポーツ系を謳うだけあり、V6サウンドは明確に室内に入り込んでくる。その点静粛性を求めたいユーザーには少し気がかりかもしれないが、個人的には快音であったから十分に許せる。

タイトルに同セグメントのベストSUVの1台と書いた。それは、380psのパフォーマンスもさることながら、そのマナーの良さと快適さ、そしてまさに路面に吸い付いたような接地感の高さなどが、このセグメントではベストだと思えたからである。とりわけハーシュネスの遮断の高さはピカイチ。それにフラット感のある乗り心地も、正直他の追従を許さない。ハンドリングではポルシェ・マカンといい勝負と思えたが、マカンにはこれほどのハーシュネス遮断性の高さは持ち合わせていないし、乗り心地もここまで高いレベルにはない。ただ、「ただし…」とした。その理由が明らかになったのは、他の同業者から聞いた「Rスポーツ」に対する評価からだった。

この最上級車種Sにはアダプティブダイナミクスと呼ばれる、いわゆる可変ダンパーが標準装備されているのだが、Rスポーツにはそれがなく、コンフィギュラブルダイナミクスという『Fタイプ』譲りのサスペンションが装備される。しかもRスポーツのサスペンションセッティングはF-PACEの中では最もハードなのである。実はこの違いが大きかったのだ。

このアダプティブダイナミクスが付いた足は、抜群の接地感とフラット感、それに高いNVHの遮断性をもたらしている。これ、どのグレードでもセットオプションで20万円ほどで選べる。もしF-PACEを買うならば、何をおいてもこのアダプティブダイナミクスのオプションをチョイスすることをお勧めする。実はあとからこれの付いていないモデルに試乗して、ああやっぱり…となった。同じ道を走って路面がまるで違うサーフェスに感じるほど顕著な違いを見せてくれる。路面が荒れれば荒れるほど、その違いは大きい。

ただしの理由はここにある。勇ましい音を除けば、F-PACEのSは、パフォーマンス系としても、またラグジャリー系としても使える万能のSUVだ。それに使い勝手の高さも相当なものと感じられた。

■5つ星評価
パッケージング ★★★★★
インテリア居住性 ★★★★★
パワーソース ★★★★★
フットワーク ★★★★★
おすすめ度 ★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来38年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。

《中村 孝仁》

中村 孝仁

中村孝仁(なかむらたかひと)|AJAJ会員 1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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