【トヨタ プリウスPHV 試乗】今度は目論見通りのクルマに…中村孝仁

試乗記 国産車
トヨタ プリウスPHV 新型
トヨタ プリウスPHV 新型 全 16 枚 拡大写真

まだ発売前ということで、試乗はサーキットということになったが、新しい『プリウスPHV』は、ほぼトヨタの目論見通りに仕上がっている印象を受けた。

先代のプリウスPHVは、EV走行が26.4kmしかできなかった。公表数値だから、エアコンを効かせたり、ライトやワイパー等の電気を使う装備を使った通常走行でこれを達成することはできず、大まかに7割程度というのが想定される走行可能距離だそうだが、そうすると、20kmにも届かない。このクルマの開発当初は、多量のバッテリーを搭載して距離を延ばすことに抵抗感があって前述のような距離となったわけだが、いざ蓋を開けると周囲のライバル車は軒並み倍近い、あるいはそれ以上のEV走行を可能にして、トヨタは苦戦を強いられた。

それだけではない。ボディも内装もほぼほぼ既存のHVと同じで差別化がほとんどできないところも、ユーザーには響かなかった。豊島CE(チーフエンジニア)はそれを薄味と評したが、新しいPHVはグルメも納得のモデルに仕上がっているように思う。

まず、EV走行は60kmが可能。7割ルールを当てはめても42km。他の多くのPHVを凌ぐ。バッテリーは先代の2倍搭載する。次に内外装を含むボディ。エクステリアでは前後の意匠をHVとは大きく変え、ヘッドライトは『ミライ』と同じ形状のLED。しかもミライにはなかったアダプティブシステムを組み込んでいる。リアエンドもダブルバブルのウィンド形状や、テールゲートを取り囲むように装備されるリアコンビランプなど、一目でHVとは異なるモデルであることがわかる。

それだけではない。前後オーバーハングでそれぞれ25mm、80mm伸びて、全長が+105mmの4645mmとなっている。その背景はリアオーバーハングについてはバッテリー搭載の影響。フロントについてはクラッシュセーフティーの影響という説明を受けたが、いずれにしてもHVとの明確な差別化は嬉しい。インテリアもHVとは大きく異なる。目に飛び込んで最もわかり易いのがダッシュセンターの鎮座する11.6インチ、アスペクト比16:9の縦長ディスプレイだ。ナビを縦に使って表示すると、その大きさを実感できる。ネガ要素がないわけではなく、DVDなど横長の画面を反映させたい場合は小さな画面でしか見れないところだが、そんなことは大きな問題ではないように思えた。

余談だが、ダブルバブルの新しいウィンドーを持つバックドアのフレームはカーボンファイバー製。てっきり重心高が下がったと思いきや、バッテリー搭載位置が少し高い関係で、HVよりも若干高いのだそうだ。

サーキットでしか走れないからといって、飛ばして走るのは馬鹿げているので、40~100km/h程度の実用域の速度レンジを試してみた。HVと同じだがやはり感心するのはTNGAの骨格の良さである。ドシッとした安定感に加え、舐めるように路面を捉えていくスムーズな動きは先代とは正直比較にならない。

2台の異なる車両に乗れ、それぞれサイズは同じながら、銘柄の異なるタイヤで試乗。1台はダンロップのエナセーブ、もう1台はブリジストンのエコピアである。性能的には両方ともほぼ同一といってよいと思う。個人的には静粛性が高く、僅かではあるがターンイン、ターンアウトでスキール音の少ないエナセーブが好みであったが、クルマをより自由に動かそうと思うと、エコピアに軍配が上がるような印象だった。

車両は満充電の状態だったから、新たに設定されたチャージモードを使うことはできなかったが、このチャージモードの存在によって、極端な話、家庭に充電施設を作る必要はない。特に今回は100V6A、即ち家庭用コンセントでも充電が可能となっているので、敢えて200V動力電源に高い金を払う必要はないわけである。

EV走行が大幅に拡大し、しかもエコ、ノーマル、パワーの各モードが装備されるEVの走りは、かなりパワフル。聞くところによると先代のパワーモードと、今回のノーマルノードは同じような加速感だそうだ。加速が鋭くなった背景には、新たなデュアルモーターの存在がある。これまでジェネレーターとしてのみ活躍していてたモーターが、ワンウェイクラッチを介することで駆動用としても使えるようになったことが大きい。しかもこのワンウェイクラッチ、何とフライホイールの内側に組み込んで有り、従来のパワーユニットコントロールのケーシングがそのまま使えるというメリットもある。

かなり自由に加減速の出来るサーキットだから、各モードでのフルパワーを試してみたところ、エコモードは特にパーシャルからの加速が明らかに緩慢であるのに対し、ノーマルとパワーは非常に鋭い。電費もノーマルモードで測定しているそうだから、果たしてエコモードが必要なのか?と思ってしまったほどである。HVモードで敢えてエンジンもかけてみた。室内に届くノイズは非常に限定的で、HVプリウスと比較試乗してみたが、この点でもPHVの方が上回っている印象を受けた。今回の最大の特徴は、200Vは言うに及ばず、100V6A、さらにクィックチャージ、果てはソーラー充電と多様な充電方法が使えることで、充電を意識する必要のないモデルに仕上がっている点だと思う。

価格は発表されておらず、どの程度高くなるか不明だが、個人的にはPHVがデザインも含めて好みである。一つ付け加えておくことがある。新しいPHVには世界初のソーラー充電システムがオプション設定される。平均的に晴天時に2.9km走行分の充電が可能ということで、単純計算なら年間1000km走行分をソーラーで賄うことのできる計算だ。しかもかなり軽いというから、ルーフに載せても重心高が上がる心配もほとんどない。PHV普及の急先鋒となること間違いなしである。

■5つ星評価
パッケージング ★★★★
インテリア居住性 ★★★★
パワーソース ★★★★★
フットワーク ★★★★
おすすめ度 ★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来38年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。

《中村 孝仁》

中村 孝仁

中村孝仁(なかむらたかひと)|AJAJ会員 1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

+ 続きを読む

【注目の記事】[PR]

ピックアップ

教えて!はじめてEV

アクセスランキング

  1. 「やっと日本仕様が見れるのか」新世代ワーゲンバス『ID. Buzz』ついに上陸! 気になるのはサイズ?価格?
  2. 最後のフォードエンジン搭載ケータハム、「セブン 310アンコール」発表
  3. 高機能ヘルメットスタンド、梅雨・湿気から解放する乾燥ファン搭載でMakuake登場
  4. 船上で水素を製造できる「エナジー・オブザーバー」が9年間の航海へ
  5. 「三菱っぽくないけどカッコいい」ルノーの兄弟車となる『エクリプス クロス』次期型デザインに反響
ランキングをもっと見る

ブックマークランキング

  1. 米国EV市場の課題と消費者意識、充電インフラが最大の懸念…J.D.パワー調査
  2. 低速の自動運転遠隔サポートシステム、日本主導で国際規格が世界初制定
  3. 「やっと日本仕様が見れるのか」新世代ワーゲンバス『ID. Buzz』ついに上陸! 気になるのはサイズ?価格?
  4. BYD、認定中古車にも「10年30万km」バッテリーSoH保証適用
  5. 「あれはなんだ?」BYDが“軽EV”を作る気になった会長の一言
ランキングをもっと見る